2018年08月01日
よわい
「よわい」は,
齢,
歯,
と当てる。
年齢,
の他に,『広辞苑』には,
(歯(し)するの訓読から)仲間に加わること,
の意味が載る。「歯」が「よわい(よはひ)」の意味とされるのは,『漢字源』に,
「歯が年齢によって生減するところから」
とある。「齢(齡)」(漢音レイ,呉音リョウ)の字は,
「形声文字。『齒(とし)+音符令』。数珠つなぎに並ぶ年月で,次々に並ぶ意を含む。歯の生え方で年の違いがわかるので,歯を添えた」
とある(『漢字源』)。
https://okjiten.jp/kanji1477.html
は,
「形声文字です(歯(齒)+令)。『立ち止まる足の象形と歯の象形』(『食物を加えとどめる歯』の意味)と『頭上に頂く冠の象形とひざまずく人の象形』(人がひざまずいて神意を聞くさまから、『命ずる』の意味だが、ここでは、『櫺(れい)』に通じ(同じ読みを持つ『櫺』と同じ意味を持つようになって)、『等間隔に整然と並ぶ』の意味)から、『等間隔に刻ま
れる、とし』を意味する『齢』という漢字が成り立ちました。」
とあり,
http://gaus.livedoor.biz/archives/28667944.html
「形声。音符は令。説文新附に“年なり”とし、字林に“年歯なり”とあり、“とし、よわい”の意味に用いる。獣畜の類は、歯をみて容易にその年齢を知ることができるので、歯を字の要素として含んでいる」(白川静『常用字解』)
とし,いずれも,「歯」の字が中心にある。「歯(齒)」(シ)の字は,
「会意兼形声。古くは口の中のはを描いた象形文字。のち,これを音符に止を加えた。『前歯の形+音符止(とめる)』。物をかみとめる前歯。」
とあり(『漢字源』),もともと「よわい」という意味を持つ。「歯す」には,
齢の順に並ぶ,
馬の歯を見て年をはかる,
順番に並ぶ,
同類と数えられる,
といった意味になる。『広辞苑』のいっていることはここに由来する。
さて「よわい」の語源であるが,『大言海』は,
「世延(ヨハヒ)の義か,或は,生(イキ)の間(アヒダ)の意か,又世間(ヨアヒ)の転ならむと」
とするが,『日本語源広辞典』は,
「『ヨ(世)+ハヒ(延ひ)』です。このようなを生きて命を延ばしていく年数」
説を採る。『岩波古語辞典』は,
「ヨ(一生)ハヒ(延)の意か。多くの人間の,重ね経た年齢に言う。類語トシ(年)は,稲の実りの意から,一年の意。」
とする。「とし」は,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/455913434.html?1531723658
で触れたように,『岩波古語辞典』にも,
「稲などのみのりの意。一回のみのりに一年かかるところから,後に,年の意。漢字『年』も原義は穀物の熟する意」
とある。で,「とし」の意味は,
時の単位,
を指すと同時に,
歳月,
に広がり,
年齢,
穀物の実り,
季節,
と意味の幅が広がる。「年」の字も,
「『禾(いね)+音符人』。人(ニン)は,ねっとりと,くっついて親しみある意を含む。年は,作物がねっとりと実って,人に収穫される期間を表す。穀物が熟してねばりを持つ状態になるまでの期間のこと。」
と収穫とつながる。一般的な意味の「世」を「延ふ」よりは,個に焦点を当て,その「生」を「延ふ」なのではないか。そうした方が,「歯」を入れた「齢」の意味が生きる。だから,「年」が,一年という期間を指し,「齢」は,年の重なりの意となる,という「とし」と対比する「よわい」の意味が説得力があるようにみえる。
『日本語源大辞典』をみると,
ヨハヒ(世延)の義(俚言集覧・名言通・和訓栞・柴門和語類集・大言海),
ヨアイ(世間)の義(日本釈名・本朝辞源=宇田甘冥・国語の語根とその分類=大島正健・大言海),
ヨイハヒ(世祝)の義か(和句解),
ヨハヘ(世栄)の義,またヨハヒ(弥老)の転(和語私臆鈔),
と,「世延ふ」説に近い「世」を採る説が多いが。
なお「は(歯)」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/449107768.html
で触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95