「下足」とは,
脱いだ履き物,
を指す。しかし,
げそく,
と訓まず,
げそ,
と訓むと,
げそく,
の略でもあるが,
(鮨屋などで)イカの足のこと,
となる。
なぜ,脱いだ履き物が,
下足,
なのか。『日本語源広辞典』は,
「下(脱ぎ捨てる)+足(足から)」
とする。「上下の下ではない」とするものの,少し無理筋ではないか。
「下駄箱(げたばこ)は、靴などの履物を収納するための家具。銭湯や寄席など古くからある大衆が集う場所では下足箱(げそくばこ)とも呼ばれ、規模が大きい場所では「下足番」と呼ばれる履物の管理人を置くことがある。」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E9%A7%84%E7%AE%B1)。
家庭では言わないので,多くの人が集まる場所での履き物をそう符牒のように呼んだものらしい。
「客などが座敷へあがるためにぬいだ履物を下足という。江戸時代から芝居小屋,料亭,寄席,遊郭,集会所,催物場などが,下足番を置いて客の履物をあずかって下足札をわたした。旅館も客の履物をあずかるが,昔の旅客はわらじ履きだったので下足札はわたさなかった。それゆえ旅館では下足とはいわない。明治末からは東京にデパートが開店したが,初期には店内に緋もうせんやじゅうたんなどを敷きつめて,客の履物をあずかってスリッパあるいは上草履に履き替えさせて下足札をわたしたこともある。」(『世界大百科事典 第2版』)
とあり,特定の場所での脱いだ履き物を指したものらしい。「草鞋」を指さないところを見ると,履物を預けるのには意味があったのではないか。
東京・根岸で江戸時代から300年以上続く料亭「笹乃雪」には下足番が居るらしい。で,
「『今でも下足番がいる店は、もうそんなに存在しないでしょうね。東京でも数店ではないでしょうか。コストがかかりますから。でも、私どもの店では、下足番を大変重要なものと考えています』と、笹乃雪の第11代目当主、奥村氏は語る。」
とある(http://www.uhchronicle.com/a000000116/a000000116j.html)。下足番が生まれた背景は,
「江戸時代の人々にとって、履物が非常に重要だったことがことがあるようだ。江戸時代、建築物は木造で、冬は乾燥したしたため、非常に火事が多かったそうである。その頻度は、江戸時代約260年間で大きな火事が90回以上と、相当であった。そのため、当時の人々は火事に備えて自分の資産を守る術を心得ていたという。商人は損害を最小限にするため建物を簡素にし、何かあったら直ぐに持ち出せるようにと、当時の履物である雪駄や草履、そして小物に金をかけたそうである。」
とある。
「江戸の人々は履物を財産として扱い、その金の掛け様は『江戸の履き倒れ』と呼ばれる程であった。」
とか,江江戸時代の人々が履物にかけた金額は、現在の値段に直すと、イタリア製の有名高級メーカーの靴の何倍もしたそうである。その上,
「江戸っ子には悪戯者が多かったことがある、とも言われている。もともと江戸は地方から来た人の寄せ集め。従って少々客の程度がよろしくなく、食い逃げが多かったそうである。但し、彼らは『金が無い』という理由でなく、『悪戯』として食い逃げをした。何れにしろ店としては有難くない話である。その為、下足番が履物の管理を行い、お勘定が済んで札の色が変わった客に、履物を渡した。」(仝上)
とか。下足とは,あるいは,「履物を脱ぐ」意ではなく,式台や畳に「足を下ろす」という意味だったのかもしれない。
この「下足」を略した「げそ」が,
烏賊の足,
を意味するに至ったのは,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ke/geso.html)
に,
「げそは漢字で『下足』と表記するように、『げそく』の略である。『げそく』と同様に、『げそ』は靴・下駄・草履など履物を指し、寄席や飲食店では客の脱いだ履物を指したが、転じて『足』の意味になった。『足』の意味で『げそ』が使われた言葉には、『逃亡する』の意味の『げそを切る』、『足がつく』の意味の『げそがつく』など盗人や香具師の隠語から広まった言葉も多い。『イカの足』を『げそ』と呼ぶようになったのはすし屋の隠語きからである。」
とある。「下足」から「足」の意味となり,落語などでも,足元に気をつけろという時に「ゲソをよく見ろ」と言ったりする。らしい。
「寿司屋の店主がイカを刺身にする際、イカの胴体に対して10本の触手のことを『イカの足』、 つまり『イカのゲソ』と呼んでいたことから、次第にイカの触手を指す語として定着し、現在では『ゲソ丼』のように料理の名称に使われることも多い。」
とある(http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%B2%E3%82%BD)。「10本足だからゲソ」と呼ばれるようになったので,
タコ,
の足は指さないらしい。異説には,かつて,「下足番」は,
下足札の紐10本まとめていたところから来た,と言う。
「ゲソ」=「10本」=「イカの足」
というものもあるらしい(http://www.ytv.co.jp/michiura/time/2017/12/post-4024.html)。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:下足