2018年10月02日

白を切る


「白を切る」は,

知らないふりをする,
しらばっくれる,

の意味だ。

そ知らぬふりをする,

で,「とぼける」ともつながる。「白」は当て字,という。

知っているのに、知らないかのように振舞うことで,「とぼける」などとも言う。「白」は当て字。しかし,「しろ」
の項(http://ppnetwork.seesaa.net/article/438347414.html?1537140099)で触れたように, 「しろい」は,

他との差異が際立って「目につく」

という意味で,その場合,色のみを指していたのではなく,見分け,聞き分け,嗅ぎ分け等々の知覚の際立つことを指していたので,ここでは見当違いに見える。

『日本語源広辞典』は,「白を切る」を,

「シラ(しらばくれる・知らぬ意)+キル(目立つ行為をする)」

とする。この「きる」は,「見えを切る」「啖呵を切る」の「切る」と同じという。『大言海』も,「切る」は。

「俗に,決め込む,する」

意とする。そこで,

不知(しら)を切る,

を挙げ,「白を切る」の「しら」を,「不知」と当てている。

「知らぬということを決め込む」

という意味がよりはっきりする。で,『大言海』は,「しらばくれる」について,

しらじらしく化ける,
知りて居ながら,知らぬふりをする,
知らず顔する,

とある。

しらばくれる,
しらばっくれる,

の「しら」も,「白を切る」の「しら」と同じとすると,「しら」は,「不知」なのか「白」なのかによって,由来に差が出てくる。「知らぬふり」が,

知らぬ化け,

なのか,

白の振り,

なのか。ただ,「しろ」の項(http://ppnetwork.seesaa.net/article/438347414.html?1537140099)で触れたように,無実の意味の「白」は,『日本語俗語辞典』(http://zokugo-dict.com/12si/siro.htm)に,

「白とは無実、無罪、潔白を意味する。また無実の人のことも白という。白は警察の間で使われていたものが、ドラマや映画、その他メディアから一般にも普及。犯罪でなくてもイタズラや裏切り行為をしたかどうかといった程度のことにも使われるようになる。ちなみにこの白は日本語の潔白からきたのではなく、英語で無罪・潔白を意味するwhite(正確にはwhite hands)から、警察の間で使われるようになったといわれる。」

とあり,後々のことなので,例えば,『日本語源広辞典』の,

「『シラ(知らぬ)+ばくれる(~ぽくなる)』です。知らないような様子をする意です。知らにシラ(白・無実)を懸けた言葉なのです」

は,時代的に合わない。既に『江戸語大辞典』に載っていて,『江戸語大辞典』では,「しらばっくれる」は,

白逸れる,

と当てて,

「しらはぐれるが連濁のため音変化したしらばくれるの促呼」

とし,「しらっぱくれる」と同じで,

「関東保元の江戸語となりしものか。文化七年・当世七癖上戸『しらぱつくれるとは,私りつつ知らぬ風に持て成す事をいふ。江戸にてしらをきるといふ詞に相当也』」

とある。同時期に「しらを切る」と「しらぱっくれる」があるので,「しら」が「しらぱっくれる」の「しら」とする説(『日本語源広辞典』)も,ちょっと違うようである。

『日本語源大辞典』は,「しらばくれる」の項で,

「『しらばくれる』の『ばくれる』は,あるいは『ばく(化)』の連体形(中世では終止に用いられる)『ばくる』を終止形と意識し,これを口語化して,ラ行下一段に活用させたもの」

とある。「ばくれる」は「化ける」だとすると,『江戸語大辞典』の,

白逸れる,

は当て字で,『大言海』説に分があるように見える。

『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/si/shirabakureru.html)は,

「『しら』は『白々しい(しらじらしい)』などの『白(しら)』、『ばくれる』は化ける意味の『ばくる』 で、『白々しく化ける』の意味からと考えられる。また、『しらばっくれる』は『しらばくれる』が促音化された言葉で、『しら』を略した『ばっくれる』という語も生じた。」

と,「しら」を「しらじらしい」の「しら」とする。「しらじらしい」は,ふるくは,

しらしらし,

で,

いかにも白く見える,
味気ない,

の意味の他に,

空々しい,
しらばくれている,見え透いている,

という意味があり,もしその「しらしらし」の「しら」だとすると,

しらじらしく化ける,

という意になり,少し重複する。僕は,「しらじらしい」とは別系統に,

しらを切る,
しらばくれる,

があったのではないか,と思う。となると,

不知に化ける,

という意味になる。今日,「ばっくれる」だけが独立したのには,言葉の流れから見ると,自然なのではないか。

しらばける→しらはぐれる→しらばくれる→しらばっくれる,

という感じだろうか。

「ばっくれる」について,『日本語俗語辞典』(http://zokugo-dict.com/26ha/bakureru.htm)は,今日,二系列に意味がある,とする。

ひとつは,ばっくれるとは「とぼける」「白を切る」「しらんふり」といった意味で、主にヤクザや盗人、不良の間で使われる言葉である。

いまひとつは, 上記の「ばっくれる」の意味が転じ、「逃げる」といった意味でも使われるようになる。更にそこから「学校を無断で早退する(サボる)」といった意味で若者に使われた言葉である。

後者の逃げるは,『江戸語大辞典』の「しらばくれる」に当てた「白逸れる」の「逸れる」の意味が今に生きている。

ちなみに,「とぼける」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/430665380.html)で触れたように,「とぼける」は,語源的には,

「と(接頭語)+ぼける(恍ける,惚ける)」

で,わざと知らないふりをする,という意味である。どこか,「化ける」と重なる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:15| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする