2018年10月24日

霜月


「霜月」は,陰暦十一月の異称である。その他に,

ちゅうとう(仲冬),
かぐらづき(神楽月),
かみきづき(神帰月),
けんしげつ(建子月),
こげつ(辜月),
しもつき(霜月),
しもふりづき(霜降月),
しもみづき(霜見月),
てんしょうげつ(天正月),
ゆきまちづき(雪待月),
ようふく(陽復),
りゅうせんげつ(竜潜月),
ゆきまちづき(雪待月),
かおみせづき(顔見世月),
ねのつき(子の月),
ちょうげつ(暢月),

等々がある。異称のいわれについては,

https://jpnculture.net/shimotsuki/

が詳しい。

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(歌川豊国(三代目)「十二月ノ内霜月酉のまち」嘉永7年(1854)国立国会図書館所蔵 http://www.kabuki-za.com/syoku/2/no145.htmlより)


僕は個人的に不審に思うのは,神無月(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461948043.html?1538337813)で触れたように,三代歌川豊国は,「神無月 はつ雪のそうか」という浮世絵で,牡丹雪が降り続く夜に,蕎麦売りの屋台に集まり、蕎麦を食べて暖をとる「そうか」(夜鷹)を描いていた。神無月で牡丹雪である。そのよく月に「霜の月」とは如何なものか。

この説は,どうやら「神無月」を「神無き月」と解釈したのと同一人物の臆説から始まっているらしい。神無月について,

「十月(かみなづき),天下のもろもろの神,出雲國に行きて,異国(ことくに)に神無きが故に,かみなし月と云ふをあやまれり」

とした藤原清輔(治承元年卒)の「奥義抄」は,「霜月」についても,

「十一月(しもつき)、霜しきりに降るゆえに霜降月(しもふりつき)といふを誤(あやま)れり」

と同じ口吻で言っているのが笑える。しかしこれが定説なのだという。理解できない。しかし,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/si/shimotsuki.html

も,

「『霜降り月・霜降月(しもふりつき)』の略とする説が有力とされる。その他、十は満ちた数で一区切りなので上月になり,それに対して下月とする説 や,『神無月』を『上な月』と考えて『下な月』とする説など,上下の『下』とみる説。『食物月(をしものつき)』の略とする説や,『擂籾月(すりもみづき)』の意味など諸説あるが,いずれも有力とはされていない。」

と,霜に絡めようとしている。しかし,「霜月」が,当て字なら,それをもとに解釈しているにすぎなくなる。

『大言海』は,

「食物(をしもの)月の略。新嘗祭を初めとして,民間にても,新饗(ニヒアヘ)す。むつきの條を見よ」

とする。睦月(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455932349.html)で触れたように,『大言海』は,「むつき(睦月・正月)」の項で,

「實月(むつき)の義。稲の實を,始めて水に浸す月なりと云ふ。十二箇月の名は,すべて稲禾生熟の次第を遂ひて,名づけしなり。一説に,相睦(あひむつ)び月の意と云ふは,いかが」

とし,

「三國志,魏志,東夷,倭人傳,注『魏略曰,其俗不知正歳四時,但記春耕秋収為年紀』

を引いて,「相睦(あひむつ)び月の意」に疑問を呈して,「實月」説を採っていた。

そもそも,「とし(年)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455913434.html?1514751938)が,

「日本語で『とし』とは、『稲』や穀物を語源とし、一年周期で稲作を行なっていたため『年』の意味で使われるようになったという。ちなみに、漢字の『年』は禾に粘りの意味を含む人の符を加え、穀物が成熟するまでの周期を表現した。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4

とあるのだから,なおさら農事に関わると,僕は思う。『大言海』も,

「爾雅,釋天篇,歳名『夏曰歳,商曰祀,周曰年,唐虞曰歳』。注『歳取歳星行一次,祀取四時一終,年取禾一熟,歳取物終更始』。疏『年者禾塾之名,毎年一熟,故以為歳名』。左傳襄公廿七年,註『穀一熟為一年』。トシは田寄(たよし)の義,神の御霊を以て田に成して,天皇に寄(おさ)し奉りたまふ故なり,タヨ,約まりて,ト,となる」

としている。因みに,「年」の字も,

「『禾(いね)+音符人』。人(ニン)は,ねっとりと,くっついて親しみある意を含む。年は,作物がねっとりと実って,人に収穫される期間を表す。穀物が熟してねばりを持つ状態になるまでの期間のこと。」

とあり,「歳」の字も,

「『戉(エツ 刃物)+歩(としのあゆみ)』で,手鎌の刃で作物の穂を刈り取るまでの時間の流れを示す。太古には種まきから収穫までの期間をあらわし,のち一年の意となった。穂(スイ 作物のほがみのる)と縁が近い。」

と,同じである。これまで触れてたように,

師走(陰暦十二月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/455892480.html
睦月(陰暦一月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/455932349.html
如月(陰暦二月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/456805354.html
弥生(陰暦三月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/457607450.html
卯月(陰暦四月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/457762501.html
皐月(陰暦五月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/458763376.html
水無月(陰暦六月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/459166730.html
文月(陰暦七月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/459184411.html
葉月(陰暦八月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/460695958.html
長月(陰暦九月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/460732975.html
神無月(陰暦十月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/461948043.html?1538337813

各月名は,農事と深くつながっている。「霜月」だけが,その一年の流れと無関係であるとは,ちょっと信じられない。

『日本語源広辞典』は,「霜の月」を採る,とした上で,

「『食物月』(ヲシモノツキ)説がありますが,付会かと考えます」

と切り捨てる。しかし「しもつき」が「霜月」と当てた根拠は,無い。根拠のない当て字をもとに「霜の月」とする方が付会ではあるまいか。

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(歌川広重『名所江戸百景』より「浅草田圃酉の町」。吉原妓楼の一室から、鷲神社へ参る人の賑いを遠くに望む。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%89%E3%81%AE%E5%B8%82より)


『日本語源大辞典』には,確かに,

シモフリノツキ(霜降月)の略(奥義抄,名語記,日本釈名,萬葉集別記,柴門和語類集),
シモヅキ(霜月)の義(類聚名物考,和訓栞),

と,「霜」系が多数派だが,その他,『大言海』の「食物月(ヲシモノツキ)」以外に,

シモグル月の義。シモグルは,ものがしおれ痛む意の古語シモゲルから(嚶々筆語),
スリモミヅキ(摺籾月)の義(日本語原学=林甕臣),
新陽がはじめて生ずる月であるところから,シモツキ(新陽月)の義(和語私臆鈔),
十月を上の月と考え,それに対して下月といったものか。十は盈数なので。十一を下の一といったもの(古今要覧稿),
シモ(下)ミナ月,あるいはシモナ月の略。祭り月であるカミナ月に連続するものとしてシモナツキを考えたものらしい(霜及び霜月=折口信夫),

等々を乗せる。しかし,僕は,

既に,神無月に初雪の浮世絵があるという季節感から,陰暦十一月(新暦の十二月)に霜月では遅い,と感じること,

そして,

一月から十二月まで,農事と関連する語原であったことから,農事につなげるものとして,

新嘗の,「食物月(ヲシモノツキ)」(大言海)

か,

「スリモミヅキ(摺籾月)の義」(日本語原学=林甕臣),

のいずれかが妥当ではないかと思う。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:霜月
posted by Toshi at 04:59| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする