2018年09月06日

がてら


「がてら」は,「がてり」とも言うが,

花見がてら,

というような使い方をし,「がてらに」の形でも用いられ,

ひとつのことをするついでに他のことをするのにいう接続詞。用言の連用形または体言につく,

~のついでに,
~かたがた,

という意味で使う。つまり,

「ある事柄をするときに、それを機会に他の事柄をもする意を表す」

のである。しかし『大辞林』には,

「上代末期からの語。現代語では、『がてら』が付いて示されている事柄が主で、その下に述べられている事柄は副次的なものである場合が多いが、古くは、前件が従、後件が主であるのが一般であった。また、『がてらに』の形でも用いられる。『わが宿の花見がてらにくる人は散りなむ後ぞ恋しかるべき/古今 春下』」

とある。つまり,「花見がてら」と,今日いうときは,「花見」が主だが,かつては,逆であった,と。『岩波古語辞典』には,

「梅の花咲き散る園に我行かむ君が使ひをかた待ちがてら」〈万・四〇四一〉

の例も載る。

『岩波古語辞典』は,その由来を,

「ガテリの語尾リを,状態を示す接尾語ラに置き換えるようにになって成立した語」

とあり,「がてり」の項では,

「臼でつくいのカチにアリがついた語であろう。二つの行為をつき合わせて一緒にする意」

として,

katiati→kateri→gateri,

の転訛を説く。『大言海』は,

「カテは,カツ,カテテ(加・糅)のカテと云ふ。或は,且の転とも云ふ。事の相雑はる意なり。」

とする。接続詞「且」は,「又,そのうへに」の意だが,この語は,「片一方より」の意の副詞「且」から来ている。その由来は,

「片と通ず(籠(かたま),かつみ。熱海(あつみ),あたみ)。対(むか)ひたるものの片方の意。」

とある。なお,「がてら」「かてり」の「ら」「り」は,

「語の末に付けて云ふ助辞。普通意味なきもあり,又,親愛の意あるもあり」

とある(「ら」は「り」「れ」「ろ」と通ず,とある)。「かてて」の「加」は意味が分かるが,「糅」は,『岩波古語辞典』の「か(糅)て」の項に,

まぜる,

意とある。「がてら」「がてり」は,加えて,という含意がある。だから,『日本語源広辞典』が,

「カタハラ(傍・横に並行して)」の変化,

とするのは,少し意味が違う。「加えて」という意味だからこそ,

花見がてら,

というとき,花見は従で,

古くは、前件が従、後件が主であるのが一般,

の意味が生きるのではないか。しかし,『日本語の語源』は,「カタハラ」説を採る。

「一説に,『まぜる』『まじえる』という意の動詞『かつ』の連用形『かち』に,動詞『あり』がついてできたものという(古語辞典)と説いているが,どうも納得しかねる。私見によればいたって簡単である。花見のカタハラ(傍)の語が,タハ[t(ah)a]の縮約でカタラになり,『タ』が母交(母韻交替)[ae]をとげてカテラ・ガテラになった。『がてら』はさらに語尾が母交(母韻交替)[ai]をとげて『がてり』になった。」

とする。しかし,それだと,主従の意味が,「花見がてら」の,「花見」が主は出るが,かつて逆だったという含意が出てこないのではないか。

類語「かたがた」は,

旁,
方々,

と当てるが,「方々」の,

あの方角,この方角,
あれやこれや,

から転じて,

二つ以上の事柄を並べて,

ついでに,
併せて,

という意味になる。この場合,「あちらこちら」と,並列的で,主従薄い。たとえば,

御礼旁,

という使い方の場合,たぶん,「礼」が主だが,それを紛らす意味での使い方をすることはあるが,御礼のついでという含意は少ないはずである。たとえば,

「お礼方々(かたがた)ご挨拶申し上げます」
「ご挨拶方々伺わせていただきます」
「散歩方々買い物をする」
「墓参方々帰省する」

という場合,

散歩がてら買い物をする,
墓参がてら帰省する,

には違和感がないが,

お礼がてらご挨拶申し上げます,
ご挨拶がてら伺わせていただきます,

には,多少の違和感がある。「かたがた」には,並列で,

兼ねて,

の含意であるが,「がてら」は,何となく,何か主たることの,

ついで,

の含意が強いからではないか。自分自身の行動でなら問題が顕在化しないが,相手に対して使うとき,やはり,主従の含意が残っているせいではないかと思われる。

なお,「ついでに」の意味の,行きしな,の「しな」,道すがらの「すがら」,通りすがりの「すがり」,通りがかりの「かかり」,行きがかりの「かかり」,行きがけの「かけ」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/420311540.html

で触れた。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評

ラベル:がてら かたがた
posted by Toshi at 04:22| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする