2018年07月28日

ナシ


「ナシ」は,

梨,

である。「梨」(リ)の字は,

「会意兼形声。利は犁の上部と同じで,ざくざくとよく切れる,すきの刃。さくさくと歯切れよく切れるなしの実をあらわす。俗に,音符を利(よく切れる)にかえて梨と書く」

で,おそらく,梨の実と一緒に中國から入って来たに違いない。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%B7

によると,

「日本でナシが食べられ始めたのは弥生時代頃とされ、登呂遺跡などから多数食用にされたとされる根拠の種子などが見つかっている。ただし、それ以前の遺跡などからは見つかっていないこと、野生のナシ(山梨)の自生地が人里周辺のみであることなどから、大陸から人の手によって持ち込まれたと考えられている。文献に初めて登場するのは『日本書紀』であり、持統天皇の693年の詔において五穀とともに『桑、苧、梨、栗、蕪菁』の栽培を奨励する記述がある。」

とあり,古くから食べられていた。『たべもの語源辞典』によると,

「『万葉集』には,梨の歌が四種ある。『妻梨の木』と書いたもの二首,梨・棗とあるもの一首,梨という名は出ないが梨の黄葉を歌ったもの一首である。」

とある。「梨」の出る三首は,

2188: 黄葉のにほひは繁ししかれども妻梨の木を手折りかざさむ
2189: 露霜の寒き夕の秋風にもみちにけらし妻梨の木は
3834: 梨棗黍に粟つぎ延ふ葛の後も逢はむと葵花咲く

である(http://www6.airnet.ne.jp/manyo/main/flower/nasi.html)。

『たべもの語源辞典』はさらに,

「白楽天の長恨歌に『梨花一枝春雨帯』とあるが,中国では,梨の花が清白だから雪にたとえられ,一転して美人の形容となった。中国梨は,日本梨と同種である。」

とある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%B7

には,

「五世紀の中国の歴史書『洛陽伽藍記』には重さ10斤(約6キログラム)のナシが登場し、『和漢三才図会』には落下した実にあたって犬が死んだ逸話のある『犬殺し』というナシが記述されている。」

といい,江戸時代には栽培技術が発達し、100を越す品種が果樹園で栽培されていた,とか。松平定信が記した狗日記によれば、

「『船橋のあたりいく。梨の木を、多く植えて、枝を繁く打曲て作りなせるなり。かく苦しくなしては花も咲かじと思ふが、枝のびやかなければ、花も実も少しとぞ。』とあり、現在の市川から船橋にかけての江戸近郊では江戸時代後期頃には、既に梨の栽培が盛んだった」

という。「ナシ」は「無し」に通ずるというので,忌み言葉として,

アリノミ(有の実),

と呼んだが,「この起源は相当にふるくて,平安時代の女房ことばにアリノミ」がある,というが,「ナシ」が古くあるのだから,当然といえば当然だろう。

さて,「ナシ」の語源は,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/na/nashi.html

は,

「果肉が白いことから『なかしろ(中白)』、略されて『ナシ』になったとする説。梨は風があると実らないことから『かぜなし(風無し)』で、『ナシ』になったとする説。果実の中心が酸っぱいことから『なす(中酸)』が転じたとする説。梨は次の年まで色が変わらないことから『なましき』が転じたとする説。『あまし(甘し)や『ねしろみ(性白実)』から、『ナシ』になったとする説。奈良時代当時、ナシとリンゴの原種となったカラナシ以外に果実の底が著しくくぼんだものが見当たらないことから、『つまなし(端無し)』の『つま(端)』が脱落したなど諸説あるが未詳。
 平安時代には、『ナシ』が『無し』に通じることを忌んで『ありのみ(有の実)』と呼ばれたり、『無し』に掛けた言葉や歌が多く見られるが、語源とは結びつかない。」

と諸説挙げるだけだが,『大言海』は,「奈子」説を採る。

「奈子の音かとも云ふ,外国渡来のものか」

とあるが,『日本語源広辞典』も,その説を採り,

「語源は,奈子の字音(大言海説)です。(中略)奈は,『赤なし』です。木の下に,示を加えた字の誤字です。中国の留学生が『奈という果実』としたのが語源」

とする。「奈」(呉音ナイ・ナ,漢音ダイ・ダ)の字は,

からなし,
野生のリンゴ(ベニリンゴ),
あかなし,

の意とある。

「会意文字。『来+示(祭礼)』が本字で,祭りの供え物として備えるからなしの木をあらわす」

で,調べると「カラナシ」は,「唐梨」と当て,

カリンの別称,バラ科の落葉高木,園芸植物,薬用植物,

と,

リンゴの別称,バラ科の落葉高木,園芸植物,

とあり,「赤い実のリンゴ」としているのは,「和名抄」らしい(ベニリンゴの古名)ので,その区別は,いまではよく分からない。ただ,「ベニリンゴ」は,

「別名ウケザキカイドウ(受咲海棠)ともいう。楕円形のリンゴに似た果実が垂れ下がる。先端に宿存萼(がく)があり、10月ころ紅色または黄色に熟す」(日本大百科全書(ニッポニカ))

カリンと似ているのだろうか。

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しかし,カリンは,中国では,


「国語では『爾雅』にも記載がある『木瓜』(もっか)を標準名とする。他に『榠楂』(『図経本草』)、木李(『詩経』)、『木瓜海棠』、『光皮木瓜』、『香木瓜』、『梗木瓜』、『鉄脚梨』、『万寿果』などの名称がある。」

と,「ナシ」とは別である。日本で,「奈」がカリンと混同されたものだろう。『日本語源大辞典』に,

「奈良時代当時の果実では,ナシとカラナシ(リンゴの原種)のほかに底の部分がくぼんでいるものが見あたらない」

とあり,「奈」を,ベニリンゴ(カラナシ)とナシを混同した可能性がなくもない。

『日本語の語源』は,

「夏季の野菜・果物をナツミ(夏実)といったのがナスミ・ナスビ(関西)・ナス(茄子)・ナシ(梨)になった。」

とし,この「ナツミ(夏実)」説を,『たべもの語源辞典』も,

「日本梨の早生種は七月中旬からとれ,夏の実(ナツミ)という名がつけられたものがいくつかある。たとえば,ナツミからナスビがナス(茄子)となる。そしてナツミからナシになった。ナシは,どの果物にくらべても果汁の多い点では負けない。牛乳の水分は88パーセントだが,ナシは89パーセントもある。水菓子という名にふさわしい果実はナシである。」

と,諸説挙げた中で肩入れしている。その他,

中心が白いナカシロ(中白)の略(日本釈名・柴門和語類集),
風があると実らないところから風ナシの義(滑稽雑誌所引和訓義解),
ナス(中酸)の転(東雅・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
奈良時代当時の果実では,ナシとカラナシ(リンゴの原種)のほかに底の部分がくぼんでいるものが見あたらないところからツマナシ(端がない)のツマが脱落した(木の名の由来=深津正),

等々が『日本語源大辞典』に載るが,その他も諸説あって定まっていないが,その外観が似ているところから,

奈子(柰子)説,

に与しておきたい。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:24| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする