2018年04月28日
ちょう
「ちょう」は,旧かなづかいでは,
てふ,
となる。
安西冬衛の有名な一行詩,
てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた(『軍艦茉莉』「春」)
を思い出す。
ちょうちょう,
とも言う。
胡蝶(蝴蝶),
とも言う。「ちょう」は,どうやら,漢字「蝶」の音を使っているらしい(『日本語源大辞典』『日本語源広辞典』)。「蝶」(漢音チョウ[テフ],呉音ジョウ[デフ])の字は,
「『虫+音符葉(薄い木の葉,うすっぺらい)の略体』で,木の葉のように薄い羽をもつ虫」
とある。「枼」の字は,
「三枚の葉が木の上にある姿を描いた象形文字。葉はそれを音符とし,艸を加えた字で,薄く平らな葉っぱのこと。薄っぺらの意を含む。」
とある。
https://okjiten.jp/kanji2721.html
も,
「『頭が大きくてグロテスクな、まむし』の象形(『虫』の意味)と『木の葉』の象形(『薄くて平たい』の意味)から、薄くて平たい虫『ちょう』を意味する『蝶』という漢字が成り立ちました。」
としている。
『大言海』は,「てふ」の項で,「字鏡」を引き,
「蝶,加波比良古」
とある。「ちょう」の古名は,
かはびらこ,
であるらしい。他に,
てふま,
とも,相模。下野,奥羽地方の方言とある(『大言海』)。他の辞書には載らないが,『大言海』は,「かはびらこ」の項で,
「川辺にひらひら飛ぶ意か。ツバビラコ(燕)もあり,コは大葉子,巣守子,殻子(かひこ)などのコと同じ」
とある。「こ(子)」は,『大言海』では,接尾語として,
「其物事の體を成さしめ,名詞を形作らしむる語なるが如し,漢字の冊子,帷子,帽子,瓶子,雉子,椅子,茄子,などの子と,其意同じ。和漢暗合なり」
とする。他にも,
猿子(ましこ)・猫子(ネコ,ネウ鳴声)・猪子(いのこ)・鹿子(かこ)・雛子(ひよこ,鳴声)・桑子・泥子(ひぢりこ)・梯子・団子・切子・張子・入子・呼子・根子(ねっこ)・隅子(すみっこ)・面子,
等々を挙げている。そう考えなくても,
親愛なるものの意,
で,夫子(せこ),我妹子の「こ」と考えてもいいし,「娘っ子」「ひよっこ」の「子」「こ」でもいい。
そう考えると,どうやら,
ひらこ,
に意味がある。つまり,
ひら+こ,
である。「ひらこ」の「ひら」は擬態語「ひらひら」の「ひら」,「ひらめく」のひら」でもある。「ひよこ」は,その鳴き声「ひよひよ」の「ひよ」に,
「親愛に情を表す接尾語『こ』がついた語で,猫を言う『にゃんこ』などとおなじ御構成。室町時代から見られる。」
という(『擬音語・擬態語辞典』)。ちなみに,雛鳥の鳴声には,「ぴよぴよ」と「ひよひよ」があり,明治以前は,「ひよひよ」を当て,『枕草子』にも,
「にはとりのひなの…ひよひよとかしがましふ鳴きて」
とある,という。この「ひよ」とって,「ひよこ」とした,ということになる。
ところで,
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14129542989
に,
「蝶…と言う漢字が奈良時代頃に日本に入り、『てふ』と記されるようになりました。時代が下るにつれてこれが、『てふ→てう→ちょう』と言う具合に変化していったのです。この発音変化は江戸時代頃におよそ完了したと考えられていますが、文字表記(仮名遣い)としては、戦前まで残っていたわけです。」
とある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95