2014年03月09日

奇襲


一ノ瀬俊也『日本軍と日本兵』を読む。

本書は,

米陸軍軍事情報部が1942~1946年まで部内向けに毎月出していた戦訓広報誌に掲載された日本軍とその将兵,装備,士気に関する多数の解説記事などを使って,戦闘組織としての日本陸軍の姿や能力を明らかにしてゆく,

ものである。戦死者数については,

日本陸軍:戦死1,450,000、戦傷53,028
日本海軍:戦死437,934、戦傷13,342

アメリカ陸軍:戦死41,322、戦傷129,724
アメリカ海軍:戦死31,484、戦傷31,701
アメリカ海兵隊:戦死19,733、戦傷67,207

アメリカ軍の太平洋戦線での戦死は107,903、負傷171,898、その他(事故などで)死亡48,380

という数値がある。

日本兵の戦死者の六割が餓死とも言われる。病気になっても後送されることはなく,

戦争末期に至るまで,退却の際に味方重傷病者を捕虜とされぬよう殺害していた,

から,実際の戦闘で死んだ者は,もっと少ないかもしれない。しかしも後退を続ける戦線では,飛行機の特攻機だけではなく,陸戦でも,それと似た自殺攻撃が数々ある。たとえば,

木に縛り付けられた狙撃兵。

米兵はこう証言する。

日本軍が狙撃兵を木に縛り付けておくのは我が方の弾薬を浪費させるためだと思っている。(中略)三日経った日本兵の死体を木から切り降ろしたことがある。78発の弾痕があり…,

と。さらには,敵戦車に手を焼いて,

対戦車肉攻兵

を考え出す。その攻撃手順は,

①待ち伏せた一人が対戦車地雷などの爆雷を手で投げるか,竿の先に付けて戦車のキャタピラの下へ置く,②二人目が火炎瓶などの発火物を,乗員を追い出すために投げつける。③これに失敗すれば戦車に飛び乗り,手榴弾や小火器で展視孔を潰す,

というものだが,著者も言う通り,戦車には常に援護の歩兵がおり,そううまくいかない。で,こういうことになる。

日本兵が戦車正面の道路に横たわっていたのが見つかり,撃たれると体に結び付けられた対戦車地雷が爆発した。

こういう人命軽視の作戦を,軍中枢では,机上の空論で立てていた。犠牲は,一人一人の国民の人生を丸投げすることで支払われる。この種の作戦は,卑怯すれすれだから,

丘の頂上で日本兵が白旗を降りだした。(中略)彼はこっちへ来いと言った。兵が立ち上がると丘の麓に隠れていた敵が発砲した。

とか,

降伏するかのように泣きわめきながら近づいてきた。十分近づいたところで立ち止まり,手榴弾を投げてきた。

等々,「卑怯な日本軍」(戦訓広報誌)を演じることになる。これでは,ゲリラ兵と同じである。ついには,沖縄戦では,

蜘蛛の穴陣地

という人間地雷原を作り,

戦車の接近が予測されると蜘蛛の穴に入る。各自が肩掛け箱形地雷などをもっている,

という作戦を立てる。しかも,

手首に引き紐を結びつけるよう命じられているので,投げてから一秒後に爆雷は爆発する。

もちろん兵は爆発に巻き込まれる。

戦死者の中には,こういう人の命を虫けらのように扱われた兵が含まれる。その他に,撤退の命令がないための,ばんざい突撃などの自暴自棄の夜襲攻撃を加えれば,無意味な死者の数は,もっと増えるだろう。

しかもこういう作戦を考えた参謀たちは,八原博通大佐,後宮淳大将は,のうのうと生き残り,対戦車必勝法として,誇らしげに戦後語っている。しかも,八原は米軍に投降している。

戦訓広報誌は,日本兵の短所を,こう書いている。

予想していないことに直面するとパニックに陥る,戦闘のあいだ決然としているわけではない,多くは射撃が下手である,時に自分で物を考えず,「自分で」となると何も考えられなくなる,

将校を倒すと,部下は自分で考えられなくなるようで,ちりじりになって逃げてしまう,

と。著者はこう締めくくる。

米陸軍広報誌の描いた日本兵たちの多くは,「ファナティック」な「超人」などではなく,アメリカ文化が好きで,中には怠け者もいて,宣伝の工夫次第では投降させることもできるごく平凡な人々である。上下一緒に酒を飲み,行き詰ると全員で「ヤルゾー!」と絶叫することで一体感を保っていた。兵たちは将校の命令通り目標に発砲するのは上手だが,負けが込んで指揮官を失うと狼狽し四散した。それは米軍のプロパガンダに過ぎないという見方もできようが,私は多分多くの日本兵は本当にそういう人たちだったのだろうと,と思っている。その理由は,彼らの直系たる我々もまた,同じ立場におかれれば同じように行動するだろうと考えるからだ。

また嫌な時代の足音が聞こえ始めていることが気になる。徴兵,集団的自衛権,他国への兆発(多く自己肥大の結果)等々。挙句の果てに,命を使い捨てにされる。こういう太平洋戦争中の悲惨さを,もっともっと周知されるべきだろう,とつくづく思う。

参考文献;
一ノ瀬俊也『日本軍と日本兵』(講談社現代新書)

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm


posted by Toshi at 05:12| Comment(1) | 書評 | 更新情報をチェックする