2018年07月07日

サンマ


「サンマ」は,

秋刀魚,

と当てるが(『大言海』は「秋光魚」とも当てる),中国語でも同じ漢字で記して「qiūdāoyú」と読まれている,とある。しかし,

「体が刀状で秋の代表的な魚であるところからの当て字」(『語源由来辞典』)

らしい。かつては,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1258000152

によると,

「江戸時代には『鰶』や魚ヘンに『箴』と書く漢字(鱵)があてられていたそうです。『鰶』は、サンマの呼び名『サイラ』に由来するとも言われます。南房総地方の網元に伝わる文書には、『サンマ』とルビのフられた『鰶』の文字がみられます。大正になると『鰶』と『秋刀魚』の両方が見られ、昭和になると『鰶』の文字は消滅するのだそうです。」

とか。

Sanma01.jpg



https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A7%8B%E5%88%80%E9%AD%9A

には,「秋刀魚」の字に由来について,

「『三人麻雀』の略称である『三麻』を『さんま』と音読みすることから転じて、…『秋刀魚』の字をあてた」

と出ている。面白いが,如何であろうか。

https://www.videlicio.us/CULTURE/ZE2xt61c

によると,

「当初、サンマはサヨリの仲間だと思われていたようで、『本朝食鑑』(元禄10年、1697年)では『サヨリ』の項に登場し、『沖サヨリ』と言う名前で紹介されています。また、『島サヨリ』とも言われていたようです。いちめいに『ノウラギ』とも呼ばれ、『乃宇羅幾』、あるいは『乃宇羅岐』と書かれました。(中略)
 同書のサヨリの項でやっと『三摩(サンマ)』と言う呼び名が登場し、形はサヨリに似ているが、味は大きく劣る、と書かれており、食べたのは庶民が食べたとあります。
 『本草綱目啓蒙』(文化2年、1805年)では『鱵魚』の項に延喜式ではヨリトウヲ、ヨロト、サヨリ、ナガイハシ、などの呼び名の後に、紀州熊野にではオキサヨリ、江戸ではサンマと呼ぶと書いてあります。また播州(現在の兵庫県辺り)、讃州(香川県辺り)ではサイラと呼ぶとあります。(中略)
『倭漢三才図会』(文政7年、1824年)では『さいら』の項に『のうらき』『乃宇羅岐』と付記してありますので、文政頃にどちらも同じ魚だと言うことになったのではないかと思われます。
 「秋刀魚」の字が使われるようになるのは、明治に入ってからとの事です。」

明治になってからのことのようだ。この説に依ると,「サンマ」として,分化され,認知されるのは,かなり後になってから,ということになる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%9E

によると,

「サンマは古くは『サイラ(佐伊羅魚)』『サマナ(狭真魚〉)』『サンマ(青串魚)』などと読み書きされており、また、明治の文豪・夏目漱石は、1906年(明治39年)発表の『吾輩は猫である』の中でサンマを『三馬(サンマ)』と記している。これらに対して『秋刀魚』という漢字表記の登場は遅く、大正時代まで待たねばならない。現代では使用されるほとんど唯一の漢字表記となっている『秋刀魚』の由来は、秋に旬を迎えよく獲れることと、細い柳葉形で銀色に輝くその魚体が刀を連想させることにあり、『秋に獲れる刀のような形をした魚』との含意があると考えられている。1922年(大正10年)の佐藤春夫の詩『秋刀魚の歌』で、広くこの漢字が知れわたるようになった。ただし、迪宮裕仁親王(後の昭和天皇)の幼少期のエピソードから、『秋刀魚』の表記は明治後期に流布していたとみなすこともできる。」

とあり,これは,「サンマ」が,一般的に食されるようになったこととつながる。『たべもの語源辞典』は,

「江戸では安永(1772~81)ころになると『安くて長きはさんまなり』という壁書があるくらい流行してきた。下々の者が食べたのだが,寛政(1789~1801)になると中流階層以上にも好む者が出て来て,『サンマがでるとアンマが引っ込む』といわれるほど健康によいたべものとされるようになる。京都ではサヨリとよんでいた。」

とある。なお,『大言海』は,京都にてはサヨリ,大阪にてはサイラとし,「さいら」の項を別途立てて,

「鱵魚(さより)の転」

としている。「サイラ」「さより」等々,地域性もあるにしても,様々に呼ばれてきたものが,18世紀末,つまり江戸の繁栄に伴って流入してきた江戸の下層民,つまりは江戸ッ子が,サンマを認知したことで,「サンマ」が「サンマ」として分化してきたように思われる。

さて,その「サンマ」の語源であるが,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/sa/sanma.html

「サンマの語源は、体が細長いことから『狭真魚(さまな)』の音便約とする説。 古くは『三馬』や単に『馬』と言われており、『サウマ』『サムマ』『イソムマ(磯・甘味)』からとする説。『イサウマナ』『サムマナ』『サムナ』の順に変化したとする説などあるが、どれも確定できるものではない。」

と確定を避けているが,『大言海』は,

「三馬とも表記狭眞魚(さまな)の音便約なるべし(狭俵[さだわら],さんだわら)」

とする。『日本語源広辞典』も,

「狭(サ,細くとがった)+真魚(マナ)」

を採る。

「サマナ(狭真魚)」→「サマ」→「サンマ」

と変化したということになる。そのほか,

大群で泳ぐ習性があるので「大きな群れ」を意味する「サワ(沢)」と「魚」という意味の「マ」がくっついて「サワンマ」→「サンマ」になった,

という説もある。

たべもの語源辞典』は,

「サンマのサンはたくさんという意で,マは,まとまるとか,うまいという意である。」

とする。しかし,江戸中期以降でないと,「うまい」とか「秋の味覚」という評価はなかったのではないか。こけれは聊か疑問である。その他,

スナホメナ(真理魚)の義(名言通),
もとサウマ・サムマ。イサウマ(磯・甘味)の意味(衣食住語源辞典=吉田金彦),

とある。しかし,「サンマ」のうまさが認知されるまで,その呼び名はさまざまであった。たとえば,

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%BE

には,凄い異称が並ぶ。

はりお(はりを) :源順 『和名類聚抄』 承平年間(931-938年)に「波里乎(ハリヲ)」の名で記載あり。
さいら(佐伊羅魚)
さいら(鰶=魚偏に祭) :「鰶」の第1義はコノシロ。
さまな(狭真魚)
おきさより(沖細魚) :人見必大 『本朝食鑑』 1695年(元禄8年)に記載あり。
さんま(三摩) :『本朝食鑑』に記載あり。織田完之 『水産彙考』 1881年(明治14年)等にも記載。
さんま(銅哾魚) :神田玄泉 『日東魚譜』 1741年(元文6年)に記載あり。
さんま(鱵=魚偏に箴) :松易遷編 『名物類篇』 1848年(嘉永元年)に記載あり。※「鱵」の第1義はサヨリ。
さんま(青串魚) :伊藤圭介 『日本産物誌』(原題「日本地誌略物産弁」) 1872-76年(明治5-9年)に記載あり。大蔵省記録局編 『漁産一斑』 1884年(明治17年)にも記載あり。
さんま(秋刀魚) :織田完之 『水産彙考』 1881年(明治14年)に記載あり。これが恐らくは初出。「三摩ヲ秋刀魚(シウタウギヨ)ト云ルハ拠処ナシ」(凡例より)
しまさより :『水産彙考』に記載あり。
さんま(秋光魚) :農商務省水産局編 『日本有用水産誌』 1885年(明治18年)に記載あり。
さんま(鰊) :『日本有用水産誌』に記載あり。
さんま(小隼) :大槻文彦編著 『言海』 1889年(明治22年)にのみ記載。
さんま(鰶=魚偏に祭) :静岡県漁業組合取締所編 『静岡県水産誌』 1894年(明治27年)に記載あり。
さんま(西刀魚) :台湾総督府民生局編著 『台湾総督府民政局殖産部報文』 1896年(明治29年)に記載あり。
さんま(三馬) :夏目漱石 『吾輩は猫である』 1906年(明治39年)に

それだけ,共通認識にはなっていなかったということだろうか。やはり,

秋刀魚,

を当てた人は,明治期だろうが,卓見である。

因みに,「サンマ」の学名「Cololabis saira」の「saira」は,

「日本語での一古称であり紀伊半島の方言名である『サイラ(佐伊羅魚)』に由来している。」

とか。『江戸語大辞典』には,「さんま」の項で,「サイラ」を,上方方言としている。

なお佐藤春夫の詩『秋刀魚の歌』は,

http://www.midnightpress.co.jp/poem/2009/06/post_95.html

に全文載る。

参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%9E
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:秋刀魚 サンマ
posted by Toshi at 03:59| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする