虚実皮膜の隙間~花田清輝『鳥獣戯話』をめぐって
私のように武骨で,律儀だけが取り柄の男には,なかなか花田清輝のような,洒脱で,人を食ったようなアイロニー,あるいは意地の悪さといってもいいようなものにはついていけないところがある。ただ,記憶では,花田清輝が,自殺した田中英光のことを書いていた文章を読んだことがあり,その誠実さにひかれた覚えがある。
皮肉たっぷりの表現に,かつてすごく魅力を感じたものだ。たとえば,こうだ。
…
生きるとは 位置を見つけることだ あるいは 位置を踏み出すことだ そして 位置をつくりだすことだ
位置は一生分だ 長い呻吟の果てに たどりついた位置だ その位置を さらにずらすことは 生涯を賭すことだ それでもなおその賭けに 釣り合う 未来はあるか