2018年04月20日

モモ


「モモ」(漢音トウ,呉音ドウ)は,

桃,

と当てるが,「桃」の字は,

「兆(チョウ)は,ぱんと左右に二つに離れるさま。桃は『木+音符兆』で,その実が二つに割れる桃の木」

とある(『漢字源』)。


k-308.gif
https://okjiten.jp/kanji308.html による)

https://okjiten.jp/kanji308.html

は,

「『大地を覆う木』の象形と「うらないの時に亀の甲羅に現れる割れ目」の象形(『前ぶれ』の意味だが、ここでは、『2つに割れる』の意味)から、2つにきれいに割れる木の実、『もも』を意味する「桃」という漢字が成り立ちました。」

としている。「二つに割れる」というのが印象深い。漢名は,仙果,仙木,仙桃,金桃,仙果花,洞中仙,瓶子桃,仙人桃等々あり,古名は,

「三千年草(ちとせぐさ),三千代草,御酒古(みきふる)草。また,毛桃とも呼ばれたが,これは果実が大きく毛があったからである。油桃(あぶらもも)というのは赤くて油を塗ったようだというのでこの名がある。これをズバイモモともいう。」(『たべもの語源辞典』)

とある。さらに,

「弥生時代の遺跡からモモの果核が出土するのでコダイモモ(古代桃)が日本に自生していたという。また,牧野富太郎『新日本植物図鑑』によると『日本では丸くて中のかたいものをモモといい,今日のヤマモモを単にモモといっていたのに対して,大陸から本種が入り,それにとってかわったものであるとの説が最も妥当と考えられる』という。『古事記』には意富加牟豆美命(おほかむづみのみこと)という名を賜ったことが記されている。」(『たべもの語源辞典』)

とあり,ヤマモモから中国から入った桃(黄河上流域原産とか,北京付近原産とかといわれる)に入れ替わったということらしい。『広辞苑』に,

「古くから日本に栽培,邪気を払う力があるとされた」

とあるが,

「桃に魔除けの力があるという思想は,中国からきたものであろう。中国では桃を果実の王とした。十二月と二月の八日に枝を切って門口に立てる風習があるというが,桃符からきたものである。」

ということらしい。


800px-Vineyard_peaches_de.jpg
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%A2 より)

「モモ」語源は,『大言海』には,

『眞實(まみ)の轉,褒めて云ふかと云ふ。又,燃實(もえみ)の意かと云ふ。或は,實の多きにより百(もも)の義か。沖縄にて,ムム』

と三説載せる。和名抄には,

「桃子,毛毛」

と載るらしい。しかし,「モモ」の語源説は,すさまじい数がある。『日本語源大辞典』には,

マミ(真実)の轉(大言海),
実の赤いところからモエミ(燃実)の義(言葉の根しらべの=鈴木潔子・大言海),
赤いところからモミジ-ミ(実)の義(日本釈名・柴門和語類集),
カムミ(殕実)の義(日本語原学=林甕臣),
二拍目のモは実の義(桃の伝説=折口信夫),
実の多いところからモモ(百)に通ず(東雅・言葉の根しらべの=鈴木潔子・大言海),
実に毛のあるところからのモモ(毛毛)の義(滑稽雑誌所引和訓義解),
マロマロ(丸丸)の意(名語記),
モリモリの義,モリはモグの意(名言通),
モルモノ(盛物)の義(和句解),
『日本書紀』の記述から,モオフ(鬼遂)の義(言元梯),
果肉中に核があり,その中に仁のあるものの総称(東雅),
朝鮮語to-mo(桃毛)から,桃の毛には邪気を払う威力があるとされる(木の名の由来=深津正),

等々を載せるが,その他にも,

ウマミ(旨実)が語頭をおとしたマミはマメ(豆)になるとともに他方ではモモ(桃)に転音した(日本語の語源)
「旨uma,実mi」。母音uが落ち,mamiとなり,転じてmamo,momoと音韻変化した(日本語源広辞典)
「古くからモモは、民話『桃太郎』で子供が生まれたり、日本神話で悪魔払いに用いられる など、花や木よりも果実に重点が置かれており、実に意味があると考えられるため、『モ』 は『実』の転であろう。沢山成ることから『実』を強調した『実々(みみ)』を軸に、『百(もも)』にも通じる語と思われる。」(語源由来辞典)

等々,数えきれない。しかし,どうやら,『たべもの語源辞典』の言う,

「…方言から考えると,スモモをカタチモモ(山口県大島),カラモモ(長野県),桑の実をクワノモモ(静岡県),サクラの実をサクラボボ(千葉県),椿の実をアブラモモ(隠岐),タカシモモ(島根県),槇の実をサルモモ(山口県)。長野県上田地方では,アンズやウメをモモと呼んだ。また長野県南安曇野地方では,クリをクリモモといった。したがって,モモは,桃ではなく果物の意味に用いられていることがわかる。」

のが妥当のように思える。文字での表現を要しない会話では,その場で,何の果実のことを指しているかは,明確だからだ。

http://www.minpo.jp/pub/topics/time/2014/08/post_22.html

も,

「桃は木であり、きれいな花も咲くが、日本人は昔から果実にだけ注目し、強い関心を持っていたようだ。国文学者の鈴木棠三氏は桃について、『もとはモモに限らず赤らんだ木の実・草の実を一般にモモと呼んだらしく、その証拠にはいまも中国・四国以東の各地方で果実の総称がモモである』と述べている。
 確かに『日本方言大辞典』を見てみると、木や草の実、果実、果物を『モモ』と呼んでいる地域は、全国23府県にあり、『梨のもも』、『椿のもも』、『南天のもも』、『梅のもも』という用例もあるし、三重県には果物屋を『モモヤ』と呼んでいる地域もある。(中略)
 大昔の日本人は、身近な木の実や果実を、発音しやすい『モモ』や『モンモ』と呼んでいたのだろう。『モンモ』は本県のほか、茨城、栃木、埼玉、千葉、和歌山、島根でも使われている桃の方言である。」

とある。では,桃の「モモ」はどう呼んでいたのか。どうやら,

ケモモ,

であったらしい。『たべもの語源辞典』は,

「『万葉集』にはケモモ(毛桃)の歌が三種ある。『はしきやしわぎへの毛桃本しげく花のみ咲きてならざらめやも』(巻七),『わが宿の毛桃の下に月夜さししたなやましもうたてての頃』(巻十),『大和の室原(むろふ)の毛桃本繁く言ひてしものをならずば止まじ』(巻十一)などがあり万葉時代にはケモモが多く植えられていたことがわかる。…モモとという名称がつく果実には,スモモ(別名ソモモ)とかカラモモ(杏)などがある。モモは果実の意であったが,桃(ケモモ)が果実を代表した日本人の生活に密着してくると,昔,鬼の親方が桃の棒でなぐり殺されたので鬼共が桃を恐れるようになったという中国伝説から桃太郎伝説がつくられる。(中略)ケモモがモモとして独立したのは古い。桃をモモとよぶのは日本人のよび方であって渡来語ではない。」

と締めくくる。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95


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2018年04月21日

さくらんぼ


「さくらんほ」は,

桜ん坊,
桜桃,

と当てる。「もも」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/458902474.html?1524164039

で触れたように,「もも」は実全体を指していて,たべもの語源辞典』は,

「…方言から考えると,スモモをカタチモモ(山口県大島),カラモモ(長野県),桑の実をクワノモモ(静岡県),サクラの実をサクラボボ(千葉県),椿の実をアブラモモ(隠岐),タカシモモ(島根県),槇の実をサルモモ(山口県)。長野県上田地方では,アンズやウメをモモと呼んだ。また長野県南安曇野地方では,クリをクリモモといった。したがって,モモは,桃ではなく果物の意味に用いられていることがわかる。」

と述べており,梨のもも,椿のもも,南天のもも,梅のもも等々の流れから,

桜のもも,

なのではないか,と思うのだが,どうもそうとは言えないらしい。『大言海』は,

「擬人したる語,圓顱に寄せても云ふか。吉野山の櫻本坊を,サクランボウと云ふとぞ(酸模[すいば],すかんぼう。みずすまし,あめんぼう)」

と,「桜ん坊」の「坊」を取って,擬人化と見なす。


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(サクランボ(桜桃) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9Cより)

「サクランボ」は,桜桃とも言うが,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9C

によると,

「中国には昔から華北・華中を中心に、支那桜桃(シナノミザクラ, Prunus pseudocerasus)・唐実桜(カラミザクラ)がある。…江戸時代に清から日本に伝えられ、西日本でわずかに栽培されている。…『桜桃』という名称は中国から伝えられたものである。セイヨウミザクラが日本に伝えられたのは明治初期で、ドイツ人のガルトネルによって北海道に植えられたのが始まりだとされる。」

とし,

「サクランボは、桜の実という意味の『桜の坊』の『の』が撥音便となり、語末が短母音化したと考えられている。」

と,擬人化説を採る。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/sa/sakuranbo.html

も,

「『桜ん坊(さくらんぼう)』とも言うとおり、『さくらんぼう』の『う』 が落ちた語で、語源は、ミザクラの果実を擬人化したか、その形を坊主の丸い頭に 見立てたとされる。 その他の説では、桜モモが転訛したとする説や、果実を意味する『ボボ』が『ボウ』になったとする説、桜干(さくらぼし)の意味からなど諸説ある。」

と,擬人説に肩入れする。『日本語源広辞典』には,

擬人化して言った語(大言海),
円顱[えん](坊主頭)に寄せて言ったもの(大言海),
サクラボシ(桜干)の義か(擁書漫筆),
桜モモの転(江戸のかたきを長崎で=楳垣実),
ボウは果実を意味するボボから(語源大辞典=堀井令以知),
幼児語に発するか(角川古語辞典),

と諸説載る。『日本語の語源』は,

「モノ(物。者)をボーという例がある。ドロボー(盗る者)・アマエンボー(甘える者)・オコリンボー(怒る者)・シワンボー(吝い者)・アバレンボー(暴れる者)…」

と並べて「サクランボ」を挙げるが,人の言動・振る舞いを擬人化するのと同列に置くのはいかがかと思う。

『日本語源広辞典』は,

「『桜の桃』です。桜+の(no→n)+もも(桃・果実)」が語源です。

とし,「momo→bobo→bo」と転訛したとしている。僕は,これが妥当だと思う。あるいは,「さくらぼぼ」と転訛したとき,「坊」を当てて,擬人化したという見方もできる。

「もも」が果実一般を指していたからこそ,

ウメもも,
クリもも,

と呼んでいた,その流れから見て,

サクラモモ,

と呼んでいたのを起源とするのが,妥当ではないか。擬人化は後の作為とみる。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95


ラベル:桜ん坊 桜桃
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2018年04月22日

つばさ


「つばさ」は,

翼,

と当てるが,「はね」との違いについて,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%BC

は,

「日本語では、『鳥の翼』(英語: wing)を表す言葉には『つばさ(翼)』『はね(羽)』の2語があり、いずれも万葉集より用例がある。
葦辺行く雁の翼を見るごとに君が帯ばしし投矢し思ほゆ (13#3345)
梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る (10#1840)
『つばさ』がもっぱら『鳥の翼』の意味であったのに対し、『はね』はより広い語義をもち、『昆虫の翅』を指すのにも用いられる。さらに、『矢羽根』『赤い羽根』『羽根ペン』というように、『羽根』と書けば 英語: feather の意味になる。英単語 feather 『羽根』がギリシア語 pteron 『翼』と同じ語源をもち、古くは複数形で『翼』を意味したことからも分かるように、『翼』と『羽根』とは互いに距離の近い概念であると言えよう。」

としている。「はね」は,

羽,
羽根,
翅,

と当てる。「翼」(漢音ヨク,呉音イキ)は,

「原字はつばさを描いた象形文字。のちそれに立をそえて,つばさを立てることを示す。竓(ヨク つばさ)はその系統を引く字。翼は『羽+音符異(イ)』で,ひとつのほかにもうひとつ別のがあるつばさ」

とある(『漢字源』)しかし,


k-1455.gif
https://okjiten.jp/kanji1455.htmlによる)

https://okjiten.jp/kanji1455.html

は,

「『鳥の両翼』の象形と『人が鬼払いにかぶる面をつけて両手をあげている』象形(「敬い助ける」の意味)から、
『両翼・つばさ』を意味する『翼』という漢字が成り立ちました。」

とする。いずれかの判断はつきかねるが,「ふたつ」の意味で,『漢字源』のように思える。

「羽」(漢呉音ウ)の字は,

「二枚のはねをならべたもの」

で,両翼の象形文字。この字は,虫の羽根の意でも使う。

k-227.gif
https://okjiten.jp/kanji227.htmlより)

「翅」(漢呉音シ)の字は,

「羽根+音符支(江田まっすぐで短い)」

で,「鳥・昆虫」のまっすぐ伸びた短い羽を意味する。魚の鰭の意もある。

Wing_of_the_sparrow2.jpg
(スズメの翼。揚力を発生させる構造を見ることが出来る https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%BCによる)

さて,「つばさ」の語源であるが,『日本語源大辞典』は,

トブサ(鳥総)の転か(名言通・和訓栞・大言海),
鳥羽総の義(日本語源=賀茂百樹),
トブフサデ(飛房手)の義(日本語原学=林甕臣),
ツヨキハサキの義か(和句解),
ツは鳥に関する名称に付ける接頭語。ハサはハサキ(羽先)の略か(万葉集類林),
ツラハ(連羽)の義(言元梯),
ツバフサ(強羽総)の約(日本古語大辞典=松岡静雄),
鳥をハサムの義から(日本釈名),

と諸説挙げるが,決め手がない。『日本語源広辞典』は,

「ツ(鳥)+フサ(総)」。鳥の総の意,
「ツ(飛)+フサ(総)」。飛ぶための総の意,

の二説を挙げる。確かに,

とり

の項で触れたように,「とり」は,『ト』は『飛ぶ』の意味で,

「ト(飛ぶ)+り(接尾語)」

なのだとすれば,「とり」の「と」が「つ」転訛,たとえば,

tobusat(飛ぶ)→tubasa(翼),

という転訛はなくはないが,むしろ「つばめ」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/458420611.html

で触れた『日本語の語源』が,「つばめ」の音韻変化説を,

「『黒む』という動詞は『黒くなる。黒みを帯びる』という意味である。…春来て秋帰る燕は人家に巣くってかくべつ馴染みの深い小鳥であるが,大昔の人はこれをツバサクロム(翼黒む)鳥と呼んだ。『サ』を落としたツバクロムは『ロ』の母音交替[oa],『ム』の母音交替[ue]の結果,ツバクラメに転音した。(中略)さらに語尾を落としてツバクラ・ツバクロになった。(中略)ツバクラメの省略形がツバメである。(中略)筑後久留米(浜荻)・広島・愛媛・佐賀・長崎・香川県では,最古のツバサクロム鳥の省略語として,燕のことをツバサと呼んでいる。」

として,ツバメの転訛としての「ツバサ」の方が,無理に接頭語や言葉合わせをするよりも,飛ぶものの代表として「つばめ」が妥当かどうかは措くとして,興味が引かれる。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95


ラベル: 羽根
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2018年04月23日

はね


「はね」は,

羽根,
羽,
翅,

と当てる。「つばさ」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/458938977.html?1524337711


で触れたように,「羽」(漢呉音ウ)の字は,

「二枚のはねをならべたもの」

で,両翼の象形文字。この字は,虫の羽根の意でも使う。

k-227.gif
https://okjiten.jp/kanji227.htmlより)

「翅」(漢呉音シ)の字は,

「羽根+音符支(江田まっすぐで短い)」

で,「鳥・昆虫」のまっすぐ伸びた短い羽を意味する。魚の鰭の意もある。

『岩波古語辞典』も『広辞苑』も,

「鳥の羽の根もと」

の意があり,「和名抄」

「翮,八禰,羽根也」

を引く。鳥の羽根,翼,虫の翅,羽毛の意を含んでいる。『大言海』も,

「鳥の葉の根,ハダキ,翮」

とする。「翮(カク,レキ)」の字は,

「はねのくき(羽莖),はねのもと(羽本)

を意味する。

Orthetrum_albistylum_speciosum_2007.07.05_16.38.31-p7050469.jpg
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%9Cより)

つまり,こう見てくると,「はね」に「羽」を当てたとき,実は「翮」の意味だったのではないか,ということを窺わせる気がする。「羽根」と当てるには,意味があった,ということである。『日本語源広辞典』は,

「羽(薄くて平たいもの)+ネ(根)」

としている。『日本語源大辞典』は,「はね」の語源を,

ハヤノへ(速延)の反(名語記),
ハノテ(羽之手)の義,また,ヒラニコゲ(平柔毛)の義(日本語原学=林甕臣),
ツクバネの略か(守貞漫稿),
はねることから(和句解),

何れも語呂合わせに過ぎない。「はね」が「羽の根」とわざわざ限定したのは,『岩波古語辞典』が言うように,「は」が,

「鳥の全身をおおう毛,転じて翼・翅など空中を飛行するためのもの」

という意だったからに違いない。とすると,「は」が問題になる。「は」も,

羽,

と当てるが,『大言海』は,

「平(ヒラ)の約,扇(はふ)るの意」

とある。「はふる」は,

羽振る,

で,「羽を活用」するもので,「はばたく」意である(「平」は,歯の語源もまた「平」らしいのはおもしろい)。『日本語源広辞典』の,「羽(薄くて平たいもの)」とも通じる。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ha/hane.html

は,

「羽の語源には、『ハヤノヘ(速延)』の反や、跳ねるところからとする説もあるが、漢字で『羽根』とも表記するように、『ハネ』は『ハ』という不安定な一音節を避けるため、接尾語『ネ』を付けたものである。『ハ』の語源には、『ヒラ(平)』『ハル(張・発)』『ハ(葉)』などの 意味とする説があり、一音節からなる言葉の由来を特定する事は難しいが、広がりの あるものを表す語には『h』の音で始まる語が多く、擬態語に似た表現が元になっていると考えられる。」

と,「は」を安定させるための「ね」で,「ね」自体には意味がないとするのも一説ではあるが,それは,「は」が羽根から,翼にまで意味を拡げたこと,さらには矢に付ける矢羽根の意味にまで分化したことに対応しているのかもしれない。「はね」が羽の根から,翼に間で意味を拡げたように,「は」も,全身の毛から,翼にまで意味を拡げて,「はね」と意味が重なったとみられる。

『日本語源広辞典』は,「は」を,

「薄くて平らなもの」

としたが,それは,

ヒラヒラ,

のような擬態語に由来するとみられるが,「歯」も「平」とつながるところから見ると,ただ,平らな状態の,

ヒラ,

と言った方がいいように思う。「ひら」は,『岩波古語辞典』では,

薄くてたいら,
物の平らな面,

を指す,だから,

葉,

ともつながる。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95


ラベル:はね 羽根
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2018年04月24日

トンボ


「トンボ」は,

蜻蛉,
蜻蜓,

と当てる(『広辞苑』)。「蜻蛉」は,

かげろう,

とも訓ませる。

トンボの古名,

である。さらに,「蜻蛉」を,

あきづ(つ),

と訓ませる。「トンボ」の意味である。これも「トンボ」の古名である。『大言海』は,「ツは,濁音なるべし」としているが,「新撰字鏡」は,「阿支豆」と当て,akidu,と濁ったようである。『日本語源大辞典』は,

「字音かな表記から,上代ではアキヅであったと推測されるが,後に清音になりアキツとなった」

とある。「あきつ」の由来は,『大言海』は,

「秋之蟲の下略(仲之子[ナカツコ],仲子[ナカテ]。河之蛙[カハヅカエル],河蝦[カハヅ])。蜻蛉洲(アキツシマ)を,秋津島と記すも是なり。大同類聚方…『阿支豆牟之』(アキヅムシ)」,名義抄『蜻蛉,アキムシ』,藻鹽草…蜻蛉『秋つむし,かげろふ』…」

としている。これを見ると,どうも,「トンボ」をトンボとして認知していたというより,「あきつむし」つまり,秋の虫としか認識していなかった嫌いかある。あるいは,赤とんぼ,を指していたのかもしれない。「アキツムシ」とは,「秋の虫の下略」(『大言海』『東雅』『物類称呼』『和訓集説』)だが,「ツ」は,「集まり群がる意がある」(草鹽漫筆)とか「アキツドヒムシ」(名言通)とかと見ると(よけいに赤とんぼのようにも思えるが),どうやら,

あきづ,

は,必ずしも「トンボ」に特定していたとは限らないのかもしれない。『日本語源大辞典』は,

「上代は『蜻蛉』の文字に『あきづ』の訓が付けられていたが,平安時代以降,同じ『蜻蛉』に「かげろふ」の訓が付いた」

とする。どうやら,この辺りで,「秋の虫」から「トンボ」が分化し,「かげろう」も分化した,ということなのかもしれない。

「かげろう」は,

蜉蝣,

とも当てる。「蜻蛉(セイレイ)」は,中国語では「とんぼ」。「かげろう」に当てるのはわが国だけである。本来は,「ゆらゆら飛ぶ昆虫」を指し,「かげろう」に絞られたようである。ただ,『岩波古語辞典』には,「陽炎(かげろふ)」の項で,

「別に,朝生まれて夕方死ぬとされていたヒヲムシ(蜉蝣)を当てる説もあるが,カゲロフとヒヲムシとは平安文学の中で区別して使われている。」

とあるので,「トンボ」の古名はともかく,「カゲロウ」については,別途考える必要がある。

先に漢字に当たっておくと,「蜻」(漢音セイ,呉音ショウ)の字は,

「虫+音符靑(セイ きよらか,すずしい,すみきった)」

で,「蛉」(漢音レイ,呉音リョウ)の字は,

「虫+音符令(細くて清らか)」

で,「蜻蛉(セイレイ)」は,スッキリした形をしたトンボを指す。

「蜓」(エン)の字は,

「虫+音符延(エン のびる)」

で,龍や蛇などがうねうねと長いさまを意味する。

「蜉」(漢音フ,呉音ブ)の字は,

「虫+音符孚(フ うかぶ)」

で,空中に浮遊する虫。「蝣」(漢音ユウ,呉音ユ)と組んで,「蜉蝣」で,「カゲロウ」を指す。

さて「トンボ」の語源であるが,蜻蛉返し,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/416315749.html

や,尻切れ蜻蛉,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/429743734.html

で「トンボ」を意識した上での言い回しなので,かなり古く遡れそうな気がする。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1445607834

によれば,

「とんぼう、という言葉が最初に現れるのは、『梁塵秘抄』「いよいよ”とうほう”よかたしをまいらん…」とされています。」
「同時代の『袖中抄』にも、『あきつはとはとばうと云う虫のうすき羽と云う也』とあります。」

とあるので,平安末期と見ていい。『日本語源大辞典』には,

「古くはトンバウという形であり,それがトンボウを経てトンボになったのは,近世初期頃のようである。」

とある。

トンバウ→トンボウ→トンボ,

という転訛である。『岩波古語辞典』は,「とんぼう」の項で,『古今序注』を引いて,

「此の国の形とんぼうに似たり。故に此の虫の形になぞらへて,蜻蛉国と云へり。あづまの方より出で来る故に,東方と云ふ也」

としている。「東方」の転訛というのは,いささか首を傾げる。しかし,結構大真面目に,

蜻蛉は一名アキツといわれ,秋津島つまり日本は唐の東方にあるところから東方の義(南留別志・類聚名物考),
秋津島の地形が,蜻蛉が東に向いたさまに似るところから東方の訛(滑稽雑誌所引和訓義解),

と,諸説ある。しかし,これは採れない。地形を俯瞰するだけでなく,唐からそれを見るなどと,そんな抽象度の高い名づけをするとは到底思えない。古形が,「とんばう」ならなおさらだ。『大言海』は,

「飛羽(とびは)の音便延(縫物,ぬんもの。追物射[おひものい],おんものい。布衣,ほうい。牡丹,ぼうたんと同趣)。今トンボと云ふは,却って本語に近きなり。昔蜻蜓をヱバと云ひき(これがヱンバとなり,ヤンマとなる)。」

とある。更に「アカヱンバ(赤蜻蛉)」の項には,こうある。

「東雅(享保)廿,蜻蛉『萬葉集抄(仙覚)に,アキツと云ふは,東詞には,ヱンバと云ふなり,と見えたり。赤卒,アカヱンバは,東國の方言に,今も,ヱンバと云ひ,童部のヤンマと云ふは,轉ぜしなり。ヱンバは即ち,ヱバなり。ヤヘバ(八重羽)と云ふが如し。世の常の蟲の羽は,多くは二つあるを,此蟲の羽,四つあれば重なれると云ふなり』。赤トンボの古名。黄トンボの古名をキヱンバと云ふ。」

別名「やんま」は,別途触れるとして,これは,別系統から来ていることがわかる。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/to/tonbo.html

は,

「トンボの最も古い呼称は,奈良時代の『アキヅ(秋津)』で,その後『セイレイ・カゲロフ(蜻蛉)』、『ヱンバ(恵無波)』の語が現れる。 古くは『トンバウ』の語形で,平安時代には『トウバウ』『トバウ』などが見え,江戸時代から『トンボ』と呼ばれている。」

としているので,

トンバウ→トウバウ→トンボウ→トンボ,

とは別系統で,

ヱバ→ヱンバ→ヤンマ,

となったとみていい。今日,トンボ科とヤンマ科は,別に分類されているので,ある意味別系統に分岐したのには意味がある。

そこで,「とんぼ」に戻すと,『日本語源広辞典』は,「飛羽」説以外に,

「飛ん坊」

という説を挙げる。飛びまわる虫という意味である。その他,

ヤヘバ(八重羽)の転ヤウンバの訛。羽が四枚あり,重なっているところから(嗚呼牟草・俗語考),
アトネブリトビ(尻舐飛)の義(日本語原学=林甕臣),
トンボ(飛炎)の義(言元梯),
髙い空中から飛び降りる様子を形容したツブリ・トブリの転(少年と国語=柳田國男),

等々ある。『語源由来辞典』は,

http://gogen-allguide.com/to/tonbo.html

「『トン』が『飛ぶ』,『バウ』が『棒』の意味で,『飛ぶ棒』が変化したという説が多く,この虫の印象から正しいように思えるが,『バウ(棒)』は漢語,『飛ぶ』が和語で,漢語と和語が結び付けられることは時代別国語大辞典的に早すぎるために考え難い。『トン』は『飛ぶ』の意味であろうが,『バウ』は…和語である『ハ(羽)』の変形であると考える方が妥当であろう。」

と,「飛羽」説を採る。



しかし,

http://www.tombow.pippo.jp/hojo/index.html

で北條忠雄氏は,

「秋田県では蜻蛉をアゲズ・アゲズコという地域もあるが、これは古語のアキツが多少訛って今に残ったのである。その外の地域では)ダンブリ・ダンブ・ジャンブ・ザンブ・ドンブ・ドブ・ドブリンコなどいい、これに類した呼称は東北の各地にも見えている。他、山形・会津などではドンバというらしい。これらの呼称は決して新しい発生ではなく、文献にトンバウの見える平安末期或はそれ以前にあらわれたものであって、トンバウが伝播していく間に転々と訛っていったものとは考えにくい。蜻蛉の語原は正しくこのあたりから考えられそうである。岩手県ではヤチ(湿地・本来アイヌ語)にいる蜻蛉をヤチコといい、秋田の平鹿郡ではヤンマのことをノンマというが、それはノマ(沼)のあたりを飛翔するところから来ている。岩手でヤンマをヌマダンブリというのも同じである。これらは蜻蛉の発生し飛翔し或は更に産卵する場所から来た命名で、いわば棲息地域から名づけたものといえる。ところで、ダンブリ・ダブ・タンボ・ドバ・ドンブ・ドンボというような語が、全国でどんな意味に用いられているかというと、それは悉く湿地・淵・泉・淀・沼・池・水たまりなどの意味に用いている。大阪ではボウフラ(蚊の幼虫)をドンブリというところがあるらしいが、これはドブに棲息するからであろう。こう考えて来ると、蜻蛉をダンブリ・ダブ・ドンブ・ドンバなどいうのは、大阪のボウフラと同じく、それが泉・淵・溝・湿地等に発生し飛翔し産卵するから名づけられたことが明らかである。即ちこれも棲息地域による命名である。」

と,ヤンマが,

ノマ(沼)→ノンマ→ヤンマ,

であり,「トンボ」は,

ドンバ(ドンボ・ドンブ)→ドンボウ→トンボ,

と,その生息地を指していたとする説を採られている。僕はこの説に惹かれる。日常「トンボ」を見ているのは,下々の民であり,彼らこそが名づけるはずだからである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95


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2018年04月25日

ヤンマ



「ヤンマ」は,トンボの異称である。

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『大言海』は,「ヤンマ」で,

「古名,ヱンバの轉」

とするが,「トンボ」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/458977302.html?1524510911

で触れたように,「とんぼ」の項で,

「飛羽(とびは)の音便延(縫物,ぬんもの。追物射[おひものい],おんものい。布衣,ほうい。牡丹,ぼうたんと同趣)。今トンボと云ふは,却って本語に近きなり。昔蜻蜓をヱバと云ひキ(これがヱンバとなり,ヤンマとなる)。」

とし,さらに,「アカヱンバ(赤蜻蛉)」の項で,

「東雅(享保)廿,蜻蛉『萬葉集抄(仙覚)に,アキツと云ふは,東詞には,ヱンバと云ふなり,と見えたり。赤卒,アカヱンバは,東國の方言に,今も,ヱンバと云ひ,童部のヤンマと云ふは,轉ぜしなり。ヱンバは即ち,ヱバなり。ヤヘバ(八重羽)と云ふが如し。世の常の蟲の羽は,多くは二つあるを,此蟲の羽,四つあれば重なれると云ふなり』。赤トンボの古名。黄トンボの古名をキヱンバと云ふ。」

と,

ヱバ→ヱンバ→ヤンマ,

と転訛したとするのである。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%B3%E3%83%9E

で,

「ヤンマ(蜻蜓)はトンボ目 不均翅亜目 ヤンマ科(Aeshnidae)の昆虫の総称を指す。大概はヤンマといえばオニヤンマ科の昆虫も含む。広義にはエゾトンボ科やサナエトンボ科などの昆虫も含む。」

とし,

「ヤンマ科の昆虫はアオヤンマなどを除いて胸に接した腹節が胸の方向にくびれており、その他は節によって太さに差がないのが特徴である。地色は未熟なものでは黄色のものが多く、成熟したものは種によってさまざまな色に変化する。また、ほぼ全ての種において腹部に明色の紋がある。トンボ科の昆虫などより相対的に長い腹部を持ち、頭部はトンボ科の昆虫に似ておおむね球形である。」

「トンボ」は,

「大型のヤンマ科と比べて小さく、全長6 cm以下の小型から中型のトンボ。体色は金属光沢の単純な色調、黄色、赤色、青色など変異に富む。…。シオカラトンボやハラビロトンボのように羽化した時のオスがメスと同色で、成熟するとオスの体色が大きく変わるものが多い。」

と。やはり,大きさて,「ヤンマ」と「トンボ」を区別していたのであろうか。

『日本語源大辞典』は,

羽が四枚あるところから言ったヤヘバ(八重羽・弥重羽)の訛り(俗語考・上方語源辞典=前田勇),
古名ヱンバの転(万葉代匠記・物類称呼・箋注和名抄・言元梯・天野政徳随筆・比古婆衣・俚言集覧(増補)・大言海),
ヤマヱンバ(山蜻蛉)の義(日本語原学=林甕臣),

を挙げる。『日本語源広辞典』は,

「古語,八重羽」

を採る。その他,

羽の美しい意で「笑羽(ヱバ)」からとする説,

もあるようだが,どうも語呂合わせでは実態がつかめない気がする。「トンボ」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/458977302.html?1524510911

でも触れたが,

http://www.tombow.pippo.jp/hojo/index.html

での北條忠雄氏の説,

「秋田県では蜻蛉をアゲズ・アゲズコという地域もあるが、これは古語のアキツが多少訛って今に残ったのである。その外の地域では)ダンブリ・ダンブ・ジャンブ・ザンブ・ドンブ・ドブ・ドブリンコなどいい、これに類した呼称は東北の各地にも見えている。他、山形・会津などではドンバというらしい。これらの呼称は決して新しい発生ではなく、文献にトンバウの見える平安末期或はそれ以前にあらわれたものであって、トンバウが伝播していく間に転々と訛っていったものとは考えにくい。蜻蛉の語原は正しくこのあたりから考えられそうである。岩手県ではヤチ(湿地・本来アイヌ語)にいる蜻蛉をヤチコといい、秋田の平鹿郡ではヤンマのことをノンマというが、それはノマ(沼)のあたりを飛翔するところから来ている。岩手でヤンマをヌマダンブリというのも同じである。これらは蜻蛉の発生し飛翔し或は更に産卵する場所から来た命名で、いわば棲息地域から名づけたものといえる。ところで、ダンブリ・ダブ・タンボ・ドバ・ドンブ・ドンボというような語が、全国でどんな意味に用いられているかというと、それは悉く湿地・淵・泉・淀・沼・池・水たまりなどの意味に用いている。大阪ではボウフラ(蚊の幼虫)をドンブリというところがあるらしいが、これはドブに棲息するからであろう。こう考えて来ると、蜻蛉をダンブリ・ダブ・ドンブ・ドンバなどいうのは、大阪のボウフラと同じく、それが泉・淵・溝・湿地等に発生し飛翔し産卵するから名づけられたことが明らかである。即ちこれも棲息地域による命名である。」

と,「トンボ」は,

ドンバ(ドンボ・ドンブ)→ドンボウ→トンボ,

であり,ヤンマが,

ノマ(沼)→ノンマ→ヤンマ,

と,その生息地を指していたとする説に,ここでも与したい。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95


ラベル:ヤンマ
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2018年04月26日

カゲロウ


蜻蛉は,

トンボ,

とも訓ませるが,

かげろう,

とも訓ませる。「カゲロウ」は,また,

蜉蝣,

とも当てる。

Haft.jpg



「とんぼ」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/458977302.html?1524510911

で触れたが,「蜻」(漢音セイ,呉音ショウ)の字は,

「虫+音符靑(セイ きよらか,すずしい,すみきった)」

で,「蛉」(漢音レイ,呉音リョウ)の字は,

「虫+音符令(細くて清らか)」

で,「蜻蛉(セイレイ)」は,スッキリした形をしたトンボを指す。

「蜉」(漢音フ,呉音ブ)の字は,

「虫+音符孚(フ うかぶ)」

で,空中に浮遊する虫。「蝣」(漢音ユウ,呉音ユ)と組んで,「蜉蝣」で,「カゲロウ」を指す。

『広辞苑』には,

「飛ぶさまが陽炎(かげろう)のひらめくように見えるから」

と,「陽炎」との繋がりを示唆している。ただ,ややこしいのは,「カゲロウ」は,

トンボの古名,

でもあり,それで,「蜻蛉」の字を当てている,と見られる。「蜻蛉」と当てた「かげろふ」について,『大言海』は,

「カギロウの轉」

とし,「とんばうの古語」とする。「かぎろふ」(陽炎)の項では,

「カギロヒの轉」

とし,

「春の長閑なる日に,空中にチラチラと立上りて見ゆる気。イトユフ」

とある。「いとゆう(糸遊)」とは,「かげろう(陽炎)」の意味である。

「『遊子(ゆうし)』からか」

と,『広辞苑』にはある。『大言海』には,「いとゆふ」(陽炎)は「あそぶいと」(遊絲)と訓ませ,

「漢語の遊絲(ゆうし)の文字読みなり」

と,「陽炎の異称」とする。「かぎろひ」は,『大言海』は,

火光,

と当て(『広辞苑』は「陽炎」とも当て,『ちらちら光るもの』の意とする),

「爀霧(かがきらひ)の約轉ならむ(軋合ひ,きしろひ)。此語は,カゲロフと云ふ動詞の名詞形なるか。カゲロフと云ふ動詞あり,此轉なるべし」

とする。「かぎろひ」は,『岩波古語辞典』には,

「カガヨヒ・カグツチと同根。揺れて光る意。ヒは火」

とあり,「かがよひ」は,

「《カギロヒと同根》静止したものが,きらきらと光って揺れる」

意であり,「かぐつち」は,

「《カグはカガヨヒのカガと同根光のちらちらする意。ツは連体助詞。チは精霊》火の神。」

とあり,「かぎろひ」「かがよひ」は,

炎,
立ちのぼる水蒸気に光が当たり,光が複雑に屈折して揺らめいて見えるもの,陽炎,
あけぼのの光,

と,どちらから光のちらちらする物を広く意味している。「輝く」は,かつて「かかやく」と清音で,この語とは起源的に別(『岩波古語辞典』)とされ,「かがやく」と「かげろひ」とは区別されていたらしい。

かぎろひ・かがよい→かげろひ→かげろふ,

と転訛する中で,

光りがほのめく,
ぼんやりと姿が動く,
光りがかげになる,

と,ちらちらとする意が鮮明に分化されていくように見える。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ka/kagerou.html

は,

「『万葉集』の「今さらに雪降らめやもかぎろひの燃ゆる春へとなり にしものを」の例があるように、かげろうを古くは「かぎろひ」と言った。 同じ『万葉集』の 柿本人麻呂の歌には、『東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ』とあり、ここでは明け方の東の空にさしはじめる光(太陽)』を意味している。『かきろひ』の『すかぎ』は、『きらきら光って揺れる』『ちらつく』を意味する『かがよう』の『かが』と同源で、『かげ(影)』や『仄かに光を出す』意味の『かぎる』も同源と考えられている。『かぎろひ』の『ひ』は『火』で,かげろうは揺れて光る炎に見立てた語と考えられる。」

と,陽炎の分化を説いている。

ところで,『岩波古語辞典』は,「かげろふ」の項で,

「カギロヒの転。ちらちらと光るものの意が原義。あるかなきかの,はかないものの比喩に多く使う」

とし,

ちらちらと立つ光,陽炎,
《羽根がキラキラと光るところから》とんぼの一種,

としている。ここで,いわゆる「カゲロウ」のイメージと重ねたくなるが,『岩波古語辞典』はこう指摘している。

「別に,朝生まれて夕方死ぬ虫とされていたヒヲムシ(蜉蝣)を当てる説もあるが,カゲロフとヒヲムシとは平安文学の中でくべつして使われている。また,蜘蛛のはく糸のかたまってただよう『いとゆう』とする説もあるが,それを平安時代カゲロフと呼んだ例はないようである。」

と。蜻蛉,蜉蝣と同じ字を当てているので,トンボを指しているのか,カゲロウを指しているのか,じつは区別がつかない。「カゲロウ」の語源にも,その混乱がある。

『大言海』は,「かぎろひ」について,

蜻蛉,

と当て,「かぎろひ」(火光)の,

「曙光(かぎろひ)の轉(鵠[くくい]を,コヒともコフとも云ふ)」

として,

「此蟲,常に日影を求めて。陽炎(カギロヒ)の如くとびひらめけば,カギロヒ蟲と云ひけむ。故に萬葉集に,陽炎に蜻火の字を当てたるあり。此語転じて,カゲロフとなりしと思ふ」

とし,意味は,

アキツ,
トンバウ,

とする。つまり,意味の説明は「カゲロウ」だが,意味は,トンボとなっている。因みに萬葉集にあるのは,

香切火,
蜻火,

で,陽炎を指す。ところが,「かげろふ」は,

蜉蝣,
白露蟲,

と当てて,

「命のはかなきを,陽炎の忽ち消ゆるが如きに譬えて云へる名なるべし」

として,

ヒヲムシ,
イサゴムシの羽化,
あさがお(カゲロウの古名),

と,完全に「かぎろひ→かげろふ」と,「陽炎」とダブらせて,「カゲロウ」の意味になっている。

どうやら,陽炎が分化し,イメージが明確になるにつれて,「ヒラムシ」類に,その儚いイメージを重ねていったらしく,「カゲロウ」の語源は,陽炎に重なっていく。もともとは,

飛ぶさまが陽炎のようにひらめくところから,

であっのだから,「蜻蛉」は,トンボ一般を指したに違いない。しかし,

かぎろひ→かげろふ,

と,光のキラキラする意から,微妙なたゆたいを見せるひかりの揺れ動くさま,に分化していくことで,そのもつイメージから,トンボ一般(カゲロウはトンボの古名でもある)から,カゲロウ(蜉蝣)へと焦点が絞られたように見える。『日本語源広辞典』の説が,なかなか象徴的である。

「翔ケロフと陽炎の混淆」

ゆらゆら飛ぶ幻影のような蜻蛉。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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2018年04月27日



「は」に当てるには,

羽,
歯,
刃,
葉,

等々がある。「は(羽)」については,「はね」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/458957643.html

で触れたが,『大言海』は,

「平(ヒラ)の約」

としていた。『日本語源大辞典』によると,

羽,
歯,
葉,

は,

「ヒラ(平)の約」

とされ,

刃,

は,

「ハ(歯)」

とつながる。異説もあるが,『大言海』も,「刃」は「歯の義」としており,直感と合うのではあるまいか。さらに,『大言海』は,「歯」は,

「平の約,端の義」

とする。「端」も「は」である。「は(端)」は,

邊(へ)に通ず,

とする。「へ(邊・辺)」は,

端方(はしへ)の意,

とするとする。『岩波古語辞典』は,「へ」に,

端,
辺,
方,

を当て,

「最も古くは『おき(沖)』に対して,身近な海辺の意。亦,奥深いところに対して,端(はし)・境界となるところる,或るものの付近。また,イヅヘ(何方)・ユクヘ(行方)なと行く先・方向・方面の意に使われ,移行の動作を示す動詞と共に用いられて助詞『へ』へと発展した」

とあるので,「はし(端)」の位置が遠くへ延長されていった,と見ることができる。当然,他の「は」からは遠ざかる。

ついでに,「ひら」は,

薄くて平ら,

という意味だが,擬態語「ひらひら」とつながるのではないか,と思う。

それぞれの語源説を拾っておくと,まず「羽」の語源説は,

ヒラ(平)の約(名語記・大言海・国語の語根とその分類=大島正健),
ヒラケ(平気)の下略(日本語原学=林甕臣),
ハル(張)の義(名言通),
ハル(発)の義(言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ハ(葉)の義(言元梯),
フワフワしているところから(国語溯原=大矢徹),

と『日本語源大辞典』。『日本語源広辞典』は,

「ハ(動物の薄く平らなもの)です。ヒラヒラしたもの。『ヒラ』の変化」

とする。

800px-Leaf_1_web.jpg


次に,「葉」の語源説は,『日本語源大辞典』は,

薄くてたいらであるところから,ヒラ(平)の反(名語記・日本釈名・国語本義・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・国語の語根とその分類=大島正健・大言海),
落ちて再び生ずるところから,ハ(歯)にたとえたもの(九桂草堂随筆),
ヒラヒラしているところから,ヒラの義(名言通・日本語原学=林甕臣),
ハラハラしているところから(日本語源=賀茂百樹),

と並べ,『日本語源広辞典』は,

「『ハ(植物の薄く平らなもの)』です。見た感じの「ヒラヒラ」もしくは『ハラハラ』が語源に関わっているわうです。」

とする。『語源由来辞典』,

http://gogen-allguide.com/ha/ha_syokubutsu.html


は,

「一音の語の語源を特定することは難しいが、枝や茎から出る『葉』と歯茎から出る『歯』は類似しており、関係があると思われる。 ただし、語源が『歯』という訳ではなく、『歯』と同源であろう。『は』の音には『生じるもの』の意味があり,『はゆ(生)』の『は』ではないだろうか。」

と,「はゆ(生)」説を挙げる。

「は(歯)」の語源説は,

ヒラ(平)の義(名語記・国語本義・名言通・大言海),
ハ(葉)の義。抜け落ちる様子が,秋の落葉に似るところからか(和句解・玄同放言・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ハ(端)の義(国語の語根とその分類=大島正健・日本語原学=林甕臣),
ハ(刃)の義(言元梯),
ハサムの略。食物を上下ではさむところから(日本釈名),
ハム(喰)の義(日本語原学=林甕臣),

と列記する。『日本語源広辞典』は,

「『口にくわえるものが,ハ』です。ハ(喰)む,口にハさむの『ハ』です」

とし,散る葉と抜ける歯の類比説を否定している。「歯」が「刃」とつながるのなら,繋がりを見ていない説は捨てるほかない。

「刃」の語源説は,

物を断つところから,ハ(歯)の義(名言通・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・大言海),
ハ(端)の義(国語の語根とその分類=大島正健),

と,『日本語源大辞典』。『日本語源広辞典』は,

薄くて平らな,切り離すもの。葉と同源,
噛み切るところから,歯と同源,

を挙げる。

「は」というだけで意味が通じたのは,文字を持たず,その場での会話を通してだから,通じたというべきである。「は」の区別は,漢字がなければ,文字化したとき区別はつかない。

しかし,上記で見れば,

「は(葉)」と「は(羽)」は「ひら」に通じ,

「は(歯)」と「は(刃)」は,「ハ(喰)」に通ず,

ということではなかろうか,そして,「は(葉)」「は(羽)」「は(歯)」「は(刃)」に共通するのは,「ひら」ではなかろうか,そして「ひらひら」「ひらめく」という擬態語につながっている。

最後に,「は」に当てた漢字に当たっておく。「羽」(ウ)の字は,象形文字。

「二枚の翅を並べたもので,鳥のからだにおおいかぶさるはね」

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「葉」(ヨウ・ショウ)の字は,

「枼(ヨウ)の字は,三枚の歯が木の上にある姿を描いた象形文字。葉はそれを音符とし,艸を加えた字で,薄く平らな葉っぱのこと。薄っぺらの意を含む」

k-334.gif



「歯(齒)」(シ)の字は,

「古くは口の中の歯を描いた象形文字。のち,これに音符の止(とめる)を加えた,『前歯の形+音符止(とめる)』。物をかみとめる前歯」

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「刃(刄)」(漢音ジン。呉音ニン)の字は,

「刀の刃のあるところを,ヽ印で指し示したもの。刃こぼれのしないように,鍛えて粘り強くした刀の刃のこと」

k-1894.gif



参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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2018年04月28日

ちょう


「ちょう」は,旧かなづかいでは,

てふ,

となる。

800px-Kiageha.jpg


安西冬衛の有名な一行詩,

てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた(『軍艦茉莉』「春」)

を思い出す。

ちょうちょう,

とも言う。

胡蝶(蝴蝶),

とも言う。「ちょう」は,どうやら,漢字「蝶」の音を使っているらしい(『日本語源大辞典』『日本語源広辞典』)。「蝶」(漢音チョウ[テフ],呉音ジョウ[デフ])の字は,

「『虫+音符葉(薄い木の葉,うすっぺらい)の略体』で,木の葉のように薄い羽をもつ虫」

とある。「枼」の字は,

「三枚の葉が木の上にある姿を描いた象形文字。葉はそれを音符とし,艸を加えた字で,薄く平らな葉っぱのこと。薄っぺらの意を含む。」

とある。

https://okjiten.jp/kanji2721.html

も,

「『頭が大きくてグロテスクな、まむし』の象形(『虫』の意味)と『木の葉』の象形(『薄くて平たい』の意味)から、薄くて平たい虫『ちょう』を意味する『蝶』という漢字が成り立ちました。」

としている。

k-2721.gif



『大言海』は,「てふ」の項で,「字鏡」を引き,

「蝶,加波比良古」

とある。「ちょう」の古名は,

かはびらこ,

であるらしい。他に,

てふま,

とも,相模。下野,奥羽地方の方言とある(『大言海』)。他の辞書には載らないが,『大言海』は,「かはびらこ」の項で,

「川辺にひらひら飛ぶ意か。ツバビラコ(燕)もあり,コは大葉子,巣守子,殻子(かひこ)などのコと同じ」

とある。「こ(子)」は,『大言海』では,接尾語として,

「其物事の體を成さしめ,名詞を形作らしむる語なるが如し,漢字の冊子,帷子,帽子,瓶子,雉子,椅子,茄子,などの子と,其意同じ。和漢暗合なり」

とする。他にも,

猿子(ましこ)・猫子(ネコ,ネウ鳴声)・猪子(いのこ)・鹿子(かこ)・雛子(ひよこ,鳴声)・桑子・泥子(ひぢりこ)・梯子・団子・切子・張子・入子・呼子・根子(ねっこ)・隅子(すみっこ)・面子,

等々を挙げている。そう考えなくても,

親愛なるものの意,

で,夫子(せこ),我妹子の「こ」と考えてもいいし,「娘っ子」「ひよっこ」の「子」「こ」でもいい。

そう考えると,どうやら,

ひらこ,

に意味がある。つまり,

ひら+こ,

である。「ひらこ」の「ひら」は擬態語「ひらひら」の「ひら」,「ひらめく」のひら」でもある。「ひよこ」は,その鳴き声「ひよひよ」の「ひよ」に,

「親愛に情を表す接尾語『こ』がついた語で,猫を言う『にゃんこ』などとおなじ御構成。室町時代から見られる。」

という(『擬音語・擬態語辞典』)。ちなみに,雛鳥の鳴声には,「ぴよぴよ」と「ひよひよ」があり,明治以前は,「ひよひよ」を当て,『枕草子』にも,

「にはとりのひなの…ひよひよとかしがましふ鳴きて」

とある,という。この「ひよ」とって,「ひよこ」とした,ということになる。

ところで,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14129542989

に,

「蝶…と言う漢字が奈良時代頃に日本に入り、『てふ』と記されるようになりました。時代が下るにつれてこれが、『てふ→てう→ちょう』と言う具合に変化していったのです。この発音変化は江戸時代頃におよそ完了したと考えられていますが、文字表記(仮名遣い)としては、戦前まで残っていたわけです。」

とある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)

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2018年04月29日

かわ(川)


「かわ」は,

川,
河,
江,

と当てるが,「川」の字は,旧字は,

巛,

である。「川(巛)」(セン)の字は,

「〈印は違いの間を縫って流れる川の象形。川は三筋の〈印で川の流れを描いたもの。貫(つらぬく)と同系であろうか〉

とある。

300px-川-oracle.svg.png

300px-川-oracle-2.svg.png
300px-川-oracle-3.svg.png

(殷・甲骨文字 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B7%9Dより)


k-78.gif



「河」(漢音カ,呉音ガ)の字は,

「原文字は『水の流れ+˥ 型』の会意文字で,直角に˥ 型に曲がった川のこと。黄河は西北中国の高原に発し,たびたび直角に屈折して,曲がり角で水はかすれて激流となる。のち,『水+音符可』」

とあり,黄河を指す。

k-750.gif



「江」(コウ)の字は,揚子江の意味であるが,全体は長江,下流域を揚子江という。

「工は,上下の面に穴をあけて突き通すことを表す指事文字。江は『水+音符工』で,突き通す意味を含む。大陸を貫く大河」

とある。わが国では,「川」の意味よりは,「入り江」の意味で,「海や湖の水が陸地に入り込んだところ」の意で使う。

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800px-Dusk_on_the_Yangtze_River.jpg



さて,その字を当てた「かわ」の語源であるが,『大言海』は,「かは」の項で,

「水の流るる音か,がはがは」

と,擬音と見る。『日本語源広辞典』も,

「『川の水音』のガワガワ,カワカワ,語源説が有力」

とする。その他に,

「『カ(気・水気)+ハ(ハウ・延フ)』で,水が長く延び続けたもの」

という説も載せる。『日本語源大辞典』によると,

水が日夜カハルものであるところから(日本釈名・和語私臆鈔・言元梯・名言通・本朝辞源=宇田甘冥),
川水と海水がカハルところから(桑家漢語抄),

等々もあるらしいが,やはり擬音から来ているのではないか。日本の川は,狭く,細く,浅い急流が多い。瀬音は確かに喧しい。

がはがは,

とは,音感的にも合う気がする。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
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ラベル:かわ
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2018年04月30日

かわ(皮)


「かわ」には,

皮,
革,

の字を当てる。「革」(漢音カク,呉音キャク)の字は,象形文字。

「動物の全身のかわをぴんと張ったさまを描いたもの。上部は頭,下部は尻尾と両脚である。張りつめた意を含む。」

とある(『漢字源』)。

https://okjiten.jp/kanji944.html

には,

「『改』に通じ(『改』と同じ意味を持つようになって)、『あらたまる』、『あらためる』の意味も表すようになりました。」

ともある。「皮」(漢音ヒ,呉音ビ)の字は,

「『頭のついた動物のかわ+又(手)』で,動物の毛皮を手で体にかぶせるさま。斜めにかける意を含む。」

とある(『漢字源』)。しかし,

https://okjiten.jp/kanji525.html

は,逆に,

「獣の皮を手ではぎとる」象形から,

とする。真逆である。『字源』を見ると,「かわ」には,

韋,革,皮,

があり,「韋」は,

「毛を去りしかは。革を柔らかにしたるなめしがは」

とある。「皮」は,

動物の毛皮,

で,「被う」という意味があり,「革」は,

つくりかわ(獣皮の毛を取り去ったもの),

で,「改まる」という意味がある,ということらしい。「皮」が総称,ということだろうか。

和語「かわ」の語源について,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ka/kawa_hi.html

は,

「革は、『皮』と同源。皮の語源は諸説あるが、大きく分けると、表面を包むものなので『外側』の『かは(側)』とする説と、肌の上に被るものなので、『か』は『かぶる(被る)』の 意味、もしくは『上』を意味する言葉に付く『か』で、『わ』は『はだ(肌)』の意味とする説になる。『かわ』の旧かなは『かは』なので、両説とも不自然ではなく、意味としても説得力がありきめがたい。」

とし,『大言海』は,

「動物・植物の體の,表面(そとがは)を包めるもの。倭名抄『皮,被體也。賀波(かは)』」

側説を採る。『日本語源広辞典』は,「ガワ(側)の変化」説ともう一つ説を立てる。

中国語「カク,カウが語源で,カワとなった」

と,中国語由来説を立てる。

念のため,「がわ・かわ(側)」の語源説を見てみると,『大言海』は,「かは」(側)の項で,

「カタハラの略か,すゑそぎ,すそ(裾)。はたばり,はば(幅)」

と,同じ「かわ」でも,「かたわら」が「かわ」に転訛するのは少し難がある。『日本語源広辞典』も,

「かわ(側面)」

とする。「かわ(側)」→「かわ(皮)」は,意味からは少し難があると思う。しかし,もしあるとすると,

とがは(外側)→がは(側)→かは(皮)→かわ(皮),

という転訛なのかもしれない。

その他の説としては,『日本語源大辞典』が,

カブルの義(言元梯),
カブル(被)のカとハダ(肌)のハから。上肌の義(国語の語根とその分類=大島正健),
カはカロキ(軽),ハはハダヘ(肌)の義(和句解),
ホカハルの上下略。身の外をはる義(日本釈名),
カタチハテ(形果)の義(名言通),
ケハダ(毛肌)の義。マタハ,ケヘ(気戸)の義。マタ,キサヘ(気寒)-へ(戸)の義(日本語原学=林甕臣),
キハハダ(際膚)の反(名語記),
「革」の別音「kap」がkapaに転化したもの(日本語原学=与謝野寛),

と諸説並べるが,どうも屁理屈にしか見えない。敢えて考えれば,

被る,

という言葉との類縁が考えられる。「かぶる」は,『岩波古語辞典』には,

「カウブリの転。」

とある。「カウブリ」は,「カガフリ」の転である。

カガフリ(ル)→カウブリ(ル)→カブリ(ル),

と,転訛したことになる。しかし,奈良時代,平安時代は,「かがふる」である。という(『日本語源大辞典』)。それなら,「カブル(被)のカとハダ(肌)のハから」は,難がある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


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