2018年02月15日

かげ


「かげ」は,

影,
景,
陰,
蔭,
翳,

と当てる。意味の使い分けは,漢字の渡来以降で,「いろ」の概念がなかったように,「かげ」の意味の差は,なかったに違いない。こんにち「かげ」は,

日・月・灯火などの光,
光によって,その物のほかにできる,その物の姿(水や鏡に写る姿,光を遮ってできる物のかげ)
物の姿(形,おもかげ,肖像,まぼろし,霊魂,付きまとって離れないもの,不吉な兆候)
物の後ろの,暗い隠れた部分(背面,他の人に及ぶ恩恵,隠れた所,人目に隠れた暗い部分),

といった,光の部分と翳の部分の両方の意味がある。これは,たぶん漢字に依る。漢字を見てみると,「景」の字は,

「京とは,髙い丘に建てた家を描いた象形文字。高く大きい意を含む。景は『日+音符京』で,大きい意に用いた場合は,京と同系。日かげの意に用いるのは,境(けじめ)と同系で,明暗の境界を生じること」

で,「日光によって生じた明暗のけじめ」で,ひかりとひかげの意味をもつ。因みに,「京(亰)」の字は,

「上部は楼閣の姿(高の字の上部と同じ),下部は小高い土台を描いたもので,髙く明るく大きいの意を含む。上古の人々は洪水や湿気をさけて,髙く明るい丘の上に部落をつくり,やがてそれが中心都市となり,京(ミヤコ)の意を生じた。景(ケイ 明るい日影)・鯨(ゲイ おおきいくじら)に含まれる。」

とある。ちなみに,数の単位の京は,

一・十・百・千・万・億・兆・京で「京」は 10の7乗,

で,この上は,

垓 𥝱(秭) 穣 溝 澗 正 載 極 恒河沙 阿僧祇 那由他 不可思議 無量大数,

となり,一垓は10の64乗。

「影」の字は,

「景は『日(太陽)+音符京』からなり,日光に照らされて明暗のついた像のこと。影は『彡(模様)+音符景』で,光によって明暗の境界が付いたこと。特にその暗い部分。」

であり,「陰」の字は,

「右側は,『云(くも)+音符今(=含。とじこもる)』の会意兼形声文字。湿気がこもってうっとうしいこと。陰はそれを音符とし,阜を加えた字で,陽(日の当たる丘)の反対,つまり,日の当たらないかげ地のこと。中にとじこめてふさぐ意を含む。」

と,まさに,日陰を指し,暗いとか湿った,という含意豆ある。「蔭」の字は,

「艸(くさ)+音符陰(ひかげ,くらい,なかにこもる))」

で,草木のかげ,である。それを喩えて,おかげ,といった含意になる。「翳」の字は,

「上部の字(殹 エイ)は,矢を箱の中に隠すことを表す会意文字。翳はそれを音符とし,羽を添えた字」

で,「ものに覆われてできたかげ」を意味する。漢字影,景,陰,蔭,翳,には,微妙な意味の違いがある。「かげ」は,それを当て替えることで,意味の陰翳をもたせたにすぎない。

『岩波古語辞典』は「かげ」について,

「古形カガの転。カガヨヒ・カグツチのカガ・カグと同根。光によってできる像。明暗ともいう。」

とする。これでいくと,「景」の字が,最も近いのかもしれない。『大言海』は,「かげ」を,「影」「陰・蔭」「蔭」と分け,「影」については,

「景にて,写し出すものの意」

とし,「陰」については,

「影の当たるところの意」

とし,「蔭」については,

「他の陰にタヨル意。或は,景(かげ),即ち光の義。其恩光を受けたる意」

と,漢字を当てた使い分けをきれいに整理して見せている。では和語「かげ」の語源は何か。

『日本語源広辞典』は,

「日本語の『カゲ・カギは,光』を表す言葉です。転じて,漢字の影響で,光の当たらぬ部分も,カゲを使うようになりました。」

としている。『岩波古語辞典』も『広辞苑』も,意味の第一に,

「(日・月・燈火などの)光」

としているのは,この故である。『日本語源大辞典』は,

カガ(爀・耀・赤々)の転(俚言集覧・松屋筆記・大言海),
カガヤクの義から(日本古語大辞典=松岡静雄),
カケ(日気)の義(和語私臆鈔・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
カカゲ(炫 かがやく)の義(言元梯),
カは鏡,ケは気の義(和句解),

と挙げているが,どうやら,「炫(かがやく)」「爀・耀・赤々」等々,輝きや赤々という含意で,「かげ」は,

光,

を指していたようである。漢字を知らなければ,「陰」「影」「蔭」の使い分けは出来なかったに違いない。しかし,かつては「色」ではなく,明暗しか言語化しなかったとすると,「かげ」は,光というよりは,『岩波古語辞典』のいう,

「光によってできる像。明暗ともいう」

というのが妥当に思える。つまり,光と影の明暗を意味したのではなかろうか。なお,

http://www.nichibun.ac.jp/graphicversion/dbase/forum/text/fn134.html

は,「かげ」自体が,渡来人がもたらした,としている。

「『カゲ』の基本的語義は『限界』であり、その語根は『kjang-』のように思われる。
  日本語のこの『カゲ(光・陰)』は、非常に古い時代に、日本に渡来した(創られた)ことばと言えよう。卑見では、弥生時代か、遥かそれ以前に、日本列島に渡ってきた渡来人が身につけてきたことばであると思われる。」(辛容泰「KAGE (Light・Shade) in Japanese―Searching for the Roots of Japanese Culture―」)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1

スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8

ラベル:かげ
posted by Toshi at 05:10| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする