2018年07月06日

引け目


「引け目」とは,例えば,『デジタル大辞泉』でみると,

1 自分が他人より劣っていると感じること。劣等感。気おくれ。「引け目を感じる」
2 自分で意識している弱み・欠点。「こちらにも引け目がある」
3 目立たないように、自分の言動などをおさえること。また、そのさま。ひかえ目。「小遣銭でも貰えれば結構だと至極引け目な望みを起していた」〈荷風・おかめ笹〉
4 穀類・液体などを他の容器に移すとき、量目が減ること。また、その量目。

といった意味が並ぶ。普通は,

「他に比べて自分が劣っていると感じて持つ心の弱み」(広辞苑),

という意味で受けとめている。「引け目を感じる」「引け目を見せない」といった使い方になる。原意が同かはわからないが,そういう自分の気持ちが,

「人前で目立たぬようにに振舞う」(広辞苑)

につながる。『日本語源広辞典』は,

「ヒケ(気後れ)+め(接尾語)」

とする。「引け」は,

引くの受動形(岩波古語辞典),

で,それだけで,

引かれる,
気後れする,ひけめを感じる,

という意味を持つ(岩波古語辞典)。『広辞苑』には,

「退け」とも書く,

として,

ひけること,
仕事が終って退出すること,

という意味が載る。そのメタファで,

売買価格の減ること,
大引け,
遊女が張見世をやめて入口の大戸を締めること,

といった意味に広がるが,「引け」の名詞で,

勝負に負けること,
肩身の狭い思い,

という意味を持つ。「ひく」は,

引く,
挽く
轢く,
曳く,
牽く,

など等と当てるが,『日本語源広辞典』は,

「手に取って引き寄せる意の本来『一音節語』です。引,曳,牽,弾,抽,退,惹など同源。後ろの方向への力もヒクで,退く,曳く,牽く,…なども同源」

とする。「ヒク」は,『岩波古語辞典』によると,

「相手をつかんで,抵抗があっても,自分の手許へ直線的に近づける意。また,物や自分の身を自分の本拠となる場所へ戻す意」

とある。後者の意味は,

後へ下がる,

だが,それをメタファとして使えば,

立ち退く,
退却する,

意となる。あくまで,立ち位置は,自分で,自分の位置へ引っ張り寄せるか,出ていたものを戻す,ということになる。それは,

退く,

と当てられる。「引け目」は,

退け目,

ではないか。「引けを取る」という意言い回しは,

引けを取らない,

という言い方をされることが多いが,『日本語源広辞典』は,

「ヒケ(不首尾・ひけめ)+とる」

とする。この「ヒケ」は,「引け目」の「ヒケ」と同じである。メタファとして,

自分の立ち位置が,他の人々に比べて劣る(低い),

という「引け」を感じているということになる。「め(目)」は,『大言海』は,

「見(ミ)と通ず,或は云ふ見(みえ)の約と」

とある。『岩波古語辞典』は,「め」は,

「古形マ(目)の転,メ(芽)と同根」

とする。この「マ」は,

見(まみ)える(見ゆ),

の「マ」である。あるいは,「まぶた(目蓋)」「まつげ(まつ毛)」ノ「マ」でもある。「まなこ(眼)」の「マ」でもあるかもしれない。

こう見ると,「引け目」は,

退いていると自分を見ている,

という主観的な思いということになる。

https://mainichi.jp/articles/20140209/mul/00m/100/012000c

に,

「相手に恩義を感じるのは『負い目』 自分の欠点は『引け目』です」

とあるが,しかし,微妙である。負い目は,誰かに対して感じることもあるが,広く他人に対して感じることもある。そうなると,「引け目」と,重なる部分大きくなる。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:54| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする