2018年02月20日

おしえる


「おしえる(をしへる)」は,

教える,

と当てる。

注意を与えて,導く,さとす,戒める,
知っていることを告げ示す,
学問や技芸などを身につけるように導く,

といった意味がある。「教」(呉音キョウ[ケウ]・漢音コウ[カウ])の字は,

「『攴(ボク,ホク 動詞の記号)+音符爻(コウ,ギョウ まじえる)』で,さらに子を加えた字もある。子どもに対して,知識の受け渡し,つまり交流を行うこと」

で,「おしえる」意味だが,「先生と弟子の間に,知識を交流させること」「先生から弟子に,知識・経験・技術を受け渡して知らせる,また導く」意で,『論語』(為政篇)にある,

「善を挙げて,不能を教うれば」

は,その意味である。「おしえる」に該当する漢字は,「訓」(クン キン)の字があり,これは,

「川は,難所やしこりを貫通して流れるかわを描いた象形文字。貫(カン つかぬく)・穿(セン うがつ)と同系のことば。訓は『言+音符川』で,ことばで難題をほぐして通すこと。キナンは,唐宋音」

で,「おしえる」意味だが,「しこりや難問をときほぐして説く。転じて,物事の筋を通しておしえる」意で,「訓導」「教訓」等々。いまひとつ,「おしえる」にあたる漢字に,「誨」の字がある。これは,

「毎を含むことばは,悔(暗い気持ち)・晦(カイ 月が欠けて暗い)など,『くらい』という基本義をもつ。誨は『言+毎』で,相手の暗さをことばでとり除いて,さとそうと努力すること」

で,「おしえる」意だが,「物事をよく知らない者をおしえさとす」意となる。『論語』(述志篇)に,

「学まなびて厭わず,人ひとを誨(おし)えて倦まず」

とある。「教」「訓」「誨」の使い分けは,

教は,教は効也,訓也,令也,と註す。上より下に教ふるなり,
訓は,古より定めたる法則に従ひ,教ふるなり,
誨は,言を以て人を教導するなり,

とある(『字源』)。

さて,「おしえる(をしへる)」について,『広辞苑』は,

「形容詞ヲ(愛)シの動詞化」

とある。漢字の由来とは,まったく異なることになる。『大言海』の「をし(教)ふ」項には,

「愛(をし)む,と通ずと云ふ」

とある。「をしむ」とは,

愛(を)しと思ふ,深く愛す,愛(め)づ,いつくしむ,

等々の意である。「めづ」は,

めぐし,めぐむに通ず,

とある。「めぐむ」は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/452754933.html

でふれたように,

温かくいつくしむ,
相手を温かく抱き込む思いやり,

という意味である。「めぐ(愛)し」は,

「メは目,グシハココログシノグシで苦しい」

で,

見るも切ないほどかわいい,

という意である(『岩波古語辞典』)。「いつくしむ」は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/451028421.html

で触れたように,

愛づ,かはゆがる,

という意である。いずれにしても,和語「おしえる(をしへる)」には,

いつくしむ,

という含意が強くあるように思える。『日本語源広辞典』『日本語源大辞典』によると,少しずつ違うが,

愛惜する情から起こるものであるところから,ヲシム(愛)と通じる(嚶々筆語・和訓栞・大言海・国語の語根とその分類=大島正健),
人の悪いところをおさえ,良い事を知らせる意から,ヲシヘはオサヘの転。方言に,教えることをオサエル,オサユル,オセル等々がある(日本釈名・柴門和語類集),
オシフ(仕分ける)が語源。シワケル方法を伝えるのがオシエルの意(『日本語源広辞典』),
大物主神の故事から,ヲシヘ(麻知方)の義(言元梯),
親が子に食物の取り方を教える自然の習性が教訓の意に転じたところから,ヲシアヘ(食饗)の約(日本古語大辞典=松岡静雄),

等々の語源説がある。やはり,

ヲ(愛)シ,

を取りたいが,しかし,『論語』で,孔子が,

子曰,不曰如之何,如之何者,吾末如之何也已矣,

「如之何,如之何」と自ら尋ねない者には,師といえど,手の打ちようはない,と言ったように,教えることには,教わったことが何かを客体化し,自分の中で,腑に落ちぬところを見つけ出していくプロセスがなければ,ただ師の模倣品を作るだけだ。「ヲ(愛)シ」には,そのプロセスを見守ることも含まれている,と僕は思う。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
貝塚茂樹訳注『論語』(中公文庫)

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posted by Toshi at 05:18| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする