われわれは二次元スクリーン上に存在している?~『重力とは何か』を読んでⅢ

前回,前々回に引き続いて,大栗博司『重力とは何か』(幻冬舎新書)を読んだ感想を続ける。 三次元空間のある領域で起きる重力現象は,すべてその空間の果てに設置されたスクリーンに投影されて,スクリーンの上の二次元世界の現象として理解することができる…。 これを,重力のホログラフィー原理と名付けられている,という奇妙な説について,ブライアン・グリーンは,『宇宙を織りなすもの』で,それをこ…

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微細な変化を見逃さない眼~石原吉郎の詩をめぐってⅢ

こんな詩があった。 膝を組み代えるだけで ただそれだけで 一変する思考がある 世界が変わるとは言わぬにしても すくなくともそれに 近いことが起こる(「膝」) 世界が変わる,その世界は四畳半の中だけかもしれない。フラクタルで,バタフライのひと羽ばたきが,台風に変ずるそれかもしれない。しかし,それは小さなことに着目しなくては気づかない。昔稲垣足穂が,蝸牛の渦巻きと星雲の…

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「恋」・「愛」・「好」について

自分の知っている範囲なので,あるいはとんでもない間違いをしているかもしれないが,恋には対立語がない。たとえば愛なら愛憎,好なら好悪がある。その意味では,「恋」に憎しみや悪意は似合わない。 辞書的に言うと,日本語には,本来「愛」はない。漢語からきた。だからか,本来の意味とは別に抽象度が高い印象を受ける。古語辞典では(といっても自分の持っている岩波版の古いタイプだが),「恋う(ふ)」に…

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記憶をさかのぼる~物語を語るⅠ

自伝的記憶をさかのぼると,産道から出てくるところまでたどり着ける人もいるらしい。 前にも書いたが,あるところであるお母さんから聞いた話では,自分の子が,言葉をしゃべれるようになったころ,「私は,本当はあの場所から出たくなかったのに,急に明るくなって,お父さんとお母さんに引っ張り出された」といったそうです。帝王切開だったのですが,それをちゃんと覚えているのです。そして,その子は,「お…

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「場」を主役にして考える~Tグループ体験を振り返る

「場」については,一度考えてみたことがあったが, http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/11007605.html もう少し,別の切り口で考えてみたい。いつも「場」を考えるときは,自分側から,どう「場」に入るか,あるいは「場」の中で,どう一体化するか,あるいは,「場」にどう主体的にかかわるか,という視点からのみ考える。しかし,主役は「場」で…

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「はじまりは国芳―江戸スピリットのゆくえ」を観て思うこと

横浜美術館で,「はじまりは国芳―江戸スピリットのゆくえ」 http://www.yaf.or.jp/yma/jiu/2012/kuniyoshi/topics.html をみた。国芳については http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%8C%E5%B7%9D%E5%9B%BD%E8%8A%B3 を見てもらうこととして,展覧会の案内には,こ…

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リーダーシップ再考~リーダーシップとリーダーを分ける

リーダーシップについては, http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/10964345.html で触れたことがある。ただ,いつも思っていることは,リーダーシップをリーダーとは切り分けて考える必要があるということだ。そのあたりを,実感的に(論理的ではないが)整理しておきたい。 まず,Leadershipの意味だが,語源的に正しいかどうかは…

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チェックリストをつくる~考えられる4つのパターン

チェックリストには,いろんなタイプがある。学問的なものでないという前提だが,いいままで,いろいろ試しに作ってみたのが, http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/prod063.htm ここにある。この程度のものは,そんなにつくることは難しくない。というか,こういうものをコツコツ作り上げていくのが大好きなのだ。管見によればだが,チェックリストは,おおよそ4つ…

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追い詰められたユーモア~石原吉郎の詩をめぐってⅣ

どこか生真面目で,一本木だが,言い換えると辛気臭い石原の詩に,ユーモアを探すと,どこかブラックユーモアの気配がある。 じゃがいもが二ひきで かたまって ああでもないこうでも ないとかんがえたが けっきょくひとまわり でこぼこが大きく なっただけだった(「じゃがいものそうだん) これなどは,結局事態を悪くしたともとれるが,しかしお互いに凹んだ分だけ,親しくなったとも,憎…

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故郷体験というものについて~物語を語るⅡ

好きな場所ということで,高山のことは一度触れた。 http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/2012-1105.html 小学校の3年から,6年の二学期までいた。なんだか,老人の思い出話のようだが,自分の物語を語りたがるのは,フランクルに言われなくても,人の習性なのではないか,という気がしてくる。 高山で一番印象深いのは,小学校の修学旅行…

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クライアント体験~コーチングを受けて

クライアントになった瞬間,その人がコーチであれカウンセラーであれ,大学者であれただの人であれ,コーチの前でクライアントになった瞬間,クライアントでしかない。でなければ,そこでクライアントになる意味がない。 そこで向きあっているのは,自分自身であり,属性も経歴も関係ない。そこに一人の人として,いる。 にもかかわらず,時にコーチは,おのれの仮説を,あるいは自分の直感をぶつけてくる。 …

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「おじさんと呼ばれる年齢になって」について

何年か前,岡山を旅行中に,市内の郷土文学館で,見つけた, おじさんと 人に呼ばれる齢になっても じっきに かっとなる癖はやまぬ 思慮分別もたらぬ 金も力もないが 名誉も地位もほしくない(吉塚勤治「自己紹介」) という詩が気にいっている。「自己紹介」という題なのも,いい。もう,おじさんどころか,爺だが。 歳をとると,視野が狭くなる。行動範囲も限られてくる。必然的に…

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「ラブレター」の関係について

ラブレターという言葉自体が,ちょっと古風な気がする。メールでも,電話でも,チャットでも,告白にはなるが,ラブレターではない。 正直のところ,異性に出す手紙という意味では,ないこともないが,自分はラブレターを書いたことはないので,ラブレターとは何かについて,体験的に書くことはできない。 ただ,そこに意味があるとすると,どんな意味があるのかを,どうでもいいことにこだわる性分なので,ち…

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コミュニケーションのちょっとした流儀~齟齬を減らす工夫はある

コミュニケーションで言えば,良寛には,「戒語」といわれる戒めがいくつかあるが, http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/prod065.htm これは,いわばしゃべり方や振る舞いを言う。つまりコミュニケーション・タブー集だ。ここでは,それよりは,コミュニケーション齟齬をなくすためにどうしたらいいか,そのためのちょっとした工夫に触れたい。言ってみれば,できて…

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パースペクティブを広くとることで見えてくるもの~宮地正人『幕末維新変革史』を読んで

上下二冊の,宮地正人『幕末維新変革史』(岩波書店)を読んだ。 本書の中で,福沢諭吉が『西洋事情』を上梓する際,「天下にこんなものを読む人が有るか無いか夫れも分からず,仮令読んだからとて,之を日本の実際に試みるなんて固より思いも寄らぬことで,一口に申せば西洋の小説,夢物語の戯作くらいに自ら認めて居た」という,諭吉の述懐に,珍しくこういう私論を持ち込んでいる。 本物の著述というものは…

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人形劇体験について~物語を物語るⅢ

フランクルは,人は誰もが人生の物語をもっていて,それを語りたがっている,というようなことを書いていた記憶がある。しかしそれは,語りだしてはじめて,芋づるのように,エピソード記憶が手繰り寄せられる。 少し個人的なことを続けたいが,いきなり,学生時代へ飛ばす。 そのほとんどの時間を費やしていた,人形劇のことを語ってみたい。 人形劇といっても,プロとして本格的にやっていたわけでは…

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この人生で成し遂げたいことは何ですか~『U理論入門セミナー』に参加して

もともと,「自分を開く」というテーマを,自分の課題とした経緯については, http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/11031543.html で書いたように,『U理論』を読んだのがきっかけであった。勝手な早合点かもしれないが,「開くこと」の重要性に改めて目を開かれた思いがしたのだ。特に,内面の「評価・判断の声(VOJ)」「皮肉・諦めの声(VO…

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どこかに貴種へのあこがれがある~『戦国武将 敗者の子孫たち』を読んで

高澤等『戦国武将 敗者の子孫たち』(歴史新書y)を読んだ。 ここでは,武田勝頼,真田信繁,明智光秀,石田三成,豊臣秀勝,松平信康,今川氏真, が取り上げられている。真田信繁は,いわゆる幸村のこと。秀勝は秀次の弟,松平信康は信長の娘と結婚し,若くして自死に追い込まれた,家康の長子,今川氏真は,義元の長子。 言ってみると,負け組戦国武将の子孫が,どういう血脈を残したかを,延々描…

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掛け合うことで奥行きが増す~トークライブに参加して

先日,第1回 高田稔×飯塚和秀 月例トークライブ「ビジネスセンスを磨く為に今、実践すべきこと」に参加した。お二人の話を聞く機会は,前にもあったが,今回は,掛け合いのトークによって,別の面白さを発見したので,そのことから書き始めてみたい。 通常,講師が話をする場合,テーマに即して講師が用意したストーリーを,話の巧拙,面白さの良し悪しは別として,一本の筋で話していく。もちろんふんだんに,聞…

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「場」が育てていく学習~「場」についてもう一度考える

前に,Tグループ体験をきっかけにして,「場」について考えてみた。 http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/11044109.html 今回は,「場」について続いて考えてみるが,別の切り口からアプローチしてみたい。 場が主役といった場合,その場をどう枠づけるかがカギになるのだろうか。もう一度前回のまとめを繰り返すと, 場という時,次…

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