2018年08月24日

ささ(酒)


「酒」は,

ささ,

とも言う。

Sake_set.jpg

(酒器に酌まれた日本酒。盃(左)、猪口(中央)、枡 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%85%92より)

「酒をいう女房詞」

らしいが,『広辞苑』には,

「『さけ』の『さ』を重ねた語。一説に,中国で酒のことを竹葉というのに基づくとする」

とある。『デジタル大辞泉』にも,

「中国で酒を竹葉といったことからとも、『さけ』の『さ』を重ねたものともいう」

とある。『岩波古語辞典』では,「ささ(笹・小竹)」の項に,載せる。「笹」とどんな関係があるのか。『たべもの語源辞典』は,「さけ」の語源として,

「中国で酒の異名を竹葉というが,竹葉から笹となり酒となったなどのこじつけ」

と一蹴するが,「さけ」の語源かどうかはさておき,「竹葉」の故事自体は,室町時代の古辞書『土蓋嚢抄』(1446)に,

酒ヲ竹葉ト云事ハ如何,

に応えて,

竹ノ葉ノ露タマリ。酒ト成ル故ニ。竹葉ト云ト,

とあり,

昔漢朝ニ劉石〔リウセキ〕ト云者アリキ。繼母ニ合テケルカ。其繼母我ガ實子ニハ能飯〔イヒ〕ヲ食セ。孤子〔マヽコ〕ニハ糟糠〔サウカウ〕ノ飯ヲ與ヘケリ。劉石是ヲ不得食シテ。家近キ所ニ木ノ股ノ有ケルニ。棄置ケリ。自然ニ雨水落積テ,漸ク乱レテ後芳バシカリシカハ,劉石之ヲ試ルニ其味ヒ妙ナリ。仍テ竹ノ葉ヲ折テ指覆フ。其心ヲ以テ酒ヲ作テ國王奉リシカ。味ヒ比无(ナク)シテ褒美ニ預リ。献賞ヲ蒙テ家富ミケル也。是ニ依テ。酒ヲ竹葉ト云云。

と,由来を述べている(https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/Ko_sake_nomi.htmlより),という。竹の葉を折って覆ったらなぜ美酒になるかはともかく,こんなところから,酒を「竹葉」という謂れはある。ただ,それから,「ささ」につながるというのは,少々牽強に過ぎまいか。むしろ,「笹」は酒と関係が深いらしい。

https://sasa-japon.info/culture/sasa-sake/

には,

「日本の古い詩にも笹と酒の関係性が発見できます。
『岩魚(イワナ)にはまだならずとも笹魚(ササウオ)のササをすすむるひと筋となれ』
このように酒と笹の縁は国をまたいで古くから伝わっています。
酒をつくる時、飲む時、そこにも酒と笹とのつながりがあります。酒をつくる際、防腐剤としてもっとも古くから使われてきたのはクマ笹の葉を粉末にしたものを使う方法です。戦前まで函館の酒造所で行われていたようです。
中国では酒の発酵を止めるのにも使っていたとか……。」

と,笹と酒の関係は深そうである。で,「ささ」と言ったと説く方がまだ,わかる。「竹葉」経由では少し回りくどい。

『大言海』は,

「和訓栞,ササ『小児詞にて,サケを重ねたるにや』。小児語より婦女の語にも移りたるなり(愛(は)し,母(はは)。鶏(とり),とと。浅漬,あさあさ。数子(かずのこ),かずかず)」

と,幼児語説を採る。

『日本語源大辞典』は,

酒の異名「竹葉」を和語化した語か(嘉良喜随筆・漫画随筆・閑窓瑣談・和訓栞),
サケ(酒)ノサを重ねた語か(古事記伝・和訓栞・大言海),
人に酒をすすめる時のことばから(総合日本民俗語意考),

と挙げる。『日本語源広辞典』も,この三説をあげるが,「酒をすすめる」説について,

「イザイザの音韻変化,勧める語」を酒の名詞と思い間違った」

としている。『日本語源大辞典』は,更に,

君にササグルの略語(柴門和語類集),
三々九度の「三々」から(貞丈雑記),
「酢々」が国語化したもの(日本語原学=与謝野寛),

と,三説を紹介している。しかし,前述の,

https://sasa-japon.info/culture/sasa-sake/

が,

「群馬県や和歌山県新宮市では酒をササという文化が僅かに残っています。宮中では酒のことを表す言葉として、ササとオッコンの両方が使われています。また、『日葡辞典』には酒粕のことをササノミと載っています。」

とある。「ささ」は「さけ」の語源とつながっているのではあるまいか。

「酒」の語源については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/451957995.html

で触れたが,『岩波古語辞典』に「き」が酒の古名とあり,この「き」は,「kï」である,とする。「ki」ではない。この「き」について,

「古語時代は食べることまたは食べ物を『ケ』、飲み物はそれが転じて『キ』となった」(東雅)
「奇(く)しをつめて,キと呼び,キと呼んだ」(たべもの語源辞典)

の説が目に留まったが,『日本語源大辞典』は,

カミ(醸)の約(大言海),
キ(気)の義か(和訓栞),
ケ(饌・食)の轉(言元梯・日本古語大辞典=松岡静雄),
蛮語である(和訓八例),
キ(醗)の字音(日本語原学=与謝野寛),

と諸説載せる。どうやら,「さけ」が,『大言海』の言うような,

「サは,発語にて,サ酒(キ)の転(サ衣,サ山。清(キヨラ),ケウラ。木(キ)をケとも云ふ)」

に落ち着くとすると,「ささ」は,本来意味のなかった「さ」を,

重ねた,

とするのが妥当に思える。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:ささ さけ
posted by Toshi at 04:57| Comment(0) | カテゴリ無し | 更新情報をチェックする