2012年11月13日

老化とともに幸福感が強まる?~『脳には妙なクセがある』から


池谷祐二『脳には奇妙なクセがある』について


正直いって,本書は,『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な私』やアントニオ・R・ダマシオ『生存する脳』に比べると,焦点が一点に収斂していないせいで,読むほどに脳が沸騰するという体験はしなかったが,反面連載したものをまとめたという性格もあり,多様な脳に関する最新研究情報をもらったという印象が強い。一回ではもったいない気がするので,何回かに分けて,受け止めたものをまとめてみたい。

全体の印象として最も興味を惹かれたのは,最新の脳研究の最前線での結論もさることながら,仮説を検証するための様々な実験の工夫だ。仮説か問題意識かを確かめるために,研究者が知恵を絞っていろんな実験を工夫をしている様子が,なかなか興味深い。それは,たぶん成功した例しか出ていないので,死屍累々,様々な失敗の累積の上に,この成果があるのだろうと想像してみると面白い。いかに問題意識が最先鋭でも,それを現実に着地させて,どういう実験をすればそれが確かめられるかの発想がなければ役に立たないというのは,われわれの世界でも,どんな理屈も問題意識も,現実に検証しなくては何の価値もない。その意味ではまったく同じことが言えるのかもしれない。

今回は老化を巡ってそんなことで,自分の関心を惹いたものから拾ってみたい。

運動と学力の相関について,反復シャトル走と科目別の相関を調べた例がある。その運動能力の成績と算数が最も相関し,48%,国語読解力についても,40%もの一致率を示したという。読書の内容を理解するときは,脳の前頭前野や帯状野が活性化し,計算に際しては,頭頂間溝が活性化する。この領域は有酸素運動の時活動する部位なのだという。つまり,脳の老化は,体の老化に付随しているのではないか,というわけである。それはよくわかる。集中力や思考を持続するには猛烈な体力を必要とするのだから,そして,そもそも脳も肉体なのであり,日頃の鍛錬が必要なのは,足腰だけではないのかもしれない。

ところで,加齢はあまりいいイメージはないが,アメリカの調査では,人生に対する幸福感が,U字曲線を描く。4,50代が底で,そこから上昇する,という。そのことは脳の活動パターンからも,20歳前後と55歳以上の対比で,若者がマイナスに強く反応するネガティブバイアスを持つのに対して,年配者は年とともに,ネガティブバイアスが減って,プラス面に強く反応する,という。それも,伴侶を失ったり,重病を患ったりした経験のある人ほど,ネガティブバイアスは弱い,という。
穏やかでにこにこしている年寄りが多いというのは,いいことかもしれない。またいい社会なのかもしれないが,反面歳と共に悪い感情が減っていくということは,リスク管理に難があるということを意味する。振り込め詐欺が,これだけ周囲で厳しい制約を設けても,一向減らないのは,ある意味で,そこにいい面しか見ない,という老人特有の心理傾向が反映しているのかもしれない。とするといま取り組んでいるような社会的な対応では,老人の幸福感を動かす力がない,ということになる。後からもちろん後悔するかもしれないが,その相手にさほどの悪感情をもたないのかもしれない。本当か?

夢を描くことで夢は実現するということをいうが,それは未来を想像するときに活性化する前運動野があり,それは体の運動をプログラミングする部位でもある。体の動きが未来のイメージと関係がある,という。さらに未来をいきいき想像するには,海馬が活動する。だから,海馬が老化すると,生き生き未来を描けなくなる,というわけである。脳がふけると,夢が持てなくなる,のか?

高齢者のうつ病が増えている。うつ病の四割が60歳以上なのだという。確かに年齢とともに,寝ていても,昔ほど夢も見ない。幸せ感かどうか現状に安らげば,未来(そんなに先は長くないが)を夢見る必要性もない。心穏やで安定していれば,脳への刺激が減って,痴呆はともかく,うつというのはイメージしにくい。そのせいか,老人性うつは,薬で治る率が高い。で,池谷さんはこういう。

「心境の変化というよりも,むしろ生物学的変化が引き金になっている可能性が高いのだと思います。神経伝達物質の減少という器質的な変化です。」

さて,そこで,だ。では運動すれば,その伝達物質の減少が止められるのか,だ。アメリカ保険福祉省は,一日30分の運動を勧めている。しかし74%はそれを満たしていないそうだ。
もうひとつは,我々が選択行動をとるとき,損得比較をする眼窩前頭皮質であり,他にどんな可能性があるかを調べようとするのは前頭極皮質。いわば「情報利用」と「情報収集」のバランスを取って選択するように,脳の機能上なっている。しかし老化とともに,収集型であることをやめ,身近な人との会話だけで一日が終わってしまう傾向が強い。その意味で,様々な情報にアクセスするために,人とモノとコトとかかわることで,前頭極皮質を活性化する,ということが必要のようだ。
それは老人に限った話ではない。痴ほう症にならない三条件というのがある。①有酸素運動,②メタボにならない,③コミュニケーション,という。コミュニケーションというのは通信,交流,会話という意味も含める。いつもの人ではなく,いろんな人との会話が,脳を刺激するようだ。やはり,体力が肝心だ。



今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm



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posted by Toshi at 09:05| Comment(36) | 書評 | 更新情報をチェックする