2018年08月07日

こわい


「こわい」は,

怖い,
恐い,
強い,

と当てる。「怖い」「恐い」は「強い」と同源とある(『広辞苑』)。『岩波古語辞典』の「こはし」には,

「表面が堅くて弾力性に乏しいのが原義」

とある。『大言海』は,「強い」と「怖い」を別項にし,「恐し」では,

「凝り張るの語根を活用せさせたる語あるべきか(凝凝(こりこり)し,こごし。強張る,こはる)」

とし(字鏡「硬,コワシ」),「恐し」は,

「(強しの)語意の転じたるなり。強(こわ)きものは恐ろしき意」

とする。どうやら,「強い」の,

硬くごつごつしている,
ごわごわしている,
てごわい,
強情である,
生硬である,
骨がおれる,

といった意味の外延に,

おそろしい,

という意味がつながっていった,と見られる。『日本語の語源』も,

「コハシ(強し)は『強い。勇猛である。強力である』という意味の言葉である。〈勇み悍(こは)き士(ひと)あり〉(垂仁紀)。強者に対する恐怖の念から「そろしい」という意のコハシ(恐し)に転義した。〈すれ山の神(女房)ハコハシ〉(狂・花子)。さらにコワイに転音した。」

とし,それに基づいて,『日本語源広辞典』は,「こわい(恐い)」の語源を,

「コワ(強)+シの口語化」

としている。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ko/kowai.html

も,

「こわいの古形は『こはし(こわし)』で,『強い(こわい)』の意味にある『かたい』が原義。そこからこわいは『強い(つわい)』『強情だ』という意味も表すようになり,中世ころから『おそろしい』といった意味が含まれるようになった。『こはし』の『こは』は,『やはし(やわい)』の『やは』に対する語なので,『こる(凝る)』『こゆ(凍ゆ)』『こほる(凍る)』などの語の語根を活用させた語と考えられる。」

としている。『日本語源大辞典』は,「怖い」「恐い」は,

コハシ(強)の転(大言海),
古義は柔らかくない義(毎日の言葉=柳田國男),

というか載せないが,「強い」については,

コリハル(凝張)の語根を活用させた語か(大言海),
コはシコ(醜)のコでコハ(凝張)の意がある(日本語源=賀茂百樹),
キハラシキ(木張如)の義(名言通),
コは強,剛の字音から。ハシは付字(和句解),
カハ(皮)から(続上代特殊仮名音義=森重敏),

と,いずれも,確定的ではない。『語源由来辞典』の,

「『こる(凝る)』『こゆ(凍ゆ)』『こほる(凍る)』などの語の語根を活用させた語」

とする説が,『大言海』の説とも併せてみると,最も妥当に思えてくる。

ちなみに,「強」「怖」「恐」の漢字を当ててこそ,使い分けができたのだから,その字源を見ておく。

「強」の字については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/460927593.html?1533582258

で触れたが,

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BC%B7

にあるように,

「会意説:『弘』+『虫』で、ある種類の虫の名が、『彊』(強い弓)を音が共通であるため音を仮借した(説文解字 他)、または、『弘』は弓の弦をはずした様で、ひいては弓の弦を意味し、虫からとった強い弦を意味する(白川静説)。会意形声説:。『弘』は『彊』(キョウ)の略体で、『虫』をつけ甲虫の硬い頭部等を意味した(『漢字源』)。」

と諸説あるが,「強」の対比「弱」が,

「模様や飾りのついた柔らかな弓」

と,「弓」と関わる。「強」の字も,「弓」についての説明がなければ,「弱」との辻褄が合うまい。

「怖」(漢音ホ,呉音フ)の字は,

「形声。『心+音符布』で,何かに迫られた感じでおびえること」

とあり(『漢字源』),

https://okjiten.jp/kanji1268.html

「形声文字です(忄(心)+布)。『心臓』の象形と『木づちを手にする象形と頭に巻く布にひもをつけて帯にさしこむ象形』(木づちでつやを出した『ぬの』の意味だが、ここでは、『怕』に通じ(「怕」と同じ意味を持つようになって)、『おそれる』の意味)から、『おそれる』を意味する『怖』という漢字が成り立ちました。」

とする。「恐」(漢音キョウ,呉音ク)の字は,

「会意兼形声。上部の字(音キョウ)は,『人が両手を出した姿+音符工』からなり,突き通して穴をあける作業をすること。恐はそれを音符とし,心を加えた字で,心の中が突きぬけて穴のあいたようなうつろな感じがすること」

とあり(『漢字源』),

https://okjiten.jp/kanji1164.html

は,

「会意兼形声文字です(巩+心)。『心臓』の象形と『工具:のみの象形と5本の指のある手の象形』(『慎み深く(控えめ)に工具:のみを手にする』の意味)から、『慎み深い心』、『おそれ』を意味する『恐』という漢字が成り立ちました。」

とする。漢字の意味の翳がなければ,和語がいかに薄っぺらかが思い知らされる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:10| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする