2018年04月14日

つゆ


「つゆ」は,『広辞苑』は,

梅雨,
黴雨,

と当てる。

陰暦五月頃の降り続く長雨,

を指すが,

「六月から七月中旬にかけて、朝鮮南部・長江下流域から、 北海道を除く日本列島に見られる雨期」

どもある。別に,

「さみだれ(五月雨)」「ばいう(梅雨)」とも言う。

『大言海』は,

「露けき季節時節の義。梅實の熟(つ)ゆる時に寄せて云ふ」

とある。そして,

「さみだれ,さつきあめ,うのはなくたし,ついり,ばいう」

とも言うとする。「ついり」とは,

「梅雨(つゆ)いりの約」

「うのはなくたし」とは,

卯花腐,

で,

「卯の花は,陰暦四月に咲き,五月に散りたるを,霖雨の腐らす意なるべし,又,梅雨に限らずとも云ふ」

とある。なお,「梅雨」は,「梅」(漢音バイ,呉音メ・マイ)が,「六月ごろ実が黄色く熟す」ので,この頃のことを指すと,『漢字源』には載るが,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%85%E9%9B%A8

には,

「中国では『梅雨(メイユー)」、台湾では『梅雨(メイユー)』や『芒種雨』、韓国では『장마(長霖、チャンマ)』という。中国では、古くは『梅雨』と同音の『霉雨』という字が当てられており、現在も用いられることがある。『霉』はカビのことであり、日本の『黴雨』と同じ意味である。中国では、梅が熟して黄色くなる時期の雨という意味の『黄梅雨(ファンメイユー)』もよく用いられる。」

とある。さらに「梅雨」の表記の語源についても,

「漢字表記『梅雨』の語源としては、この時期は梅の実が熟す頃であることからという説や、この時期は湿度が高くカビが生えやすいことから『黴雨(ばいう)』と呼ばれ、これが同じ音の『梅雨』に転じたという説、この時期は『毎』日のように雨が降るから『梅』という字が当てられたという説がある。普段の倍、雨が降るから『倍雨』というのはこじつけ(民間語源)である。このほかに『梅霖(ばいりん)』、旧暦で5月頃であることに由来する『五月雨』、麦の実る頃であることに由来する『麦雨(ばくう)』などの別名がある。」

としている。さて「つゆ」の語源であるが,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/tu/tsuyu.html

は,

「梅雨は、中国から『梅雨(ばいう)』として伝わり、江戸時代頃より『つゆ』と呼ばれるよう になった。 『日本歳時記』には、『此の月淫雨ふるこれを梅雨(つゆ)と名づく』とある。 中国では、黴(かび)の生えやすい時期の雨という意味で『黴雨(ばいう)』と呼ばれていたが、カビでは語感が悪いため、同じ『バイ』で季節に合った『梅』の字を使い、『梅雨』になった説。『梅の熟す時期の雨』という意味で、元々『梅雨』と呼ばれていたとする説がある。
 日本で『つゆ』と呼ばれるようになった由来は,『露(つゆ)』からと考えられるが、梅の実が熟し潰れる時期であることから,『潰ゆ(つゆ)』と関連付ける説もあるが,梅雨の語源は未詳部分が多い」

とする。『日本語源広辞典』は,「露」説を採り,

「『ツユ(露けき時節)』が,有力です。どことなく湿っぽく露を持つ季節の意です。『潰ゆ(万物が腐る時期の意)』説は疑問です。」

とする。中国語でも,「黴」の意の「黴雨」から,意味を避けて同音「梅」にしたくらいだから,やはり「露」説が妥当かもしれない,と思えてくる。『日本語源大辞典』の,「露」説は,

露けき時節の義(大言海・日本語源=賀茂百樹),
ツユ(露)の義(日本釈名・滑稽雑談所引和訓義解),

といったところである。その他,

物がしめりくさるところから,ツイユ(潰)の義(志不可起),
梅がつはり熟すところから,ツハルの約(松屋筆記),
梅が熟する意で,ツヒル(潰)の義(名言通・難波江),
ツヘル(潰)の義(言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ツユ(熟)の義(言元梯),

しかし,『日本語の語源』は,例によって,独自の音韻変化から,「つゆ」を辿ってみせる。これを見ると,「露」説,「潰ゆ」説,「梅」説は,すべてが語呂合わせに見えてくる。

「早苗を植える陰暦五月をサナヘヅキ(早苗月),略称してさつき(早月)という。三十日間降り続くサミダレ(五月雨)のことをサツキフリ(早月降り)ともいった。これを早口に発音するとき,サ・キを落してツフリになった。さらに,フの子音[f]が落ちてツウリに転音し,母韻交替をとげてツイリになった。〈双六の相手よびこむツイリかな(嚝野集・元禄)〉。〈ツイリ。霖雨〉(易林節用集・慶長)。
 さきのツウリの語形は,子音[j]が添加されてツユリになった。三重県志摩郡・和歌山県東牟婁郡の方言として残っている。一般的には語尾を落としてツユ(梅雨)という。理論的には,ツフリのフの子音交替[fw]・[wj]でツユに転音。
 うめの実の熟するころに降る長雨だから『梅雨』と書き,唐の太宗の詠雨詩に『梅雨芳田に灑(そそ)ぐ』と見えている。ツユの語源について『露けき時節の義』(大言海)とあるが,『露』は秋のものである。」

確かに,「露」は,「秋」である。万葉集にも,

「露こそば 朝に置きて,夕には 消ゆといへ
 霧こそば 夕に立ちて,朝には 失すといへ」(柿本人麻呂)

と,春の霧と秋の露とを,儚いものとして対比しているのである。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%B2

に,「露」について,

「地面やその近くのものが冷えて、これらに接した空気の温度が露点以下に下がり、空気中にある水蒸気が水滴となって、地表付近の物体の表面についたもの。特に夏の終わりから秋の早朝に露が降りやすい。冬には凝結して水滴になるのではなく、氷になるので、これを霜と呼ぶ。」

とある。「露」は「梅雨」のものではないのである。昔の人がそれがわからぬはずはないのである。季節の基本中の基本だからである。この転訛説で,初めて,『大言海』の「ついり」の説明,「梅雨(つゆ)いりの約」とは異なる位置づけが得られるのである。

参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%85%E9%9B%A8
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


ホームページ;
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posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする