2018年05月25日

カモ


「カモ」は,

鴨,

と当てる。「鴨」(漢音オウ,呉音ヨウ)の字は,

「『鳥+音符甲』。あっぷあっぷという鳴き声をまねた擬声語」

とある。不思議なことに,

「古くはカモとカモメの区別があいまいで、カモメの語源と同じとする説もある。」
「水面に浮かんでいるカモメの姿は、意外なほどカモに似ています。このため、万葉の時代にはカモとカモメが同族と見なされていて、あまり区別されていなかったのではないかと推察している研究者のかたも、かなりおられます。」

という説がある。どう見ても愚かとしか言えない。「カモ」は,『岩波古語辞典』に,

「マガモ・コガモ・カルガモ・トモエガモ・アイサなどの総称。…秋から冬にかけて北から渡来し,春,北に帰るものが多い。雁が秋の訪れと結びつけられるのに対して,賀茂は多く冬のものとされる。」

とある。季節感の鋭い古代の人にとって,「カモ」と「カモメ」を混同することはあり得ない。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ka/kamo_tori.html

は,

「地方によっては『カモ』を『カモメ』と呼び、『カモメ』を『カモ』と呼ぶ地方もあることから、古くは,『カモ』と『カモメ』の区別が曖昧であったとの見方もあり、『カモメ』と同源で『かま(囂)』とも考えられる。ただし、『カモメ』の語源には『カモの群れ』とする説もあり、この説をとれば呼称が同じになることは当たり前のことなので、『カモメ』と同源という見方はできない。」

としている。「kamo」「kamome」の音が似ているだけで同源とするのも早とちりといっていい。

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『大言海』は,

「萬葉集に,カモドリと云へるが,成語なるべし。浮かぶ鳥,浮かむ鳥の略転。御孫命(みうまのみこと),みまのみこと。御産(みうぶ),乳部(みぶ)。萬葉集…に,モテハヤサムを,『持賞毛(もちはやさも)』同…に,棲むを『沖に須毛(すも)小鴨(をがも)』同…『鴨じもの,浮寝をすれば』」

とする。『日本語源大辞典』は,

カモドリが成語で,浮ブ鳥,浮む鳥の略転(滑稽雑誌所引和訓義解・大言海),
カム(頭群)の義(言元梯),
波をカウブル義(名言通),
頭の靑が,藻をカフリタルようだという意からか(和句解),
カキモガクの略,水上で足をかきもがくところから(本朝辞源=宇田甘冥),
ガン(雁)と同源。古語では濁ることを好まなかったのでカムと発音し,それが転じたもの(日本古語大辞典=松岡静雄),
やかましいのカマ(囂)の変化したものか(衣食住語源辞典=吉田金彦),

と諸説載る。この「カマ(囂)」について,『日本語源大辞典』は,

「『語源辞典・動物篇』(吉田金彦)では,『新撰字鏡』の『鴨 宇弥加毛』を手がかりに,カモメと同源と見ている。」

とある。これが「カモ」「カモメ」同源説の淵源らしい。『日本語源広辞典』は,これを取り,

「カマ(囂,やかましい)」の変化,

を挙げる。「万葉集に群れて鳴く鳥をさして,カマメの語があります。やかましい海鳥がカモメということになります。」

とし,もうひとつ,

「カ(毛)+モ(ふわふわ)」

を挙げ,「字鏡」の「鴨 加毛」を手がかりにしている,とする説も挙げる。確かに,

「カマ(囂,やかましい)」→カモ,
「カマ(囂,やかましい)」→カモメ,

と同源がなくもないが,やかましい鳥はもっといるのではあるまいか。それよりは,

カモの語源には、「浮ぶ鳥」「浮む鳥」の略転「カモドリ」が略され、「カモ」になった,

とする説に,個人的には肩入れしたい気がする。

ところで,「カモ」には,「カモにする」「鴨が葱を背負ってぐる」といった,

組みやすい相手,
騙しやすい人物,

という意味がある。『岩波古語辞典』には載らないが,『江戸語大辞典』には載る。『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/06ka/kamo.htm

には,「江戸時代」以降として,

「鴨という鳥は鳥類の中でも比較的捕まえやすく、デコイと呼ばれる囮(おとり)を使ったデコイング猟から騙されやすい鳥として知られる。ここから騙しやすい人、利用しやすい人のことを鴨という。簡単に詐欺にひかかる人、度々詐欺にあうような人を指して使うことが多い。」

とある。そういう言葉になったのは江戸時代としても,その鴨の特徴は,わかっていたはずではないかという気がする。「かもる」は,

http://zokugo-dict.com/06ka/kamoru.htm

鴨に動詞化する接尾語『る』を付けたのがカモるである(正確には『カモにする』の略)。つまり、カモるとは簡単に騙せそうな人を利用したり、騙して利益を得ることをいう。逆に騙されたり、利用されることをカモられるという。」

とある。「鴨が葱を背負ってくる」は,

鴨葱,
カモネギ,

とも言う。『笑える国語辞典』

https://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%8B/%E9%B4%A8%E3%81%8C%E8%91%B1%E3%82%92%E8%83%8C%E8%B2%A0%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8B-%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%83%8D%E3%82%AE%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B/

に,

「鴨が葱を背負ってくる(略してカモネギ)とは、鴨鍋の付きものであるネギをカモ自身が背負って食べられにやってくるというシュールな状況を描いたことわざで、運の強いやつのところへ運の悪いやつが運の悪い友だちをつれて麻雀をしにやってきたような状況をいう。ここで『運の悪いやつ』は『かも』、つれられてやってきた『運の悪い友だち』は『ネギ』、『運の強いやつ』は鴨鍋をおいしくいただく食客であることはいうまでもないが、このようなキャストを社会の様々な状況にあてはめた例えが『鴨が葱を背負ってくる(カモネギ)』である。
カジノや賭場にやってきていつも大負けする客を『カモ』というが、これは鴨がおとりにつられて捕獲されやすいことからきた隠語だという。この『カモ』という言葉が先にあったから、『カモネギ』というシュールでナンセンスなシーンが生まれたのだと考えられる。」

とある。「カモ」がそういう性癖と解っていたら,やかましさよりは別の表現をしたのではあるまいか。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:33| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする