片垸(かたもひ)

思い遣るすべの知らねば片垸(かたもひ)の底にぞ我(あ)れは恋ひ成りにける(粟田女娘子) の、 片垸(かたもひ)、 は、 土製の蓋なしの椀、水飲み用、 で、 片思いをかける、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 かたもひ(かたもい)、 は、 片椀、 片垸、 と当て、 「片」は不完全の意、 とされ(岩波古語辞典・精…

続きを読む

はねかづら

はねかづら今する妹を夢(いめ)に見て心のうちに恋わたるかも(大伴家持) 波禰蘰(ハネかづら)今する妹をうら若みいざ率河(いざかは)の音の清(さや)けさ(万葉集) の、 はねかづら、 は、 羽根鬘、 葉根蘰、 と当て(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、 羽毛でつくった髪飾りか、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)が、また、 ショウブの葉・根など…

続きを読む

はつはつに

はつはつに人を相見ていかにあらむいづれの日にかまた外(よそ)に見む(河内百枝娘子) この山の黄葉(もみぢ)の下(した)の花を我(わ)れはつはつに見てなほ恋ひにけり(万葉集) の、 はつはつに、 は、 ちらりと、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 はつはつ、 は、 はつか、 はつ(初)、 と同根、 とあり(岩波古語辞典・精選版…

続きを読む

アフォーダンスな視界

J・J・ギブソン(古崎敬訳)『生態学的視覚論―ヒトの知覚世界を探る』を読む。 ギブソンは、 アフォーダンス(affordance)、 という概念を提唱している。 「すり抜けられるすき間」、「登れる桜」、「つかめる距離」はアフォーダンスである。アフォーダンスとは、環境が動物に提供する「価値」のことである、 と、動物から見える環境の価値表現と言っていい。ギブ…

続きを読む

しくしく

春日野に朝居(ゐ)る雲のしくしくに我(あ)れは恋ひ増す月に日に異(け)に(大伴像(かた)見) 春雨のしくしく降るに高円(たかまど)の山の桜はいかにかあるらむ(河辺東人) の、 しくしく、 は、 しきりに、 の意で、 上二句は序、しくしくを起こす、 とあり、 月に日に異(け)に、 は、 月日が経つにつれてだんだんと、 と訳され…

続きを読む

うはへなし

うはへなき妹にもあるかもかくばかり人の心を尽(つく)さく思へば(大伴家持) の、 うはへなき、 は、 かわいげのない、 と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 うはへなし(うわえなし)、 は、 無情、 とも当て(大言海)、 上重(ウハヘ)なしにて、露骨(ムキダシ)なる意にもあるか、 とあり(仝上)、 愛想がない、 すげな…

続きを読む

目言(めこと)

海山も隔たらなくに何しかも目言(めこと)をだにもここだ乏(とも)しき(大伴坂上郎女) の、 目言、 は、 目で語りかけること、 で、 目配せする機会さえも、 と訳される(伊藤博訳注『新版万葉集』)。なお、 こごた、 は、 は、 幾許、 と当て、 こんなに多く、 こんなに甚だしく、 の意、 ここだく、 …

続きを読む

ねもころに

思ふらむ人にあらなくにねもころに心尽して恋ふる我(あ)れかも(大伴家持) の、 ねもころ、 は、 ただひたすらに思い詰めて、 と訳される(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 ねもころ、 は、 懇、 と当て、 ねんごろ、 の古い形(精選版日本国語大辞典)で、後に、 ねもごろ、 とも変ずる(仝上)。今日使う、 ねんごろ…

続きを読む

息の緒

なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒にして我(あ)れ恋ひめやも(大伴家持)、 の、 息の緒、 は、 緒のように長く続く息、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 息の緒にして、 は、 命がけで、 と訳す(仝上)。 息の緒、 は、 生の緒、 とも当て、 息の長く続くことを緒にたとえた語で、 いのち、 …

続きを読む

けだしくも

けだしくも人の中言(なかごと)聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ(大伴家持) の、 けだしくも、 は、 ひょっとしたら、 と訳し、 中言、 は、 中傷、 と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 中言(なかごと)、 についてはで触れた。 けだしくも、 は、 蓋しくも、 と当て、 副詞「けだしく」+係…

続きを読む

けだしくも

けだしくも人の中言(なかごと)聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ(大伴家持) の、 けだしくも、 は、 ひょっとしたら、 と訳し、 中言、 は、 中傷、 と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 中言(なかごと)、 についてはで触れた。 けだしくも、 は、 蓋しくも、 と当て、 副詞「けだしく」+係…

続きを読む

たまきはる

直(ただに)逢ひて見てばのみこそたまきはる命に向(むか)ふ我(あ)が恋やまめ(中臣郎女) の、 命に向ふ、 は、 命を的にする、 命がけの、 の意とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 たまきはる、 は、 魂極る、 玉極る、 霊極る、 魂剋る、 玉きはる、 魂きはる、 などと当て(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・大言海)、こ…

続きを読む

わた

海(わた)の底奥(おき)を深めて我(あ)が思へる君には遭はむ年は経ぬとも(中臣郎女) の、 わた、 は、 奥(心の底)の枕詞、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 わた、 は、 わたのはら(海の原)、 海(わた)の底、 わたつみ(海神)、 わたなか(海中)、 わたつうみ(海)、 等々と使い、 わたつうみ、 うみ、 …

続きを読む

しつたまき

しつたまき数にもあらぬ命もて何かここだく我(あ)が恋ひわたる(安倍虫麻呂) の、 ここだく、 は、 許多(ここだ)く、 幾許く、 と当て、 ここだ(幾許)、 は、 こんなに数多く、 こんなに甚だしく、 の意で、 ココダに副詞を作る語尾ク、 のついた副詞、 ここだ(幾許)く、 も、同じ意味になる(伊藤博訳注『新版…

続きを読む

月読(つくよみ)

月読(つくよみ)の光に来(き)ませあしひきの山きへなりて遠からなくに(湯原王) の、 月読、 は、 月を神に見立てた呼名、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 山きへなりて、 は、 山が隔てとなった遠いみちのりでもないのに、 と訳し、 き、 は、 不明、 とする(仝上)。 つくよみ、 は、 つき…

続きを読む

山橘(やまたちばな)

あしひきの山橘(やまたちばな)の色に出でよ語らひ継ぎて逢ふこともあらむ(春日王) の、 山橘、 は、 やぶこうじ、 とあり、 上二句は序、「色に出づ」を起こす、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 序、 は、 あることばを導き出すためにその前に置く修飾のことば、 で、 序詞、 ともいう(精選版日本国語大辞典)。 …

続きを読む

中言(なかごと)

汝(な)と我(あ)を人ぞ離(さ)くなるいで我(あ)が君人の中言(なかごと)聞きこすなゆめ(大伴坂上郎女) の、 聞きこすなゆめ、 は、 耳を貸してくださるな、決して、 と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 こす、 は、 下手に出て希求する意、 とある(仝上)。 こす、 は、上代の特殊活用の、 こせ・〇・こす・〇・〇・こそ…

続きを読む

しゑや

あらかじめ人言(ひとごと)繁(しげ)しかくあらばしゑや我(わ)が背子奥もいかにあらめ(大伴坂上郎女) の、 しゑや、 は、 ちぇ、 ああしゃくだ、 の、感嘆詞、 奥、 は、 将来、 の意(伊藤博訳注『新版万葉集』)とある。 しゑや、 は、 よしゑむやしの略、 ともある(大言海)が、 シもヱもヤも感動詞、 …

続きを読む

はねず

思はじと言ひてしものをはねず色のうつろひやすき我(あ)が心かも(大伴坂上郎女) の、 はねず色、 の、 はねず、 は、 にわうめ、か、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 うつろひやすき、 の枕詞とある(仝上)。 (ニワウメ https://ikbird.sakura.ne.jp/4na/niwaume/niwaume.htm…

続きを読む

をそろ

相見ては月も経(へ)なくに戀ふと言はばをそろと我(あ)れを思ほさむかも(大伴駿河麻呂) の、 をそろ、 は、 おそ、 は、 軽率、 ろ、 は接尾語、とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 おそろ、 は、 「おそ(軽率)」に接尾辞「ろ」の付いた語(広辞苑)、 ロは助辞、ヲソ(虚言)と云ふに同じ(大言海)、 「ろ」は接尾語、軽率…

続きを読む