2017年12月24日

ろく


「ろく」は,

ろくでなし,
ろくでもない,

の「ろく」である。『広辞苑』は,

陸,

と当てている。呉音らしい。意味は,

水平なこと,平坦なこと(日葡辞典「ロクナミチ」),
ゆがみがなくただしいこと,まっすぐなこと,
(「碌」とも書く)ものの正しいこと,真面目なこと,きちんとしていること,
十分なこと,満足なこと,

等々の意味が載る。『デジタル大辞泉』は,

「碌」は当て字,

としている。

ろくに,

という使い方だと,

陸に,
碌に,

と当てるが,

(『碌』は当て字。下に打消しの語を伴って)十分に,満足に,

という意味で,

ろくに知りもしないで,

といった使い方をする。

陸に居る,

という言い回しがあり,

あぐらをかく,らくにいる,

という意味らしい。

ろくでもない,

とも言うが,その場合,

陸でもない,

で,碌を当て字に,

碌でもない,

とも書く。

何の値打もない,

という意味になる。『岩波古語辞典』の「ろく」は,

陸,

とした上で,

直,
完,
正,

とも当てるとあって,この言葉の由来をうかがわせる。『大言海』は,

「圓(まろ)ぐの音便,マンロクの約」

とある。「まんろく」は,

「マンは眞(ま)の音便」

で,

準(ロク 陸)の正しきこと,平らかなること,

とある。『岩波古語辞典』は,「まんろく」を,

「マクロの撥音化」

とし,

真陸,
真正,

と当てる。「まろく」とは,

真陸,
真正,

と当て, 『岩波古語辞典』に,

「ロクは,水平・平らの意」

として,

真っ平らであること,
正しいこと,

と,「ろく」の意味に戻ってくる。そこで,『日本語源大辞典』にある,

「建築用語の『陸墨(ろくずみ)』『陸屋根(ろくやね)』などの『陸』には,たいらなさまの意味がある。」

というのが生きてくるようだ。「陸墨」について,『地盤の基礎用語集』に,

「水平を表示する基準高さの墨のこと。腰墨、水墨ともいう。陸墨から上げて示す墨を上がり墨、下げて示す墨を下がり墨という。」(https://jiban-anshin.or.jp/glossary/r/post-31.shtml

とある。『建築用語辞典』には,

「図面に基づき、建物の角部位の中心や大きさ寸法を現地に墨で書き出すことを墨出し作業といいますが、その墨出し作業において、各階の水準の基本となる水平線のことを陸墨といいます。一般には、床仕上りより1000mm上げの水平墨のことです。」(http://www.i-jisho.com/kentiku/ra/ro0028.html

と,より詳しく載る。「墨出し」とは,

「工事中に必要な線や位置などを床や壁などに表示する作業。大工さんが墨つぼを用いて墨で表示することから、『墨出し』と言われています。墨には、水平を出すために壁面に出される『陸墨(ろくずみ)』、柱や壁の心の位置を示す『心墨(しんずみ)』、構造心や仕上げ面などから一定の距離を離したところ出す『返り墨』や『逃げ墨』などがあります。」
(『住宅建築専門用語辞典』http://www.what-myhome.net/13su/sumidasi.htm

というようだ。要は,

「高さ基準を示し,柱や壁などに記入する水平基準線の墨のこと。」

今日では,「りくずみ」ともいうようになっているらしいが,「ろく(陸)」は生きている,ということだ。

『日本語源広辞典』によると,「ろく(陸)」について,

「陸は,『阜(丘)+坴(土)』が語源です。平らな陸地,地面の意です。物の形・面が歪みがなく平らなことをいいます。水準器の『水平』の意にも使います。」

とあり,どうやら,「ろく」は漢字「陸」から来ていると思われる。「陸」(漢音リク,呉音ロク)の字は,

「坴(音リク)は,『土+八(ひろがる)+土』で,土が高く積もって広がったさま。陸はそれを音符とし,阜(おか)を加えた字で,もりあがって連なる意を含む」

で,どちらかというと,

台地,
水面より上に平らに続く大地,

という意味のようだ。この「ろく」を採った,ということになる。

「『陸』は土地が平らなことから転じてまともなさまを示す」(語源大辞典=堀井令以知)

が,その意味の変化をよく示している。

「ろくでなし」は,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ro/rokudenashi.html

にあるように,

「ろくでなしの『ろく』は、一般的に『碌』と書かれるが、これは 当て字である。 元々は『陸(呉音でロク)』と書き、日本で『陸(ロク)』は、土地が平らな ことから物や性格がまっすぐなさまを意味していた。 その否定として『陸でなし』となり、 性格が曲がった人という意味が転じて、現在使われている『ろくでなし』の意味となった。」

ということになる。『日本語源広辞典』には,

「関西で大工さんが,基礎を置くとき,柱を立てるときなどに,基礎をロックにするなどの語を使っています。有るべきようにきちんとしていない人物を,ロクデナシという語源は,これで納得できます。」

とあり,確かに納得できる。

なお,『日本語の語源』は,別の説明をしている。

「役に立たぬ者をののしってマンロクデナシ(満足で無き者)といったのが,語頭を落としてロクデナシ(碌でなし)になった。マンロクニ(満足に)はロクニ,マンロクナ(満足な)はロクナになって,下に打消しをともなって用いられた。」

と。あるいは,そういう用例に,「陸」を当てて,「平らな」の解釈が,後から加わったのかもしれない。日用語だけに,そんな気がしなくもない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
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posted by Toshi at 05:11| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする