2018年08月20日

アワビ


「アワビ」は,

蚫,
鮑,
鰒,

等々と当てるらしい。「蚫」(漢音ホウ,呉音ビョウ)の字は,

「『虫+音符包(ホウ からでからを包む)』。貝殻で包まれた貝」

「鮑」(漢音ホウ,呉音ビョウ)の字は,

「会意兼形声。『魚+音符包(つつむ)』。塩で包む魚。または,腹の中へ塩を包み込むさかな」

の意で,「しおうお」(魚をひらいて塩でつけ,くさくなるまでおいたもの)をさし,「アワビ(アハビ)」に当てたのは,我が国だけらしい。ただ,

「今では,中国でも,鰒(フク アワビ)の俗名として鰒魚を用いる」(『漢字源』)

ともある。「鰒」(フク)の字は,

「会意兼形声。右側の字(音フク)は,ふっくらとふくれたとの基本義をもつ。鰒はそれを音符とし,魚を添えた。」

で,「アワビ」の意だが,我が国では,「ふぐ」に当てた。

https://zatsuneta.com/archives/001875.html

には,

「漢字の『鮑』は、魚へんに『つつむ』を意味する『包』という字を組み合わせたもの。これは楕円形の殻に覆われて岩に付着する姿が、身を包んだように見えることに由来する。」

とある。

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なお,『大言海』には,

「常に,鮑,又は,蚫の字を書く,鮑は,塩漬の魚にて,誤用なれども,和漢共に,古くより交じりたり。急就篇,注『鮑,亦海魚,加之以塩而不乾者也』香祖筆記『鰒魚,京師,率作鮑魚』。蚫は,天治字鏡に載せて,小学篇字の中にあれば,疑ひもなく,古き和製字なり。鮑の偏を変じたるなるべし。我邦のホシアハビを,干蚫と記して,支那に渡せるなり。蚫の字,彼邦に伝はりて,蚫(パオ)と称して用ゐ居るなり」

とある。「遅くとも江戸時代には日本から中国(当時は清)に輸出されていた(俵物)」とされる大事な輸出品であった。

「アワビ」は牡蠣等と異なり,片側にしか殻がないので「磯の鮑の片思い」と言われるのは,

伊勢の海人の 朝な夕なに かづくとふ 鮑の貝の 片思ひにして

という万葉集の歌に由来するらしい。

https://www.bioweather.net/column/ikimono/manyo/m0706_1.htm

によると,そのほかにも,

手に取るが からに忘ると 海人の言ひし 恋忘れ貝 言(こと)にしありけり

という歌があるらしい。

さて,「アワビ」の語源は,『大言海』は,「あはび」の項は,

あはびかひ(鰒),

に導かれ,「あはびかひ」の項に,

「合はぬ肉介(みかひ)の略轉なるべし。知らぬを,跡白波などと云ふ例なり(黍(きみ),きび。夜の目,さの目もあはざの烏)。桑家漢語抄(足利時代)『鮑,阿波美(あわみ,常片甲而維(かかる)岸岩不逢佗之義也)』」

とある。『日本語源広辞典』も,

「アワ(合わせる)+ミ(身・肉)」の音韻変化,

とみる。その他,

フワヌミ(不合肉)の略轉(和句解・和語私臆鈔),
アハスミ(合肉)の義(名言通),
アヒ(合)の轉(俚言集覧),
アハ(合)デ-ヒカル(光)の義,また,アハ(合)デ-ヒラク(開)の義。ふたがないため(日本釈名)

等々も同趣旨の説だろう。その他には,

イハフ(岩礁)の轉(言元梯),
イハハヒミ(岩這身)の義(日本語原学=林甕臣),
肉の味がアハアハシクて,乾して種々の用途に用いられるためか(和訓栞),
アマフカ(甘深)食の反(名語記),
不逢陀の義(桑家漢語抄),

等々があるが,「あはみ」と古くはあるところを見れば,『大言海』説に落ち着くのかもしれない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:19| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする