2018年07月21日

ぬかずく


「ぬかず(づ)く」は,昨今ではあまり使わないが,

額衝く,
叩頭く,

などと当てる。

「額(ぬか)を突く意」

と『広辞苑』にあり,

ひたいを地につけて拝礼する,丁寧にお辞儀する,

という意味である。「ぬか(額)」は,

ひたい,

の意だが,『岩波古語辞典』には,

「平安時代以後は,『ぬかをつく』などと区別の場合を除き,もっぱら『ひたひ』という」

とあるので,「ぬかづく」以外では,「額」を「ぬか」とは呼ばなくなって久しいようだ。「ぬかづきむし(叩頭虫)」は,今日の,

コメツキムシ,

の意だが,こういう形で残ったらしい。『大辞林』には,

〔古くは『ぬかつく』と清音か〕」

とあるが,『日本語源広辞典』は,

「ヌカ(額)+付く」

だから,この場合だと,

額を地に付ける,

になる。『大言海』の,

額を地に突く,

のと何れであろうか。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/nu/nukazuku.html

は,

「ぬかずくは、『額(ぬか)+突く( つく)』の語構成。『ぬか』は『ひたい』と同義語だが、礼拝の意味でも使われる語であった 。『つく』は地面に突き当てる意味で、ぬかずくは礼拝を強めた表現、もしくは実際に地面に固体をつけた礼拝のことである。古くは『ぬかつく』と清音だったとされ、『万葉集』にも『ぬかつく』の例がみられる。ただし、平安中期には『ぬかをつく』という表現もあり、『ぬかつく』と一語化されるのはそれより遅い時期と考えられる。濁音化された『ぬかづく(ぬかずく)』の形は、『文明本節用集』や『日葡辞典』などに見られ,室町以降に濁音化された可能性が高い。」

とあり,

額+突く,

を採る。『日本語源大辞典』も,同趣のことを述べていて,

「『観智院本名義抄』の『叩頭虫』の訓『ヌカツキムシ』は『ツ』に点が一つ打たれており濁音を表す双点(点二つ)とは区別されるので,古くは清音であったと考えられる。ところが『文明本節用集』や『日葡辞典』では濁音になってり,室町期以降に濁音化したらしい。」

とし,さらに,

「古くは『ぬか』だけで礼拝の意味があったらしい。また『ぬかをつく』という表現も『三宝絵詞』などにみられ,平安中期でも動詞として必ずしも熟していなかったようである。」

とする。「ぬか」だけで礼拝の意味があったとすると,

額を付く,

ではなく,

額を突く,

でないと,「ぬかづく」の原意は出てこないのではあるまいか。しかし,それはあくまで漢字に依るもので,「つく」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/448009954.html

で触れたように,おおまかに,「つく」は,

「付く・附く・着く・就く・即く」系,

「突く・衝く・撞く(・搗く・舂く・築く)」系,

とに使い分けている。しかし,語源を調べると,「突く・衝く・撞く」系の,「突く」も,

付く,

に行き着くようだ。『日本語源広辞典』によると,「突く」は,

ツク(付・着)と同源,

とあるので,

付(着)く,

に行きつく。語感の差は,漢字から来ているだけかもしれない。大勢は,

額突,
額衝,
額付,

の差はあるが,ほとんどこの説に収斂する(万葉代匠記・塩尻・和字正濫鈔・万葉集類林・箋注和名抄・言元梯・名言通・大言海)。異説は,

ヌはめぐらす義,カはカシラの義,ヌカヅクは頭をめぐらして,地にツクの義(仙覚抄),

である。どうやら,

額+つく(突・衝・付),

でいいようである。では「ぬか」は,何から由来したのか。

『大言海』は,

「人の相逢ふ,先ず其額を見る。向(むか)に通じるか」

とするが,如何であろうか。しかし,『日本語源大辞典』を見ると,

ムカ(向)の義(円珠庵雑記・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・大言海),

と,結構多数派である。その他,

ナカ(平所)の義(言元梯),
ヌク(抜)と同語。額面の抜け出た所の意(日本古語大辞典=松岡静雄),

がある。どれも,ちょっと惹かれないが,この中から選択するとすると,

抜く,

かもしれない。意味は,「ムカ」と似ているが。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
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スキル事典;
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posted by Toshi at 04:03| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする