2017年12月15日

うなぎのぼり


「うなぎのぼり」は,

鰻上り,
鰻登り,

と当てるが,

物価・温度,また人の地位などが,見る見るうちにのぼること」

という意味である。語源は,二説ある。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/u/unaginobori.html

には,

「以下の通り二説あり,いずれもうなぎの性質に由来する。 ひとつは,うなぎは急流であっても水が少ないところであっても,登っていくことからとする説。もうひとつは,うなぎの体はぬるぬるしていて,捕まえようとしてもさらに上に登ってしまうことからとする説。」

と二説を整理している。『広辞苑』は,

「ウナギが水中で身をくねらせて垂直に登ることから」

と,前者を採り,『大言海』は,

「鰻を摑むに,粘ありて昇る。両手で代る代る摑むに,益す益す昇りて,降りることなし」

と後者を採る。『江戸語大辞典』は,二つの意味を載せている。

「①すべて物事が,見る見るうちにのぼる形容。鰻はどんな急流をもさかのぼるのでいう。②鰻か身をくねらせて泳ぎ切るところから,のらりくらりと逃げるさまにいう。」

とある。後者の用例に,

「いや明日はきっと発足する,間違ひないと被仰(おっしゃ)っても,夜が明けてみると一日々々鰻のぼりののんべんぐらり,ついついのびのびに為りました。」(文政十年・其俤夕暮譚)

どうやら,この二説は,『日本語源大辞典』によれば,

鰻の体には粘りがあるのでつかむとのぼってしまい,両手でかわるがわるつかもうとするとますます上にのぼり,降りてことないことから(大言海),
ウナギはどんな急流をもさかのぼるから(江戸語大辞典),

とあるところから見ると,『大言海』と『江戸語大辞典』に元があるらしい。しかし,『大言海』の説は,上記『江戸語大辞典』の言う②の意味,

のらりくらりとつかみどころがない,

という意味を指しているのではあるまいか。「のらりくらり」という擬態語は,

仕事につかず遊んで暮らす様子,
仕事にまじめに取り組まず,怠けている様子,

の他に,

答弁や言い訳の際,要点をそらしたり,明確なことを言わないなど,さまざまに言い抜ける様子,

という意味がある。この「のらりくらり」より弱めなのが,

ぬらりくらり,

という言い方で,『擬音語・擬態語辞典』には,

「『ぬらりくらり』は験を左右にして質問をかわし言い逃れる様子を言うが,『のらりくらり』はそういう様子に加えて,応対が鈍くまともに取り合わない態度で接する感じがある。」

とあり,

「現在では,『ぬらりくらり』は言葉をめぐるやりとりでの人の態度について用いるが,もともとは,鰻や鯰などが滑ったりして,つかみにくい様子をいう。」

とある。とすると,「うなぎのぼり」は,今日使う上昇一途という意味とは程遠いのではないか。

さらに,水中を遡る,という説についても,『日本語の語源』は,「うなぎのぼり」について,音韻変化説で,

「『鰻が水中で身をくねらせて垂直に登ることから,物価や温度や,また人の地位身分などが見る見るうちにのぼるのにいう』(『広辞苑』)。この説明も納得できない。
 『絶えることがない』ことを〈わが泣く涙止むこともない〉(万葉)といった。連続的上昇のことをヤムナキノボリ(止むなき昇り)といったのが,語頭をおとしてムナギノボリになり,さらに語頭の子音[m]を落としてウナギノボリ(鰻登り)になったと推定される。
 実は,それには根拠がある。〈石麿にわれ申す夏やせによしといふものぞムナギ取り召せ〉(万葉)という歌があるが,鰻の古名をムナギ(武奈伎)といい,子音[m]を落としてウナギになった。」

とある。「うなぎ」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/455534185.html?1513196483

で触れた。この音韻変化が妥当に思えるが,気になるのは,「うなぎのぼり」について,『岩波古語辞典』は,

鰻幟,

の字を当て,

「近世,端午の節句に揚げた,ウナギのように長くなびくようにつくった紙幟」

とあることだ。用例に,

「釣竿と見ゆるは鰻幟かな」(俳・口真似草)

とある。しかし,「紙幟」は,

「5月の節句に用いる紙製ののぼり。《季 夏》「笈 (おひ) も太刀も五月にかざれ紙幟/芭蕉」(『デジタル大辞泉』)

等々と説明が載るが,「鰻幟」という言葉は,ちょっと調べ切れなかった。しかし,「のぼり」を調べると,

「祭礼,戦陣などに用いる旗の一種。のぼり旗の略といわれる。布の上部と横側に乳 (ち。竿,紐などを通すためにつけた小さな輪) をつけて竿に通す。旗は元来高く掲げ,風にひるがえることを特徴としたが,そうすると旗の裾がほかの物にからみ,戦陣で使うのに不便であったので,乳を用いるようになった。」(『ブリタニカ国際大百科事典』)

とあり,さらに,

http://www.callmyname-rec.com/archives/28.html

に,

「のぼりには『乳付き旗』という別名があります。
これは、のぼりを竿に止めるための筒状の布部分を『乳』(ち)と呼ぶためです。なぜあの部分が『乳』と呼ばれるかは、一説によれば『犬の乳首の様に行儀よく並んでいるため』であることからだそうで、なるほど言われてみれば、伝統的なのぼりの形をみてみると、きちんと行儀よく乳が並んでいます。
のぼりの語源には、旗竿の上へ上へと押し上げることから『昇り』と表現されるようになったという説があり、幟の持つ意味や使われ方などを見ても、その語源の信ぴょう性は高そうです。
『鯉幟』の場合は、もともと武家が始めた端午の節句に幟を掲げるという風習の中で、中国の古事にある『鯉は天に昇って龍になる』という話を、男児の立身出世への願いに重ねて、幟に『鯉が昇る絵』を描いたことから始まりました。」

とある。この由来は,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%9F

に,

「近代までの軍用の幟は、綿もしくは絹の織物を用いた。布の寸法は由来となった流れ旗に準じ、高さを1丈2尺(約3m60cm)、幅を二幅(約76cm)前後が標準的であった。このほか、馬印や纏に用いられる四方(しほう)と呼ばれるほぼ正方形の幟や、四半(しはん)と呼ばれる縦横比が3対2の比率(四方の縦半分ともされる)の幟が定型化する。もっともこれらはあくまで一般的な寸法であり、家によって由緒のある寸法を規定することや、流行に左右されることもあった。
また旗竿への留め方によって、乳(ち)と呼ばれる布製の筒によって竿に固定する乳付旗(ちつきばた)と、旗竿への接合部分を袋縫いにして竿に直接縫い付けることによって堅牢性を増した縫含旗(ぬいふくめばた)に区別できる。
旗竿は千段巻と呼ばれる紐を巻いた漆塗りの樫材や竹を用い、幟の形態に応じて全体をトの字型あるいはΓ字をにした形状にして布を通した。」

とある。この幟は,けっして下がらない。風に吹かれても,上に巻き上がるばかりである。どうも,

うなぎのぼり,

は,『岩波古語辞典』の言う,

鰻幟,

から来ているように思えてならない。

img085.jpg

(高橋賢一『旗指物』より)


参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
高橋賢一『旗指物』(人物往来社)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 05:10| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする