2012年11月14日

コミュニケーションにかかわる脳の機能~『脳には奇妙なクセがある』からⅡ


引き続き,池谷祐二『脳には奇妙なクセがある』について


かつてコミュニケーションを拒絶されたと受け止めると,脳にとっての衝撃は,実際に殴られたのと同じだといわれていると,読んだことがあるが,例えばこんな実験がある。

三人でバレーボールの練習をしている。初めは三人でボールを回しているが,そのうち被験者にボールが回らなくなる。自分以外は目の前で楽しく遊んでいるのをながめている,そんなのけ者状態にされた,心の痛んだ状態のとき,脳はどう反応するのか。仲間外れにされたその時,大脳皮質の一部である,前帯状皮質が活動する。前帯状皮質の活動が強い人ほど,強い孤立感を味わったという。

この部位は身体の痛みの嫌悪感に関係する。手足の痛むときに活動する部位が,心が痛むときにも活動する。このことについて,池谷さんは,こう書いている。

ヒトは社会的動物です。社会から孤立してしまっては,生きていくのがむずかしいでしょう。ですから,自分が除け者にされているかどうかを,敏感にモニターする必要があります。そのための社会監視システムとして,痛みの神経回路を使いまわすとは,見事な発明であったと言ってよいでしょう。

そこからこんなことを仮説として出している。

一見抽象的にも思えるヒトの高度な思考は,体の運動から派生している。

進化をさかのぼれば,動物は身体運動を行い,そのために筋肉と神経系を発明し,高速の電気信号を用いて,素早く運動を行おうとし,この神経系をさらに効率的に発達させた集積回路が脳,だというわけです。しかし,脳はさらに進化して,身体を省略することをする。

脳の構造で言えば,脳幹や小脳,基底核は進化的に古く,身体と深い関係がある。そうした旧脳の上に,大脳新皮質がある。大脳新皮質は,当初は,旧脳を円滑に動かす促進器であったのが,脳が大きくなるにつれて,大脳新皮質が大多数を占めるようになると,機能の逆転が起き,「ヒトの脳では,この臨界点を超え,大脳新皮質による下剋上がおきている」と池谷さんは推測する。

だから,大脳新皮質が主導権をもつヒトの脳では,身体を省略したがる。つまり,身体運動や身体感覚が内面化されることによって,脳は,「身体から感覚を仕入れて,身体へ運動として返す。身体の運動は,ふたたび,身体感覚として脳に返って」くる,そのループを,身体を省略して,「脳内だけで情報ループを済ませる」ようになる。この「演算行為こそが,いわゆる『考える』ということ」だと,推測する。その結果の,上記の心の痛みと体の痛みの共用ということが起きる。

そういうところが,言葉を使う面でもあらわれる。例えば,ひとに対して,「お前は何々だ」とラべリングするのも,相手の身体運動や行動癖を言葉によってラべリングすることで,感覚や身体運動を,脳内だけで完結していることだというのです。「時間にルーズだから遅刻する」というラベルは,よく遅刻する身体運動の頻度から,脳内でラベルづけしただけだ,という。脳内で自己完結して,理解したつもりになる,ということらしい。かつて「あなたは過去に蓋をしている」と言われたことがあるが,それは僕が,相手には何かを隠しているような不思議な印象を持ち,その理解をラベルづけでわかった気になろうとした,いわば脳の自己防衛反応だったと考えれば,なんとなく相手の気持ちもわかる。もっとも「蓋をしている自分」に気づかないだけだと言われれば,仕方がないが…。

言葉というのは,脳が誕生して5億年を1年の暦に置き換えると,大晦日の夜10時以降,というほど最近なのだが,
言語が逆に,我々の感覚を左右している。こんな例を挙げている。

青と緑の中間色を見た時,言葉でどう表現しようかと苦心する。メキシコ北部のタマフマラ語では,これに対応する言語がある。ロシア語圏でも,「明るい青」と「暗い青」に相当する単語を別々に持っていて,両者を素早く区別する。つまり,語彙の有無が認識力を左右している。さらに推し進めて,「自分や他人の感情に気づくことができるのも,言語を持っているから」だと研究結果が出ている。

このことから,敷衍すると,例のウィトゲンシュタインの言う,人は持っている言語によって,見える世界が違うというのは,脳的にもあたっていることになるらしいのだ。

ここで実感を書くと,実は老化とともに,身体が衰える。衰えることで,脳内で自己完結した思考は,貧弱になっていく気がする。なんたって健康な身体があるからこそ,脳内だけでの代用が可能だったからだ。で,ある年齢になると,身体を思い出す。必ずしも,健康管理のためだけではなく,脳の自己防衛のために,だ。何せ,意志する何十ミリ秒前には,意志させるよう脳が働き出しているのだから,意識は健康のためと思っているが,実は脳は自分の自己完結を強化しようとしているだけなのかもしれない。

そのせいか,最近身体や身体の感覚に妙に惹かれる。これも脳の自己防衛と考えるれば,それに従わないと,ぼけてしまうかもしれない。やばい!



今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm





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posted by Toshi at 06:38| Comment(2) | 書評 | 更新情報をチェックする