2018年02月28日

あんちょこ


「あんちょこ(アンチョコ)」は,

安易にちょこっと参照する,

といった意味の略語だと思っていたが,

「アンチョク(安直)の訛」

とか。『広辞苑』には,

「教科書で学習する要点が記されていて,自分で調べたり考えたりする必要のない参考書,虎の巻」

とあるが,「あんちょこ」と「虎の巻」とでは少しニュアンスが違う気がする。「虎の巻」は,『広辞苑』には,

「中国の兵法書『六韜(りくとう)』の虎韜巻から出た語」

とあり,

兵法の秘伝を記した書,
転じて,秘事・秘伝の書,
講義などの種本,
教科書の安直な学習書,

等々と,転じて転じて,とうとう「あんちょく」とほぼ重なったということか。『岩波古語辞典』を見ると,

「中世に流布した兵書四十二巻のうち,もっとも重要とされた一巻の名」

とある。これが,「虎韜巻」ということになる。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/to/toranomaki.html

には,「虎の巻」について,

「虎の巻は、中国の兵法書『六韜(りくとう)』から出た言葉。 六韜は文・武・竜・虎・豹・犬の六巻からなり、そのうちの兵法の奥義が記された秘伝書『虎韜の巻(ことうのまき)』の名が略され、『虎の巻』となった。 虎の巻は本来の意味から、単に秘伝書の意味に転じ、教科書の解説本などの意味で使われるようになった。」

とある。「六韜」の「韜」の字は,

「右側の字(音 トウ)は,外枠の中へいれる,枠の中でこねること。韜はそれを音符とし,韋(なめしがわ)を加えた字。かわをそとにめぐらせてその中に包見込む意」

で,「弓や剣を入れておくふくろ」から,「包んで隠す」,「中に隠す」という意で,「韜」は秘伝の意(『日本語源広辞典』)らしい。「六韜」については,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E9%9F%9C

に詳しいが,

「中国の代表的な兵法書で、武経七書の一つ。このうちの『三略』と併称される。『韜』は剣や弓などを入れる袋の意味である。一巻に『文韜』『武韜』、二巻に『龍韜』『虎韜』、三巻に『豹韜』『犬韜』の60編から成り、全編が太公望呂尚が周の文王・武王に兵学を指南する設定で構成されている。中でも『虎の巻(虎韜)』は、兵法の極意として慣用句にもなっている。」

とあり,

「平野部での戦略、武器の使用法についての記述」

があるとか。とうとう「あんちょこ」と同義まで落ちたが,「あんちょこ」は,『日本語源広辞典』に,

あんちょく,
チョク,
チャーク,
チョコ,
虎の巻,
トラ,

等々とも呼ばれるらしい。『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/01a/ancyoko.htm

には,

「あんちょことは『安直(あんちょく)』が変化した言葉で、教科書を解説した参考書のことである。教科書を転写したものに語句や公式など要点を解説したり、教科書にある問題を解説したものが多い。自習参考書とも呼ばれるように、本来は予習・復習など自習のために作られたものだが、宿題として出された教科書の問題を手っ取り早く済ませるために購入する者も多い。あんちょこという呼び方は昭和初期から使われており、俗な呼び方の中では最も広く使われている。また、一般的には教科書ガイドと呼ばれている。」

とあり,昭和初期から使われていたようだ。

https://ameblo.jp/kujoyuiko/entry-11540502270.html

には,「安直」の意味を,

「1.値が安いこと。金がかからないこと。
 2.十分に考えたり、手間をかけたりしないこと。」

としているが,そうではない気がする。「虎の巻」同様,「あんちょこ」も,「安直に」作られたものは,所詮それだけのものではないのか。

「あんちょこ」に似たことばに,

カンペ,

というのがある。『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/06ka/kanpe.htm

には,

「カンペとはカンニングペーパーの略で、試験の際、カンニングに利用するための公式や歴史の年号、英単熟語などが書かれた紙切れを意味した(ちなみにカンニングペーパーも和製英語です。英語では"crib sheet"や"cheat sheet"という)。ここからTV番組で司会者など出演者に台本内容や構成を掲示するための紙(主にスケッチブック)のこともカンペと呼ぶ(歌番組では歌詞が書かれたカンペを見て歌う歌手もいる)。このカンペは基本的にTV画面に映らないものだが、近年のバラエティー番組では、あえてカンペを持ったADを映すことで笑いをとるものもある。」

とあるが,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%9A

には,

「テレビ番組などの収録で用いられる用語で、台詞や番組進行などをカメラに写らない位置に掲示し、演者に伝えるための大きな用紙・スケッチブックのこと。語源は『看板ペーパー』(紙で作られた看板)であるが、発音や音素から、カンニング・ペーパーの略語と誤解される場合も多い。看板ペーパーの『看板』は、『Kanban(英語版)』として、日本語に由来する英単語の一つとなっている。
(他方)暗記を評定する試験の際に、受験者が不正に用いる紙片やメモのこと(をいうカンペは),カンニング・ペーパーの略語であるが、舞台芸術の分野でいう『カンペ』とは、その意味も語源も異なるため、混同しないよう注意が必要である。」

と,

「看板ペーパー」(紙で作られた看板)

のカンペと,

カンニング・ペーパーの略語,

のカンペとは,語源が異なるらしい。カンニングという意味では似ている,

プロンプター,

という言葉がある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%97%E3%82%BF%E3%83%BC_(%E8%88%9E%E5%8F%B0%E8%8A%B8%E8%A1%93)

には,

「プロンプター(英: [名] prompter, [動] to prompt)とは、舞台演劇において、出演者が台詞や立ち位置、所作を失念した場合に合図を送る(プロンプトを行う)ことを役割とする舞台要員(スタッフ)のこと。」

として,

「プロンプターの必要性、すなわち舞台上で俳優が台詞等を失念する可能性は、演劇の誕生とともにあったと考えるのが自然である。ただし、古代ギリシャや古代ローマでの古典演劇では、誰がどのようにしてプロンプトを行っていたのかに関しての資料が乏しい。
現代の演劇公演においては、プロンプトは舞台監督の職責の一部と考えられている。舞台監督は通常上手(かみて)袖の部分に設けられた『プロンプト・コーナー』あるいは『プロンプト・デスク』と呼ばれる場所(劇場や演目の規模に応じて、文字通り単なる小机であることも、各種機材の設置されたブースであることもある)に位置し、照明・音響などの合図(キュー出し)を行うとともに、俳優が台詞や動作を失念した場合にはその「きっかけ」を与えて助ける。」

とある。こうなると,もうカンニングというより,システム化したカンペに近い。これをシステム化したものが,今日の,原稿表示用機器としての,

プロンプター,

で,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%97%E3%82%BF%E3%83%BC_(%E9%9B%BB%E6%B0%97%E6%A9%9F%E5%99%A8)

に,

「プロンプター、テレプロンプターとは、放送・講演・演説・コンサートなどの際に、電子的に原稿や歌詞などを表示し、読み手や演者を補助するための装置・システムを指す。」

とあり,

「プロンプターと呼ばれるシステムには、大きく分けて3通りの種類がある。いずれの場合もパソコンからの原稿映像を離れた場所にある液晶モニタなどに映し出して使用する。ビデオカメラの場合はレンズの前に液晶ディスプレイとハーフミラーが組込まれており、演説などの場合はハーフミラーが演台の前にセットされる。またコンサートなどではステージと客席の間に大型のディスプレーを配置する。」

とか。ここまでくると,「あんちょこ」もばかにはならない。

プロンプター.jpg



参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1

スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8

posted by Toshi at 05:13| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする