2018年03月08日
やっと
「やっと」は,
実現や成立がむずかしい物事が,どうにかこうにかなりたつさま,かろうじて,ようやく,
(上方語)たくさん,多く,
(上方語)ずっと,はるかに,
とあり,さらに,感嘆語として,
掛け声や応答の声,
でもあると『広辞苑』には載る。
やっとな,
やっとまかせ,
とも言ったりする。
よいとこしょ(せ),
よいとこな,
よいやさ,
ともつながる。「よいとまけ」は,その掛け声ともつながるが。『日本語俗語辞典』
http://zokugo-dict.com/38yo/yoitomake.htm
は,
「ヨイトマケとはもともと重い物を滑車で上げ下げするときや、網を引き上げるときに言った『よいとまぁけ』という掛け声のことである。これが転じ、建築で重しの槌や柱を上げ下げし、地盤を突いて地固めをする労働のこと自体や、その労働をする人をヨイトマケというようになった。また、かけ声の違いから『えんやこらや』と言うエリアもある。ヨイトマケの多くは女性で、稼ぎの少ない夫を持った妻や、夫に先立たれた妻が家族を養うための仕事でもあった。このことから、ヨイトマケ=働く女性という意味合いで使われることも多い。」
としている。
閑話休題。
さて,「やっと」であるが,『広辞苑』は載せないが,『デジタル大辞泉』は,
漸と,
の字を当てている。「漸」の字が,
「斬(ザン)は『車+斤(おの)』の会意文字で,車におのの刃を食いこませて切ること。割れ目に食い込む意を含む。漸は『水+音符斬』で,水分がじわじわと裂け目にしみこむこと。訓の『やうやく』は『やや+く』の変化したもの」
とあり,この字から逆算すると(邪道だが),
ようやくと→ようやっと→やっと,
といった転訛が想像されるが,『日本語源広辞典』は,
「ヤット(ずっと,たくさん)の意の副詞です。転じて,やっとの思い,やっとの事で,を表すようになり,『かろうじて,ようやく』の意を表すようになったのです」
として,「たくさん」の意から,意味が広がったという説を採る。『大言海』は,
「曳(エイ)との轉。力を入るるより云ふ」
と,掛け声の「やっと」から,意味が抽象度を上げた,という説を採る。どちらかというと,これが,擬態語や擬音語の多い和語の実態に叶っているように思える。
曳(エイ)と,
から,
えんや,
えいや,
えんやらや,
えんやらやっと,
と広がった掛け声から「やっと」が出たとすると,「えんやらやっと」の転訛と見ることもできる。「えんやらやっと」は,
かろうじて,ようやくのことに,
という意味で,『デジタル大辞泉』には,
えんやらやっと持ち上げる,
という用例が載るが,これでいくと,「えんやらやっと」が,一方で,
えんやらやっと→やっと,
と,他方で,
えんやらやっと→えんやらや,
と,転じて行ったと見ることもできる。そのようやく成し遂げたという感じが,
辛うじて物事をするさま,
の意にも,
何とかかんとか,
の意にも,
ながらく,
の意にも,
たくさん,
の意にもつながる気がする。それは,
やっとこさっとこ,
という言葉にも通じる。やはり,擬態(音)語由来である。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8