2018年07月08日

イワシ


「イワシ」は,

鰯,
鰮,

と当てる。「鰯」の字は,国字である。「鰮」(オン)の字は,由来は不詳。『字源』には,

「馬鮫(サハラ)に似たる小魚」

とあり,「イワシ」に当てるのは,我が国だけのようである。中国人の視野には入っていない小さな魚のようである。「鰯」の国字は,「イワシ」が

「弱しの転」(『広辞苑』)

とされるところから作られたものらしい。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%82%B7

にも,

「『イワシ』の語源については各説ある。陸に揚げるとすぐに弱って腐りやすい魚であることから『よわし』から変化したとの説(漢字の「鰯」がこれに由来したとする)」

とするが,

「藤原京、平城京出土の木簡には『伊委之』、『伊和志』の文字があり、鰯(日本で作られた漢字、国字)の最も古い使用例は、長屋王(684年?〜729年)邸宅跡から出土した木簡である。」

と,かなり古くから「イワシ」は馴染みの魚のようである。

「イワシ」の語源は,

死にやすい魚であるところから,弱しの転(滑稽雑誌所引和訓義解・東雅・大言海),
イヲヨワシ(和句解),

といった「弱し」転訛説以外にも,

賤しい魚である意から,イヤシの転(日本釈名),
イワシ(祝)の義(柴門和語類集),

等々(以上『日本語源大辞典』)の他,

弱(いわ)けな魚(童という字も「いわけない」と読む。「なし」は強めの語である。幼い者は心が弱,驚きやすいということから,この魚が童児のようだとして),
イワシを女房ことばで「むらさき」という。鮎(の字を藍と考えて)にまさるから,
イワシの鱗が紫色に見えるから「むらさき」,
塩をしたイワシが紫黒だから「むらさき」,
イワシの集まってくる海面が紫になるから「むらさき」

と(以上『たべもの語源辞典』),「むらさき」と呼ぶ説が結構あり,俗説ながら,「むらさき」説には,

「紫式部が夫の宣孝の留守にイワシを焼いて食べていたら,夫が帰ってきた。そんな卑しいものを食べてと叱ると,『日のもとにはやらせ給ふいはし水まいらぬ人はあらじとぞ思ふ』と歌で抗議した。紫式部の好きな鰮だから紫といった」

という説まであるらしい(『たべもの語源辞典』)。

どうやら,「弱し」説が有力に思えるが,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1313276908

に,

「『よわし』→『いわし』と変化した…説は有力ではあるが、『ヨ』が『イ』へと変わる転訛の例が他にないため、その点においては否定的に見られる。」

とある。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/i/iwashi.html

も,

「いわしは、すぐに死んでしまう弱い魚であることから、『弱し(よわし)』が転じたとする説が 有力で、『鰯』の表記も平安時代から見える。また、ハ行転呼音の以前から、『弱し』も『いわし』も第二音節が『ワ』で一致する。ただし、第一音節の『ヨ』から『イ』への音韻交替は他に例がない。」

としている。

「イワシ」について,こんなエピソードがある(『たべもの語源辞典』)。

「白い土器(かわらけ)に鰯を入れて,その上に同じ土器をかぶせて供した。これを『きぬかつぎ』といったとある。隠して供したのは,イワシは下々の者の用いるものだからという。このイワシはゴマメ(五万米)で,カタクチイワシを素干し(生のまま風干し)である。『ごまめ』を『田作(たづく)り』ともいう。田をつくるときの祝肴に用いたからである。(中略)正月のたべものとして『田作り』は取り上げられるものである。(中略)天皇が御衰微のとき,頭つき一尾という儀式に際して,最も安いイワシを一尾用いられたという故事から正月の祝肴として用い,農夫もまた田植えの祝肴として用いたから『田作り』とよんだのである。イワシを茹でてから干したものを煮干しという」

この例といい,紫式部の俗説といい,イワシは下々の食するものであった。となると,

いやし→いわし,

ではあるまいか。

因みに,「カタクチイワシ」は,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ka/katakuchi.html

に,

「下あごが小さく,上あごが前方に突き出ている。上あごだけで片方の口がないようにみえることから」

とある。

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参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 05:35| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする