2017年12月20日

はた


「はた」は,

旗,

と当てる。「旗(簱)」の字は,

「其(キ)は,四角い形の箕(キ み)を描いた象形文字で,四角くきちんとしたとの意を含む。旗は『はた+音符其』で,きちんとした形のはた」

で,はたの総称とある。『字源』によると,「旗」は,

「古は,熊虎を画き,大将の建てしもの」

とある。中国語には,「はた」に関わる漢字は一杯ある。たとえば,旌旗の「旌」の字は,

「生は鮮明な意を含む。旌は『はた+音符生』で,すみきった色彩のはたじるしのこと」

とある。『字源』には,

「旗竿の上に旄(からうし)の尾をつけ,之に析きたる鳥羽をつけたるはた」

で,「昔は兵卒を元気づけて進めるために用いた。のち,使節のもつ旗印のこと」(『漢字源』)という。さらに,「旗幟」の「幟」の字は,我が国では,「旗」と区別して「のぼり」の意だが,

「戠(ショク)の原字は,Y型の杭を立てて,目印とすることを示す。のち音符を加え,ことばでめじるしをつけること。つまり『識』の意を表した。幟はそれを音符とし,巾(ぬの)を加えた字で,布のめじるし」

で,「めじるしのために立てる旗」を意味する。「幡然」(ほんぜん)の「幡(旛)」の字は,

「番は,播(ハ)の原字で,田に種をまきちらすこと。返・版・片などに通じて,平らに薄く,ひらひらする意を含む。幡は『巾+音符番』で,平らに薄く,ひるがえる布のはたのこと。翻ときわめて近い」

で,「色のついた布に字や模様をかいてたらしたはた」の意である。なお,古代律令(りつりょう)の編目の一つ「軍防令(ぐんぼうりょう)」には軍旗の制があり,

「将軍旗は纛幡(とうばん)、隊長旗は隊幡、兵士の旗は軍幡と注する(『令義解(りょうのぎげ)』)。すでに所属・職階の標示となっている。」(日本大百科全書(ニッポニカ))

というが,ここでは「はた」に,「幡」を使っている。

「旆」の字は,

「市(フツ)〔市(シ)ではない〕は,たらした布を描いた象形文字。發(ひらく)と同系。旆は『はた+音符市』で,先端が二つに開くはた。」

で,「いろいろな色の布で,二つに開く尾をつけたはた」とある。「旄」の字は,氂(からうし,ヤクのこと),あるいはその尾を意味するが,

「『はた+音符毛』で,はたにつける飾り」

だが,その尾を竿頭につけた旗の意である。「幢」の字は,

「『巾(ぬの)+音符童(つきぬく,筒型)』で,筒型の幕のこと。また,中空で筒型をしたものがゆらゆらと揺れるさま」

で,『字源』には,

「旌旗の属とあり,絹の幕で筒型に包んで垂らした飾り,のことらしい。朝廷の儀仗行列の飾りに用いる。」

とあるが,『魏志倭人伝』に,

正始六年詔賜倭難升米黄幢付郡假授,

とある,「黄幢」の「幢」である。このことはまた,後で触れる。

「はた」は,『岩波古語辞典』では,

旗,
幡,

を当て,『大言海』は,

旗,
幡,
旌,

の字を当てる。『大言海』は,「はた」の語源を,

「風にはためくものか,或は云ふ,繒(はた)を用ゐれば云ふか」

とする。なんとなく,

はたはた,

という擬音語のような気がするが,「繒(はた ソウ)」とは,「絹,帛の総名。『繒帛』。古は帛といひ,漢代は繒といふ」(『字源』)とある。帛,つまり絹布のことである。

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(高橋賢一『旗指物』より)


『日本大百科全書(ニッポニカ)』が,「旗」について,

「日本の旗(はた)は、布地の意味の『ハタ』が語源とされ、王権や軍事のみならず、宗教的なものと深く結び付いている。それは神降臨の顕(しるし)であり、京都賀茂(かも)神社の御阿礼(みあれ)神事では、賢木(さかき)に五色の帛(はく)を結び付けた幡(はた)が立てられる。『宇佐八幡(はちまん)宮託宣集』には、この神の化身である応神(おうじん)天皇降誕のときに、天より八流の幡が降下したとある。そして、この観念は仏教とも混じり、仏像を幡蓋(ばんがい)で覆うことは、仏の来臨の表現を意味するともされる。今日、運動会などの会場を万国旗で飾るのは、単なる装飾のみならず、それで非日常の空間を演出する意味が含まれているのであろう。」

といっている「布地」とは,「繒」を指すと思われる。『日本語源広辞典』は,「はた」の起源を二説挙げる。

説1は,「パタパタの音韻変化」。「ハタメクもの」の説,
説2は,『ハ(延)+タ(手)』で,織る機械ハタ。ひいて,「ハタで織った標識」。布帛,布地,も意味する,

と。擬音語説と,繒説,ということになる。『日本語源大辞典』は,

風にハタメクものであるところから(菊池俗語考・難波江・国語の語幹とその分類=大島正健・大言海),
織る時の音ハタハタから(和句解),
ハタ(繒)を用いるところからか(大言海),
ハは長の意,タは手の意(東雅・本朝軍器考),
ハタル(羽垂)の義(和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ハテ(羽手)の義(言元梯),
ハは葉・羽の義。タは接尾語(日本古語大辞典=松岡静雄),
ハリタレ(張垂)の義(名言通),
ハタ(端)の義。竿のの先にっけてなびかすところから(日本声母伝),

と列挙しているが,前述した『魏志倭人伝』で,

倭の難升米に黄幢を帯方郡に託して授けた,

という「黄幢」は,帛であった可能性が高い。それは,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13147120008

「これはいわゆる『旗』ではなく『吹き流し』のような形状だったと考えられています。」

とあるように,

「絹の幕で筒型に包んで垂らした飾り」

ではあるが,

「旌旗の属」

とあり,「絹の幕で筒型に包んで垂らした飾り」のついた旗なのではないか。高橋賢一氏の言う通り,歴史書に載った,初めての旗である。これが,「はた」の由来と考えるなら,

「繒(はた)を用ゐれば云ふ」

という『大言海』の説は捨てがたいのではないか。

なお,

「おもに縦長で、上辺の旗上(はたがみ)を竿(さお)に結ぶ流旗(ながればた)、鉾(ほこ)などにつけた比領(ひれ)という小旗などが古い形式である。のちに上辺と縦の一辺を竿につける、やはり縦長の幟旗(のぼりばた)とよばれる形が現れ、さらに正方形に近い形など、さまざまな種類も生じた。」(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)

は,「はた」小史になっている。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
高橋賢一『旗指物』(人物往来社)

ホームページ;
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posted by Toshi at 05:12| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする