2018年11月11日
うららか
「うららか」は,
麗らか,
と当てる。春の季語である。
空が晴れて,日影の明るく穏やかな日にいう,
という意味で,日和を指すが,それをメタファに,意味が転じて,
声の明るく朗らかなさま,
心の爽やかなさま,
と広がる(『広辞苑第5版』)。その他に,
蒸気,煙,霞,雲などがのどかにたちのぼる,またのどかに揺らめく様子,
穏やかに,快い音が響き渡ったりも良い香りが立ちのぼる様子,
態度や行動などがのどかな様子,
等々,「春の光のようにのんびりとおだやかな」感じをメタファにさらに広がっている(『擬音語・擬態語辞典』)。
「うららか」は,
春うらら,
とも言うので,「うらら」ともつながる。『岩波古語辞典』は,
「ウラウラと同根。明るく柔らかい日ざしがあふれ,晴れやかに静かなさま。類義語ノドカは,眠たげにゆっくりと落ち着いたさま」
とあり,「うらうら」と同根なのは,
うらら,
うらやか,
もそうである。『日本語源広辞典』は,「うららか」を,
「ウラウラ(擬態語)+らか」
とする。「うらうら」は,『万葉集』の,大伴家持の歌に,
「うらうらに 照れる春日に ひばりあがり 心悲しも ひとりし思へば」
と詠まれる程古い擬態語で,
「『うらうら』『うららか』『うらら』の語根『うら』は春の光ののどかな様子を意味する。
『大言海』は,「うららか」に,
天麗,
とあて,
「うるはし(麗)と通ず」
としている。
「麗しき」とつなげている。しかし「麗し」は,「美し」とも当て,少し語感が違う。「麗し」と当てた「麗」に引きずられたのだろうか。「うるわし」の項で触れたように,
「うるはし」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/451088860.html)は,
「奈良時代に,相手を立派だ,端麗だと賞讃する気持から発して,平安時代以後の和文脈では。きちんと整っている,礼儀正しいという意味を濃く保っていた語。漢文訓読体では,『美』『彩』『綺麗』『婉』などの傍訓に使われ,多く仏などの端麗・華麗な美しさをいう。平安女流文学では,ウツクシ(親子・夫婦の情愛をいい,対象を可愛く思う気持)とは異なる意味を表した。今日のウルワシは漢文訓読体での意味の流れをひいている。」(『岩波古語辞典』)
で,「うつくし」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/451058731.html?1497987229)は,
「親が子を,また,夫婦が互いに,かわいく思い,情愛をそそぐ心持をいうのが,最も古い意味。平安時代には,小さいものをかわいいと眺める気持ちへと移り,梅の花などのように小さくてかわいく,美であるものの形容。中世に入って,美しい・奇麗だの意に転じ,中世末から近世にかけて,さっぱりとしてこだわりを残さない意も表した。類義語ウルハシは端正で立派であると相手を賞美する気持。イツクシは神威が霊妙に働き,犯しがたい威厳のある意。ただし,中世以降,ウツクシミはイツクシミと混同した。平安時代,かわいいの意のラウタシがあるが,これは相手をいたわりかわいがってやりたい意」(『岩波古語辞典』)
であり,結果として,「うつくし」が,相手への感情表現から,相手の価値表現へシフトし,「うるわし」が,相手の状態表現から,相手の価値表現へとシフトし,価値表現そのものへと転換したということになる。「うるわし」と「うららか」とは語の用法も異なると思う。
ちなみに,「麗」(漢音レイ,呉音ライ)の字は,
「象形。麗は,鹿の角がきれいに二本並んだ姿を描いたもの。連なる,並ぶなどの意味を表す」
で,「うるわし」は,まさに「麗」の字なのである。
『日本語源大辞典』も,やはり,
ウララはウラウラの約(東雅・万葉考),
とする。他に,
ウラ(面)ラカの義(名語記),
もあるようだが,「うらうら」の転訛でいいのだろう。では,その擬態語「うらうら」はどこから来たか。擬態語なので,説明のしようはないのかもしれないが,『日本語源大辞典』は,
ヨワラヨワラ(弱々)の義(万葉考・和訓栞),
ユラユラ(寛々)の転(言元梯),
ウルハシ(美)のウルと同根(国語本義),
ウラはヤヲラ(弱)の意(万葉考),
と,「弱い」と絡めるが,「弱々しい」は,「うらうら」とは語感が隔絶している。「うらうら」は,古代,ウラウラとしか言いようがなかった,ということなのだろう。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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