2017年12月10日
ためつすがめつ
「ためつすがめつ」は,
矯めつ眇めつ,
と当てる。『広辞苑』には,
「(ツは助動詞)いろいろの向きから,よくよくみるさま,とみこうみ,
と意味が載る。「とみこうみ」は,
と見こう見,
で,『広辞苑』には,
「(トミカクミの音便。一説に,ミは並列を表す接尾語)あちらを見たり,こちらをみたり,」
とある。『大言海』の「とみかうみ」には,
左を見,右を見る状に云ふ語。あちこちに気を配るさま,右顧左眄,
とある。『岩波古語辞典』には『伊勢物語』の,
「門に出でて,とみかうみ見れども,いづこをはかりとも覚えざりければ」
の用例が載る。ただ,右を見たり左を見たり,きょろきょろするさま(の状態表現が右顧左眄の価値表現へと転じたの)であって,「ためつすがめつ」とは,少し違う気がする。どちらかというと,
何かをいろいろな角度からよく見る,
さまを言い表したもので,何かを丹念に精査する,という含意に思える。『岩波古語辞典』には,
「目をためたり,すがめたり。いろいろな角度からよく見ようとするさま」
とある。『大辞林』には,
「動詞『たむ』『すがむ』の連用形に完了の助動詞『つ』が付いたもの」
とある。
差しつ差されつ,
押しつ押されつ,
くんずほぐれつ(「くみつほぐれつ」の音変化),
等々,他にも似た使われ方がある。「たむ」について,『岩波古語辞典』は,「ため」の項で,
矯め,
揉め,
と当て,「タミ(廻)と同根」として,
弾力のあるものをかがめ曲げたり,真直ぐに伸ばしたりして,形をつける,
という意味(この意味なら,「角を矯めて牛を殺す」という諺の使い方)と,
弓を挽き絞ってねらいを定める,
という意味が載る。『広辞苑』の「ためる(矯める)」の項でも,
ねらいをつける,ねらいをつけて,放さない,
の意味の後に,日葡辞典の,
「テッポウヲタムル」
「ためつすがめつ」
のよう例を載せる。どうやら,「ためつすがめつ」の「たむ」は,的を狙う意とつながるらしい,と見当が付く。『大言海』は,「たむ(揉)」の項で,
「撓むの略の他動詞」
とし,やはり,いわゆる「たわむ」の意味の後に,
「控え,支え持つ(狙ひて未だ放たぬに云ふ)。」
とし,さらに,
「転じて,片目塞ぎて狙ひ見る(ためツ,すがめツ)」
を載せる。「たむ」は,
何かを狙ったり,ものの繊細な具合を見たりする時の,片目を閉じて見る様子,を指している,
ということらしいのである。
当然,「すがむ」もそれに類すると想像される。「すがむ」は,
眇む,
と当てる。『大言海』に,
「(スガは,細き義)眇(すがめ)にてあり」
とある「すがめ(眇)」とは,
おぶにらみ,
の意だが,そのように,
目を片寄せて見るさま,
をいう。『日本語源広辞典』が,「すがめ」を,
「スカシ(透)+目」
として,
隙間から透かして見るような目,
というのがよく分かる。何かを注視するとき,
意識的に瞳を片寄せて見る,
その目つきである。まさに,的を狙っている目つきそのものである。やはり,「とみこうみ」とはニュアンスが違う。あえて言うと,「とみこうみ」は,
遠くを,あちらこちら,と見回す,
のに対し,「ためつすがめつ」は,
見るのは,一点に絞られる,
というところか。「とみこうみ」はサーチライト,「ためつすがめつ」はスポットライトに準えられる。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/ta/tametsusugametsu.html
は,
「狙いをつける・じっと見る意味の『たむ(矯む)』。片目を細めて見る意味の『すがむ(眇む)』。『たむ』と『すがむ』のそれぞれの連用形に,『~したり』を表す完了の助動詞『つ』が付いたのが,『ためつすがめつ』である。つまり,ためつすがめつは『じっと見たり片目を細めて見たりする』意味を表す。同意句に,『矯めつ歪(ひず)めつ』『矯めつ透かしつ』がある。」
としているが,「狙っている」目つきには触れていない。
http://kotobahiroi.seesaa.net/article/453860847.html
は,
「『矯める』は弓に関わる言葉で、矢をたわめてみては、それを目元にもっていって、その強さや曲がり具合を吟味したことから。転じて、物事をいろいろな角度から見定めようとする意味に。「すがむ」は強調的な意味でくっついたもの。」
としている。ここが原点のようだ。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm