2012年11月27日

承認の効果と位置づけについて~その存在を認め,相手に関心と好奇心を向ける


日本コーチ協会神奈川チャプター (JCAK)のコンピテンシー勉強会で,たまたま「承認」のところをファシリテーションする機会を得て,自分なりにいろいろ考えたことがあり,そのことについて,少しまとめてみたい。

一般に,承認(アクノレッジメント)については,

「a statement or action which recognizes that something exists or true」

そこに存在していることに気づいていると表明したり振る舞いで表すこと,とされている。つまり,相手の存在を認め,更に相手に現れている違いや変化,成長や成果にいち早く気づき,それを相手に伝えることである。

承認という場合,ほめることと同じではないし,評価ではなく,事実を伝えること,とされている。事実として,相手が何をどう達成したのか,どう変化したのか,を言葉にして伝えることだとされる。

例えば,ザックリと,「よくできたね」と伝えるのではなく,どこどこが,以前に比べてどれくらい成長したかを,事実として伝えることを意味する。それを伝えられた側は,その承認された事実がほんの些細な成長であっても,それをきちんと見てくれている,ということによって自己肯定感を高め,相手への信頼を強くする効果があるように思える。

承認の伝え方としては,次の3つのタイプがあるとされる。
① YOUメッセージ 「あなたは○○だね」というように,これは,見えている事実を,「あなたは,」と客観的に伝えることになる。
② メッセージ 「あなたが○○したことは,わたしにこんな影響があった」というように,私にはそう感じられた,そう見えたというように,主観として,相手に伝える伝え方である。
③ WEメッセージ 「あなたが○○したことは,わたしたちにこんな影響があった」と,これはIメッセージの「われわれ」版ということになる。ただ伝えているのが,私なので,私の主観である側面が入るかもしれない。

以上が公式の承認の考え方だが,これを,他の他者認知,たとえばほめる,あがめる等々とどう区別するのかを試論として整理したのが,

http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/prod06431.htm

である。ここで問題になるのは,賞賛とは違うとして,認知や敬意とどう違うかだ。

まず,「認知」とは,CTI系で主として使うが,クライアントがある特定の行動を起こしたり,ある特定の目標を達成したりする過程で発揮したその人の強みや良さに気づき,それを本人に伝えること。自分の本当の姿をコーチがみてくれている,知ってくれていると感じられるようにするためのスキル。単に相手の行動を表面的に誉めたり,評価するのではなく,コーチとして感知した相手がどんな人なのか,その人自身が気づいている以上のリソースや力,価値観などを伝えること,とされる(『コーチングバイブル』)。

ただ主観的には,それはあくまで,こちら側の受け止めなので,事実というよりは,Iメッセージとしての承認に近いような気がする。

次は,ブリーフセラピー,特にソリューション・フォーカスト・アプローチでいう,「コンプリメント(敬意)」との違いだ。

「コンプリメント」とは,ねぎらうこと,敬意を表すること。あくまでクライアントの言葉や行動にもとづいた事実に根ざしていなくてはならない。直接的なコンプリメントと間接的なコンプリメントがある。直接的なコンプリメントは,肯定的評価(「それはすごいですね,よくやれましたね」)と肯定的反応(「わあ,すごい!」)がある。間接的コンプリメントは肯定的な質問である。①望まして結果について更に「どうやってそれをやったんですか」と質問する,②関係を通して,「それを聞いたらお子さんはどう反応するでしょうね」と,肯定的なものを暗示する質問,③何が最善かはクライアントがわかっていることを暗示する,「どうしてそれをしたらいいとわかったんですか」と質問する(『解決のための面接技法』)。

コンプリメントは,比較的承認と似て,事実を伝えること,に力点がある。承認と敬意(コンプリメント)は,何を伝えるかについては結構重なっている。ただ,それはYOUメッセージについてであって,Iメッセージで伝えようとすると,すべては「わたしには~だ」の,主観を伝える中に入ってくるような気がする。

日本語の構造から考えると,

http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/prod0924.htm

でのべたように,基本は,「辞」につつまれれば,すべてはIメッセージになりうるので,逆に言うと,客観的事実を伝えているのだと,強調するためには,「あなたは,」あるいは「誰々さんは,」とはっきり言う必要があるのかもしれない。

では,フィードバックとはどう違うのだろうか。この言葉自体は,大砲の砲弾の着地点の修正という意味だと言われるが,サイバネティクス的に言えば,システム外の情報をシステム内への取り込むことで,自分の動き,自分の認識の軌道修正を図るところにあるのだから,伝える側が,「あなたは,○○です」と返すことで,自分の自己認識や自己イメージ,自分の振る舞い,言動を軌道修正したり位置確認をしたりすることになる。

その意味で言えば,フィードバックは,相手が自己認識を確認したり修正ができるように返す,ということができる。承認は,こちらの受け止めた相手認識を伝えるので,そのことによって,軌道修正することは同じだが,基本は,プラス要因を伝えることが多いので,自尊感情,自己肯定感を刺激し,自分のプラス要素を広げていくのに有効なのではないか,という気がする。

ただ,この承認にしろ,フィードバックにしろ,両者に信頼関係という土台のないところでは機能しないので,ひょっとすると,承認の大前提は,相手を信頼し,相手を受け止め,丸ごと受容してくれるという環境を設定すること自体が,相手への承認になっているのであり,その上にこそ,事実にしろ主観にしろ,承認を伝えていくことに一層効果があると言えるだろう。

とすると,笑顔や頷き,感嘆といった返し自体も,その雰囲気づくりには有効ということになる。あるいは,そもそも相手に好奇心をむけて,聞く姿勢そのものが,相手を承認している,と言えるはずである。そういえば,ジョセフ・オコナーは,コーチングのスキルは,注意を向けることに尽きる,と言っていた。

ところで,コンプリメントの直接コンプリメントと間接コンプリメントとの関連で言えば,承認にも,直接伝える以外に,間接の承認があり得るのではないか。

つまり,そこに存在していることに気づいていると表明したり振る舞いで表すこと,相手の存在を認め,更に相手に現れている違いや変化,成長や成果にいち早く気づき,それを相手に伝える,というアクノレッジメントには,直接そのことを伝えることの他に,相手の変化や成長を前提にして,
「なぜそんなことができたんですか」
「どうしてそんなことをしようと思ったんですか」
と,その先を相手に質問する方法があるはずである。仮に,それを間接的なアクノレッジメントと呼んでおくと,そういう効果のある質問は肯定質問を呼ばれ、下記のような例が挙げられる。この質問をする場合,質問する側に,そのことが既に相手ができている,という承認を前提にしており,そのことは相手にも伝わる。

間接的なアクノレッジメントのための肯定質問例
1. どうやって(そんなことが)できたんですか
2. 何がきっかけでそうしようと思ったのですか
3. それができたわけを教えてください。
4. あなたにそんな力があると,どこで気づいたんですか
5. どうしてそんなことが可能になったんですか

6. どんな幸運がそれを可能にさせたんですか
7. どういうふうにそれがうまくいったのですか
8. 何がうまくいったのですか
9. そうしたらいいとどうしてわかったんですか
10. (それをしたことで)何が変わりましたか

11. (なしとげた後)何から変わったとわかりましたか
12. どんな学びがありましたか
13. そこから何がえられましたか
14. そこからさらに学べそうなことは何ですか
15. そこで役に立ったことは何ですか
 
16. 誰(何)か助けになったものはありますか
17. どんことをやってそれができたんですか
18. いまからもっともっとできそうなことは何ですか
19. どうやってそんな心境になれたんですか
20. そんな状況なのにどうしてそれが可能だったんですか

肯定質問も,コンプリメントのように,もう少し整理できるのかもしれないが,こう見ると,実はコーチングらしいポジティブ質問は,そのまま承認の意味を持つ可能性があると言ってもいい。そして,承認された側は,自己肯定を許容されて,自己イメージが膨らみ,自分の中に隠れていた自分の可能性や潜勢力を拾い上げていくエネルギーを受け取ることになる。どっちにしても,承認は,コーチングの強力な武器なのである。いや,あるいは,コーチングという舞台そのものが,承認するためにあるのかもしれない,という気がしている。


参考文献;
インスー・キム・バーグ他『解決のための面接技法(第三版)』(金剛出版)
ヘンリー・キムジーハウス他『コーチング・バイブル(第三版)』(東洋経済新報社)

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm




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posted by Toshi at 05:53| Comment(5) | コーチング | 更新情報をチェックする