2018年03月14日

つばき(唾)


「つばき」は,

つば,

とも言う。

唾,

と当てる。『広辞苑』は,「つば」の項で,

古くはツハ,

とし,『日葡辞典』の「ツワ」を載せる。「つばき」の項では,

「動詞ツハクの連用形から。古くはツハキ・ツワキ」

と載せる。『岩波古語辞典』も,

「古くはツハキと清音。室町時代にはツパキ・ツワキの形が現れた」

とあり,室町末期の『日葡辞典』に「ツワキ」とあるのが納得できる。『岩波古語辞典』に,

「古くは,ツだけで唾液を表したが,ツバ(唾)という用語もある。Tufaki」

とあり(『広辞苑』『岩波古語辞典』『大言海』ともに「つ」(唾)の項が載る),

「液,小児口所出汁也,豆波木(つはき)」(新撰字鏡),
「唌,ツハキ」(名義抄),
「唾,ツワキ」(文明本節用集),
「唾,ツバキ」(明応本節用集),

と変化の跡を載せている。で,「つ」(唾)から,唾を吐く意の,

「つはき(唾吐き)」,

唾液を飲み込む意の,

「つ(唾)を引く」

という言い方があった。『学研全訳古語辞典』には,「つはく(唾吐く)」(カ行四段活用)の項で,「つばを吐く」意と載る。『広辞苑』の「ツハク」は,この意である。で,『日本語源広辞典』は,「つばき」の語源を,

「『ツ(唾)+吐き』の変化です。古語ツは,唾。ツバキとも。動詞のツハク(ツ+吐く)から,ク音脱落より,唾となった」

とする。「つばき」の語形変化については,『日本語源大辞典』は,

「『十巻本和名抄』に『都波岐』,『新撰字鏡』に『豆浪支』とツハキの語形が見える。院政期加点と目される『高僧伝長寛元年点』に,『唾手(ツワキハイテ)』の語形がみえるところから,ツハキ→ツワキの変化が私的できる。ツバキと濁音化した例は,室町時代からみられ,『堯空本節用集』に『唾 ツバキ』と見えるほか,『日葡辞典』の見出し語にも見える。室町時代には,ツバキのほかに,ツハキ,ツワキ,ツ,ツハ,ツバ,ツワの語形が存する。このような状態は江戸時代まで続くが,次第にツバキがツバと共に優勢となる。なお,ツハキ→ツハケ,ツバキ→ツバケの変化も室町時代以降に生じたものの,一般化せず『日本語俗語辞典』の域にとどまっていた。」

と載せている。しかし,「つばき」は,

ツ(唾)吐く,

意の略であって,

ツ(唾)吐く→(ツハク→ツワキ→ツバキ)→ツバ(唾),

と,変化したことの意味は分かるが,「つ」がツバの語源の謂れは明らかではない。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/tu/tsuba.html

も,「つば」について,

「『つば』は『つばき』の『キ』が脱落した語。 古くは『ツハキ』と清音で 、『ツ』が『唾』、『ハキ』が『吐く』を意味し、唾を吐くという意味の動詞であった。 平安時代 頃より、『ツハキ』は『唾液』の意味で使われ始め、ハ行転呼音で『ツワキ』と、濁音化した『ツバキ』の形が見られるようになる。江戸時代に入ると、『キ』の脱落した形での使用が 増え、『つば』が一般的な呼称となった。」

とやはり,「つばき」の語形変化をたどるだけである。「唾吐き」以外の語源説は,

ツはイズ(出)の上略で,人体から出るものであるところから。ハキは吐の義(日本釈名),

のみである。後は,

ツバ気の義(言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ツバは口・舌・脣の意。キは液汁をいう(国語の将来=柳田國男),

と,ちょと「つ(唾)」から外れていく気がする。「つ」が「イズ(出)」と言うのもいいが,和語が擬音語・擬態語が多いことから見ると,「つ」は擬態語なのかもしれない。臆説かもしれないが,擬態語に,

「つー」

というのがある。

「糸で引かれたように真直ぐに移動する様子」

を示すという。上記の『新撰字鏡』の,「液,小児口所出汁也,豆波木(つはき)」という「つば」の説明から考えると,これではないか,と独り合点するのだが。

因みに,「唾」の字は,

「垂は『作物の穂の垂れた形+土』の会意文字。唾は『口+音符垂』で,口からだらりと垂れさがるつば」

の意である。

https://99bako.com/2212.html

に,

「『つば』は漢字で『唾』と書き『つばき』がより正確な言葉です。(中略)『つば』は話し言葉です。書き言葉としてはふさわしくありませんので、かしこまった表現が求められる文書の中で『つば』を使うことはできません。」

とあるのは,如何なものか。語形変化からみたとき,こういう断定は,一方的に過ぎるし,ばかげている。今日の紺色一辺倒の終活服装と似た,頑迷固陋さを感じさせるだけである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1

スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8

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posted by Toshi at 05:06| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする