2018年10月16日

ひょんな


「ひょんな」は,

ひょんないきさつで,
ひょんなことから,

といった言い回しで使う。『広辞苑第5版』には,

出来事の意外なまたは奇妙なさま,
とんでもない,
妙な,

あるいは『岩波古語辞典』には,加えて,

意外な,

という意味が載る。しかし,

ひょんないきさつで,

と言うのと,

とんでもないいきさつで,

と言うのも,

妙ないきさつで,

と言うのとも,

意外ないきさつで,

と言うのも,微妙に語感が違う。「ひょんな」は「妙な」「とんでもない」「意外な」とは置き換えがきかない気がする。むしろ,『大言海』が,

奇妙な,
不思議な,

と加えている意味,特に,

不思議な,

に重なる部分が多い気がする。

予期できない(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%B2%E3%82%87%E3%82%93%E3%81%AA),

という意味が語幹的には近い気がする。

古い用法では、不都合なことについて使う(仝上)

とするが,『岩波古語辞典』の,

「これは何とした事をするなぞ。ひょんな事をいはるるぞ」

と言う用例から見ると,不都合というよりは,不思議という語感なのではあるまいか。

室町末期の『日葡辞典』に,

「ヒョンナコトヲイウ,マタ,スル」

として,

常軌を逸して人の目にとまることを言う、あるいはする,

と説明しているので,古くから使われていたが,『岩波古語辞典』には,

「俗に物のよからざる事すべてヒョンナと云ふ。凶の字の華音ひょんといふより,言ひ伝へて常語となり」(同文通考),

が引いてある。華音(かいん)とは,中国語の音の意だが,「凶」は,キョウ(漢音),ク(呉音)で,「ヒョン」と訓むとはないのだが。

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%B2%E3%82%87%E3%82%93%E3%81%AA

は,上記の「凶」の中国音とする説が,

「凶」の唐宋音から転じた,

として載る。出典は,

「新井白石著・新井白蛾補『同文通考』(1760年)巻二『漢音呉音』の項、白蛾による補のなかに『俗に物の好からざることをすべてひよんなことと云ふ、凶の字の華音凶ひよんと云より、言ひ傳へて常語となり」とある。松葉軒東井『譬喩尽』(1787年)には『凶ひょんなこととは凶の字の唐音なり』とある。』

とあり,さらに,異説として、

「イスノキの別名『ひょん』から来た,

とする説を載せ,

「安原貞室『片言』(1650年)では、『ひよんなことといふを、ひよがいなこと、ひようげたことなどいふは如何と云り。是はひよんといふ木の実の、えもしれぬ物なるよりいへること葉歟。又瓢のなりのおかしう侍るより、しれぬことの上になぞらへて、ひようげたことと云初たるか。 又は、へんなことと云こと歟』としている。」

とする。『日本語源広辞典』は,

「ヒョン(擬態語)+な」

とし,

「ヒョット,キョトン,ション,シャント,チャント,チョコンなどと同類の語です。思いがけず妙な,意外で具合が悪い,などの意です。中国語の,凶の音(ヒョン)を語源とする説は,江戸期の漢学者の付会と思われ,疑問に思われます。」

とする。日常会話で使ったと思われるので,華音凶の転訛は考えにくい。文脈依存で,擬音語,擬態語の多い和語から考えると,擬態語というのが妥当とは思うが,元々は,どういう意味だったのだろう。確かに,

ひょんな,

には,擬態語の語感がある気がするが。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)


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posted by Toshi at 04:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする