2018年08月17日

サバを読む


「サバを読む」は,

鯖を読む,

と当て,

鯖読み,

とも言う。「下駄をはかせる」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/414131601.html

で,触れたが,

数をごまかす,

という意味で使われる。語源的には,「鯖読み」として,

「鯖+ヨミ(読む,数える)」

で,鯖を数えるときごまかすことが多かったから,と言われる。鯖は腐りやすい魚なので,売り急ぐことが多く,急いで数えるため,数え間違いの多い魚で,「いい加減に数を数える」ことから,

ごまかして,自分の利をはかる,
都合のいいように数や年齢をごまかす

となったとされる。『広辞苑』にも,

「鯖を数えるのに,急いで数をよみ,その際,数をごまかすことが多いところから」

と載る。この説が,わかりやすくて面白いせいか,語源説の大勢を占める。肝腎の『江戸語大辞典』には,「さばをよむ(鯖を読む)」の項で,

「物を数える時,その数をごまかす。実数よりも多くいうこともあれば少なく言うこともある」

としか載らないのに。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/sa/sabawoyomu.html

も,

「数字をごまかす意味として江戸時代から使われている語。語源は、サバは傷みやすく数 も多かったため早口で数えられ、実際の数と合わないことから、いい加減に数を数えることを『鯖を読む』と言うようになり、現在の意味に転じた説が定説となっている。」

とするし,『日本語源広辞典』も,「さばよみ」の項で,

「『鯖+ヨミ(読み・数える)』で,鯖を数えるときゴマカスことが多かったから,とも。腐りやすい魚なので,売り急ぐことが多く数え誤りの多い魚とも,いいます」

とある。商売人が,そんなことをするのか,というのが直感でてる。ちょっといかがわしい。腐りやすいなら,今日のバードウォッチングではないが,簡便な数え方を工夫するはずである。それがプロというものではあるまいか。

『故事ことわざ辞典』

http://kotowaza-allguide.com/sa/sabawoyomu.html

は,「ここでの『読む』は『数える』の意」とした上で,

「語源は諸説あり、鯖は『生き腐れ』と呼ばれるほど傷みやすく、傷みやすく数も多かったためにわざと早口で数えて数をごまかしていたことから、いい加減に数を数えることを『鯖を読む』という意味になり現在の意味に転じたという説がある。他に、『魚市場(いざば)』からの転という説、刺鯖など二枚重ねを一連として数えることからという説、数の多いことを意味する『さは』から転じたという説などがある」

という他説も挙げる。『岩波古語辞典』は,「さばよみ」の項で,

「二つで一つとかぞえること」

とある。『名語記』に,

「二つづつ読む(数える)をばさばよみと云ふ事あり」

とある,とも載る。これなら,意味が,

いい加減に数えること,

と変じ,それが,

数を誤魔化す,

と轉ずるのは自然だ。『大言海』には,「鯖讀」の項で,

「當字なり,サバは,魚市(いさば)の上略(磯魚取(いそなどり),すなどり。茨,ばら。弥立(いよだ)つ,よだつ)。讀むは,數ふるなり。魚市にて,鰯など売るに,急速に數へて,ヒトヨ,フタヨ,ミッチョウ,ヨッチョウなどと早口に云ふ,これを,魚市(いさば)よみと云へるなるべく,其の急呼する際に,まやかすこともあるべきなり」

とある。「いさば」の項では,

「磯魚場(いそなば)の約。…和訓栞,いさば『今,魚肆をいへり,磯場のぎにや』。俗語考(橘守部)いさぱし『魚あきなひする者を,いさば師と云ふ。イサバはイサ魚(な)場にて,魚捕る猟場也』。五十集と書くば,五十(いそ)を磯に集むるなど云ふ當字なるべし。又いさば師のシは,為(し)の義(弓し,矢し,鋳物し)」

とある。「磯魚(いさな)」の項では,

「磯魚(いそな)の転」

とある。此処から見ると,「さばよみ」の,

鯖讀み,

が当て字である以上,

大網で捕獲した大量のサバ(鯖)を数えるとき,使用人がごまかすことからはじまったか(明治東京風俗語事典=正岡容),
サバ(鯖)は腐りやすいため急いで数を数えて売りさばく必要があり,そのときに数をごまかすことが多かったからか(上方語源辞典=前田勇),

等々の説は,ほぼ全部間違っているといっていい。「さば」が鯖でないとすると,「鰯」も数える,とあるところから,大量に水揚げされる魚の数え方を言ったものと推定するのが妥当なのだろう。『岩波古語辞典』の,

「二つで一つとかぞえること」

というのが俄然効いてくる。『日本語源大辞典』は,

「『名語記』の記述によれば,二つずつ数えることをいうとあり,さらにそこから転用して数をごまかす意になったとも考えられる。」

としている。これが意味の広がりから考えても,妥当ではあるまいか。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:28| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする