2018年05月11日

勝手


「勝手」というのは,「使い勝手」「勝手が悪い」というような,

便利,
都合の良い,

という意味もあれば,「自分勝手」「勝手な奴」と言うように,

わがまま,

という意味がある。この意味の幅は,単に便利さという状態表現の振幅が,それに是非を入れた価値表現に転じたという意味で,ある程度了解できる。さらに,「勝手が違う」「勝手がわからない」というような,

模様,具合,事情,

という意味もある。更に「お勝手」というような,

台所,

の意味と,「勝手向き」というような,

家計,

という意味になると,ちょっと語源が違う感じである。

さらに,「引手」の意味で,

勝手,

とも使う。つまり,「弓を射るとき,弦を引っ張る方の手」で,つまり右手の意味である。この意味は,「便利」「都合」の意味の外縁とつながらなくもない気がする。

「勝手」は,

便利,都合,

といった意味の流れと,

事情,模様,

という意味と,

台所,家計,

の意味の流れがあり,恐らく,同じ「勝手」を当ててはいるが,由来を異にすると想定できる。

『岩波古語辞典』は,一項目でしか載せないが,『大言海』は,二項に分けて載せる。一つは,台所の意だが,この「勝手」は,

「粮所(かってどころ)などの略,竈の名に移り,更に厨(くりや)に移れる語。字類抄『竈,カマ,カマド,カッテ』」

とある。「粮所(かってどころ)」の「かって(粮)」は,

「乾飯代(カレヒテ)の約なる,糧(かりて)の音便(更に略して粮(かて))」

とある。『岩波古語辞典』にも,「かて(糧)」の項で,

カリテの略,

とある。本来,「かて」と訓んでいる「糧・粮」は,

かりて,

と呼んでいたものらしい。つまり,食糧を指す。その意味で,この「勝手」の系譜は,家計や生活の意味をもつようになるのは当然である。

『大言海』は,しかしもうひとつの「勝手」については,由来を何も触れていない。

『日本語源広辞典』は,「勝手」を一つの語源で解釈しようとして,三説を立てている。

説1は,「弓を引く手」が語源。右手のことです。そのことから,勝手(都合・便利)がよいことを表します。さらに,暮らし向き,生活の意から,台所の意へ転じた,
説2は,「カテ(食糧)+所」が語源。台所を指す,
説3は,「カテ(釜・竈)+所」が語源。

説1は,『日本語源大辞典』でも,

弓を引く手を「勝手」といい,右手が都合がよいことから,都合がよい,気ままの意になり,内情をよく知っていて都合がよいということから,暮らし向き,様子となり,また生計の意から台所の意に変った(小学館古語大辞典),

を載せるが,引手が都合がいいというのは如何であろうか。矢を番え,弓をもって標的に向ける弓手(左手)の方が主で,弦を引っ張る引手は,それに合わせるという意味で従,ではあるまいか。さらに,

生計→台所,

という抽象→具体という意味の変化は如何であろうか。

台所→家計,

という意味の変化の方が自然ではあるまいか。字類抄「竈,カマ,カマド,カッテ」と言っており,『大言海』の言う通り,

かりて(粮)→かって(粮)

の変化と見れば,「かって」というのが,食糧を指していたことを考えれば,説2説3は,ほぼ同じことを言っているにすぎない。「弓手」を「勝手」といったのは,すでに人口に膾炙する「勝手」の意味があって名づけたと見る方がいい。つまり,「弓手」は「勝手」の語源ではないように思う。

「勝手」の語源は,意味毎に系列を異にするのだと思う。その点で,「『日本語の語源』は,説得力がある。

「『勝手な振舞』『勝手がわからぬ』『お勝手(台所)』は明らかに語源・語義を異にする同音異義語である」

とした上で,三者の語源をこう説く。まず,「きまま」「わがまま」の意の「勝手」については,

「他人のことはかまわず,自分の都合のよいことだけをおこなう自己本位の行動をワガミカタヨリ(我身片寄り)といった。下部を省略したワガミカタは,タの母交(母韻交替)[ae]でワガミカテになり,促音を添加してワガミカッテ(我身勝手)になった。
 その省略形として,ワガカッテ(我が勝手)・ミガッテ(身勝手)に両分された。〈ひとといふものはワガカッテによい事はしたがるものでござる〉(狂・布施無縁)。〈郡役を勤める身でミガッテなことを申すも如何〉(菅原伝授手習鑑)。
ミガッテ(身勝手)は語尾を落とすとともに促音を直音に変えてミガツ・ミガチ(身勝ち)に転音した。〈そなたがミガチな,そちへばかり水を取るものか〉(狂・水掛聟)。〈時景もとよりミガチ者〉(天鼓・近松)。〈ミガチに見えて見苦しく〉(浮・新可笑記)。
『身』を落としたカッテ(勝手)は形容動詞化して『勝手な振舞』『勝手に決める』といい,『わがまま。きまま。心のままに振舞うさま』をいう。
ひどくほがままなことをイトカッテ(甚勝手)といったのが,母交(母韻交替)をとげてエテカッテ(得手勝手)になった。
さらに,『都合のよいこと。有利なこと』の意味を派生した。〈私はそなたの広い屋敷より,こなたの狭い屋敷が勝手でござる〉(狂・武悪)。
カタヨリ(片寄り。偏り)のカタ(片)の部分がカテ・カッテ(勝手)に変化したわけである。」

とし,「勝手がわからない」の「模様」「事情」の意の「勝手」については,

「『ものの形状。姿。かたち。模様』の意のカタ(形・象)もカテ・カッテ(勝手)になり,『様子。もよう。ぐあい』の意の名詞になった。〈只今これへ参ったことでござれば,諸事カッテも存ぜず〉(狂・賽目)。〈されども,カッテあしく,所にて商売なりがたく〉(織留・西鶴)。」

とし,「台所」の意の「勝手」は,

「旅の食糧をいうカリテ(糧)はカテ(糧・食糧)になった。食糧を貯蔵し炊事する台所をカテドコロ(糧所)といったのがカッテドコロ(勝手所)・カッテ(勝手)になった。
 台所が生活の中心であるところから,勝手は『生計・家計・暮らしむき』の意になった。」

この説の是非はともかく,意味の違いを一緒くたにしたのでは,語源は縺れるだけである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:勝手
posted by Toshi at 04:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする