2018年02月21日

まなぶ


「まなぶ」は,

学(學)ぶ,

と当てる。「学(學)」の字は,

「メ印は交差するさまを示す。先生が知恵を授け,弟子がそれを受け取って習うところに,伝授の交流が行われる。宀印は屋根のある家を示す。學は『両方の手+宀(やね)+子+音符爻(コウ)』で,もと伝授の行われる場所,つまりがっこうのこと」

で,「まなぶこと」「学問」「まなびや」「学問をする人」という意味の広がりを持つ。「まなぶ」は,

まねてする,ならって行う,
教えを受ける,
学問をする,

と,最初に,「まねる」が来るところが特異である。「学ぶ」と当てて,

まねぶ,

と訓ませる言葉があり,

「『真似(まね)る』と同源」

として,

まねてならう,
見聞して物事をそのまま人に語り告げる,
教えを受けて習う,習得する,

という意がある。「まね(真似)る」を見ると,

「『学(まね)ぶ』と同源」

とあり,

他に似せてする,まねをする,

という意味となる。このために,例えば『日本語源広辞典』のように,「まなぶ」を,

「語源は,『マナ(真似)+ぶ』です。文化の高い中国から,学の概念が入って,よく似た概念の真似に,動詞をつくる接続語ブを加えたものと思われます。」

とし,「まなぶ」は「まねる」だと,する意見が多い。『岩波古語辞典』では,「まなび」は,

「マネ(真似)と同根。主に漢文訓読体で使う語。教えられる通り真似て,習得する意。類義語ナラヒは,繰り返し練習することによって身に着ける意。マナビは平安初期には上二段,中期以後余談に活用した」

とあり,「まね」(下二段)は,

「マネビと同根」

とし,「まねび」は,

「マネ(真似)と同根。興味や関心の対象となるものを,そっくりそのまま,真似て再現する意」

とある。

「まなぶ」と「まね」と同根,
「まね」と「まねび」は同根,
「まねび」は「まね」と同根,

との関係は,『大言海』では,「まなぶ」は,

マネブの転,

とあり,「まねぶ」は,

真似を活用す,或は云ふ,ブは履行(ふむ)の約転と,

とあり,「まね」が中心にあることになる。つまり,

マネ→動詞化マネブ→マネル,

と。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ma/manabu.html

は,

「学ぶは、『まねぶ(学ぶ)』と同源で、『まねる(真似る)』とも同じ語源である。そのため、学ぶの語源は『真似ぶ(まねぶ)』とされることも多いが、『まなぶ』と『まねぶ』は同じ時代に見られる語で、その前後関係ははっきりしていない。『真に似せる』の意味から『まね』や『まねぶ』が生まれ、『まなぶ』という語が生じたか、『誠に習う』の意味から『まなぶ』が生まれ、名詞形『まね』と、その動詞形『まねぶ』の語が生まれた考えられる。『まなぶ』は、教えを受けたり学問をする意味で多く用いられ、『まねぶ』は『まなぶ』よりも学問する意味は薄く、模倣する意味で用いられることが多い。また、『まねぶ』は主に口語として用いられていたが、『真似る』が広く用いられるようになったため、『まなぶ』の雅語(雅言)として扱われるようになった。」

とし,「まなぶ」「まねぶ」の前後関係は不明のために,

マネ→マナブ・マネブ,

なのか,

マナブ→マネ→マネブ,

なのかは分からない,とする。『日本語源大辞典』もやはり,「「まねぶ」の項で,

「マナブと同源であるが,その前後は不明。マナブは漢文訓読文,マネブは和文にそれぞれ多く用いられており,性差・位相差も考えられるが,マネブの使用例の多くは口まねする,あるできごとをその通りに模倣するの意で,教えを受ける・学問するといった意味あいはマナブにくらべるとずっと少ない。そのため模倣を意味するマネルが広く用いられるようになると,マネブは口語からしりぞいてマナブの雅語のように意識されるに至る」

とある。億説だが,僕は,

マネ→マナブ・マネブ,

の変化だったような気がする。「まなぶ」という概念は,抽象度が高い。古代,

真似,

こそが,文字をもたないわれわれの祖先にとって,伝承の道だったはずで,口承・口伝である以上,そのまま真似て覚えるほかはない。「まなぶ」という概念は,『日本語源広辞典』の言うように,中国からの文化渡来以降に「学んだ」に違いない気がする。

「まなぶ」「まねぶ」「まね」の語源をそれぞれ拾っておくと,「まなぶ」は,

マネブの転(和訓栞・大言海)
マ(真)から出たマネブ(擬)の転(国語溯原=大矢徹),
マネベ(真似方)の義(名言通),
マネフ(真似生)の義(和語私臆鈔),
マネ(真似)から出た語(和句解),
マナビのナヒの反はニであるところから,マニ(真似)の義(俚言集覧),
マまマコト(誠),ナブはナラフの義(日本釈名),

「まね」は,

マネブの語根(大言海),
マネブの略(晤語),
マコト(真)を似せる意(日本釈名)。
讒言によって武内宿禰が殺されそうになったとき,宿禰に似ていることで身替りとなった真根子から(閑山耕筆),
マニセの略(晤語・俗語考),

「まねぶ」は,

マネ(真似)の活用(大言海),
マネ(真似)ブルの義(和訓栞),

となっている。

こうみてみると,「まね」「まねぶ」と「まなぶ」とはほとんど重なっている。「まなぶ」が「まねぶ」と重なったことが,ひょっとするとわれわれの「まなぶ」観をゆがめてしまったのかもしれない。祖述も大切だが,「まなぶ」とは,「学び方」を学ぶことであり,それは,ものの見方,質し方を学ぶことではないか,と僕は思うからである。

だから,「まね」て,なぞっている限り,まだ「まなぶ」の領域には入ってはいない。「まね」の領域をクリアして初めて,「まなぶ」とはどういうことなのか,を学び始める。「まなぶ」は,ここからしか始まらない。まだ「まなぶ」のとば口にいるだけだ。「まなぶ」とは「まねる」ことだなどと言っている限り,永久に,「まなぶ」とは何か,を手に入れることはない。「まなぶ」は,まず,問いから始まるからだ。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1

スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8

posted by Toshi at 05:06| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする