2017年12月17日

あんぽんたん


「あんぽんたん」は,『広辞苑』は,

安本丹,

と当て,

アホタラの撥音化か,

とし,

愚か者をののしって言う語。
カサゴ(笠子)の俗称(寛政の末江戸ででまわったが,味がよくなかったので),

という意味を載せる。

かさご.jpg

カサゴ(笠子)


カサゴ(笠子)については,

「和名は、頭部が大きく、笠をかぶっているように見えることから起こった俗称「笠子」に由来すると考えられている。」

もので,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B4
https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B4

に詳しいが,

「無骨な武士を思わせる外見から、端午の節句の祝いの膳にのせられる。」

というし,

「旬は初夏から冬。 ただし年間を通じてあまり味が落ちない。外見とは裏腹に白身魚で、非常に上品な味わい。」

とあるので,「まずい」というのがよくわからない。しかし,『江戸語大辞典』にも,「あんぽんたん」の項で,

「笠子の類。この魚,寛政末年に市中に出盛った不味なのでこのながあると。」

とし,

「馬鹿もあんぽんたんも海で出来 芦風」(馬鹿は馬鹿貝)

という用例を載せている。

それはともかく,「あんぽんたん」は,『大言海』が,『広辞苑』同様,

「アホタラを,音便にはねたる語。約(つづ)しき服を,ツンツルテンなど云ふ類なり(種々なる語源説あれど,皆付会なり),和訓栞,後編,あんぽんたん『近世の俗語也。あほうの轉也』」

としており,『日本語源広辞典』も,

「アホダラを,撥音化して,薬名らしくもじったもの」

とし,「江戸期の,反魂丹,万金丹になぞらえ,安本丹とした語」としている。『江戸語大辞典』も,

「あほ太郎を薬名に似せたしゃれ。阿呆。馬鹿。宝暦十三年頃から流行し出したという。上方語(宝永期)の移入。宝暦十三年・風流志道軒伝序『夫(それ)馬鹿の名目一ならず。(略)また安本丹の親玉あり』」

としているところから見ると,「あほた(だ)ら」の撥音化に間違いはなさそうであるが,『日本語源大辞典』は,和訓栞・後編の,「あほうの轉」につづいて,

「あほうの轉。また,西南海の蛮国の名か。日本に漂着したその国の人が,言語不通で愚痴だったとろから,人を軽蔑していう流行語になったという」

という説を載せているが,

「本来上方語とされるが,宝暦本から江戸でも流行した語。『日本語源広辞典』には諸説あるが,アホウから生じたアホタラ,アホ太郎を,『反魂丹』『万金丹』などの薬名になぞらえたものと考えられる。」

とまとめている。ただ,これだと,「あほう」と「あほだら」とのつながりが見えないが,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/a/anpontan.html

は,

「あんぽんたんは、『阿呆』と愚か者の意味の『だらすけ』が複合された、『あほだら』『あほんだら』が、転じた言葉である。『阿呆』は『あっぽ』とも言われ、『陀羅助(だらすけ)』 という薬(『陀羅尼助』の略)もあったため、『反魂丹(はんごんたん)』や『萬金丹(まんきんたん)』という薬の名から、『安本丹』ともじられた。あんぽんたんは、近世に上方で生まれた言葉で、宝暦末年(1764年)頃には、江戸でも流行したことが、江戸時代の随筆に残されている。あんぽんたんの語源として、1789~1801に江戸市中に出回った『アンポンタン』と呼ばれる魚(カサゴの一種)が、大きい割に美味しくなかったため、『独活の大木(うどのたいぼく)』と似たような意味で使われ、それが転じたという説もある。しかし,あんぽんたんという言葉は、それ以前から存在していたため、その魚があんぽんたんからつけられたとは考えられるが、あんぽんたんの語源とは考え難い。他には、フランス語で性交不能を意味する『アポンタン』からとする説、江戸時代に漂流した外国人の名前からとする説もあるが、そのような文献は見当たらない。」

で,諸説の脈絡がつながる。「あほう」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/432266854.html

でふれた。「あほたら」「あほだら」は,

あほたれ,

の転訛で,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/455176487.html?1511813544

で触れたように,『広辞苑』は,

阿呆垂れ,

とあて,「たれ(垂れ)」は,

「(名詞の下に付けて)人を悪く言う意を表す語」

とある。

洟垂れ,
くそたれ,

という言い方もする。「あほんだれ」の「だれ」,「あほんだら」の「だら」は,「たれ」の転訛と見ることができる。『日本語源大辞典』は,「あほだら」に,

阿呆陀羅,

と当てているが,『日本語源広辞典』は,

「阿呆+ダラ(陀羅)」

として,

「おまえみたいな無能な奴に陀羅尼経を読ませても全く分かるまい」という意だと,少し穿ち過ぎの解説をしている。『大言海』は,

愚,

と当て,

「大和國の方言なり。阿房(阿呆)を擬人して,阿房太郎(あほたら)なり(愚太郎[ぐふたら]兵衛,鈍太郎,惡太郎)。阿房陀羅経あり,アホタをはねて,アンポンタン,アホチンタンなどとも云ふ。京阪にては,アンダラと云ふ(カホバセ,カンバセ。オホバコ,オンバコ)。」

としている。

あほう→あほたら→あほたれ→あほんたれ→あんぽんたん

といった,揶揄の変化といったところか。なお,アホ・バカ分布については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/420036187.html

で触れた。また,「あほだら経(阿呆陀羅経)」は,

「俗謡の一種。江戸時代後期に流行し、近代に及んだ。世態、風俗、時事などから取材した戯(ざ)れ文句を、経を読むように歌った。「仏説あほだら経……」で始まり、小さな木魚をたたいて拍子をとり合の手を入れながら早口に歌うところに特色がある。願人坊主や僧形の芸人がよく歌った。安永(あんえい)・天明(てんめい)(1772~1789)ごろの発生という。文化(1804~1818)のころ呑龍(どんりゅう)という説教坊主が大坂や名古屋で阿呆陀羅経を口演して評判だったことが『摂陽奇観』『見世物雑志』などにみえる。明治時代にも「尽し物」が大いに受けていた。祭文(さいもん)、ちょぼくれ(ちょんがれ)などとともに浪花節(なにわぶし)成立への一過程をなす。」(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)

というが,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%BB%E3%81%A0%E3%82%89%E7%B5%8C

に詳しい。

参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B4
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 05:05| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする