「引け目」とは,例えば,『デジタル大辞泉』でみると,
1 自分が他人より劣っていると感じること。劣等感。気おくれ。「引け目を感じる」
2 自分で意識している弱み・欠点。「こちらにも引け目がある」
3 目立たないように、自分の言動などをおさえること。また、そのさま。ひかえ目。「小遣銭でも貰えれば結構だと至極引け目な望みを起していた」〈荷風・おかめ笹〉
4 穀類・液体などを他の容器に移すとき、量目が減ること。また、その量目。
といった意味が並ぶ。普通は,
「他に比べて自分が劣っていると感じて持つ心の弱み」(広辞苑),
という意味で受けとめている。「引け目を感じる」「引け目を見せない」といった使い方になる。原意が同かはわからないが,そういう自分の気持ちが,
「人前で目立たぬようにに振舞う」(広辞苑)
につながる。『日本語源広辞典』は,
「ヒケ(気後れ)+め(接尾語)」
とする。「引け」は,
引くの受動形(岩波古語辞典),
で,それだけで,
引かれる,
気後れする,ひけめを感じる,
という意味を持つ(岩波古語辞典)。『広辞苑』には,
「退け」とも書く,
として,
ひけること,
仕事が終って退出すること,
という意味が載る。そのメタファで,
売買価格の減ること,
大引け,
遊女が張見世をやめて入口の大戸を締めること,
といった意味に広がるが,「引け」の名詞で,
勝負に負けること,
肩身の狭い思い,
という意味を持つ。「ひく」は,
引く,
挽く
轢く,
曳く,
牽く,
など等と当てるが,『日本語源広辞典』は,
「手に取って引き寄せる意の本来『一音節語』です。引,曳,牽,弾,抽,退,惹など同源。後ろの方向への力もヒクで,退く,曳く,牽く,…なども同源」
とする。「ヒク」は,『岩波古語辞典』によると,
「相手をつかんで,抵抗があっても,自分の手許へ直線的に近づける意。また,物や自分の身を自分の本拠となる場所へ戻す意」
とある。後者の意味は,
後へ下がる,
だが,それをメタファとして使えば,
立ち退く,
退却する,
意となる。あくまで,立ち位置は,自分で,自分の位置へ引っ張り寄せるか,出ていたものを戻す,ということになる。それは,
退く,
と当てられる。「引け目」は,
退け目,
ではないか。「引けを取る」という意言い回しは,
引けを取らない,
という言い方をされることが多いが,『日本語源広辞典』は,
「ヒケ(不首尾・ひけめ)+とる」
とする。この「ヒケ」は,「引け目」の「ヒケ」と同じである。メタファとして,
自分の立ち位置が,他の人々に比べて劣る(低い),
という「引け」を感じているということになる。「め(目)」は,『大言海』は,
「見(ミ)と通ず,或は云ふ見(みえ)の約と」
とある。『岩波古語辞典』は,「め」は,
「古形マ(目)の転,メ(芽)と同根」
とする。この「マ」は,
見(まみ)える(見ゆ),
の「マ」である。あるいは,「まぶた(目蓋)」「まつげ(まつ毛)」ノ「マ」でもある。「まなこ(眼)」の「マ」でもあるかもしれない。
こう見ると,「引け目」は,
退いていると自分を見ている,
という主観的な思いということになる。
https://mainichi.jp/articles/20140209/mul/00m/100/012000c
に,
「相手に恩義を感じるのは『負い目』 自分の欠点は『引け目』です」
とあるが,しかし,微妙である。負い目は,誰かに対して感じることもあるが,広く他人に対して感じることもある。そうなると,「引け目」と,重なる部分大きくなる。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:引け目