2018年11月12日

うかつ


「うかつ」は,

迂闊,

と当てる。

回り遠くて,実情にあてはまらない,
注意の足りない,うっかりしている,
大まかで,気の大きいこと,

と,「回り遠い」ことが,「気の大きい」ことまで意味が転化している。「気の大きい」意味は,「日葡辞典」に載るらしいので,室町末期にはその意味で使われていたらしい。

「迂」(ウ)の字は,

「会意兼形声。『辶(すすむ,足がなめらかにしてとどまらず)+音符于(つかえて曲がる)』」

で(『字源』『漢字源』),

遠回り,事情から遠ざかるる,

という意味だが,

まわりくどい,
物事にうとくて実際的ではない,

という意味もある。「迂」の字を使った例で言うと,『論語』子路編の,

子路曰。衛君待子而爲政。子將奚先。子曰。必也正名乎。子路曰。有是哉。子之迂也。奚其正。子曰。野哉。由也。君子於其所不知。蓋闕如也。名不正。則言不順。言不順。則事不成。事不成。則禮樂不興。禮樂不興。則刑罰不中。刑罰不中。則民無所錯手足。故君子名之必可言也。言之必可行也。君子於其言。無所苟而已矣。

子路曰く、是有あるかな、子の迂なるや,

と,子路が孔子を「迂遠」と批判したところにみられる。それに対して,

子曰く、野なるかな由や。君子は其の知らざる所に於いて、蓋闕如(かつけつじょ)たり。名正しからざれば、則ち言順(した)わず。言順わざれば、事成ならず。事成らざれば、則ち礼楽興(お)こらず。礼楽興こらざれば、則ち刑罰中(あた)らず。刑罰中ざれば、則ち民手足を錯(お)く所無し。故に君子之に名づくれば、必ず言うべきなり。之を言えば必ず行なうべきなり。君子は其の言に於いて、苟(いやし)くもする所無なきのみ。

と答える。因みに,

蓋闕如(かつけつじょ)たり,

は,知らないことを黙って言わないありよう,

を指す。このとき「迂」は,

迂遠,

の意味である。「闊」(漢音カツ,呉音カチ)の字は,

「会意兼形声。活は,水が勢いよく流れること。ゆとりがあってつかえない意を含む。濶は『門+音符活』。寛(ゆとりがある)の語尾が縮まった形」

とあり(『漢字源』),

はるか,間が広くあいているさま,
ゆるい,

といった意味で,

「濶は,疏也,遠也,廣也,両方に限りありて,その間の幅広き意」

とある。無限の広がりではないようである。

『日本語源広辞典』は,

「中国語の『迂(曲がりくねって遠い)+闊(遠回し)』が語源です。事情に遠い。日本語では,注意が足りず,うっかりする意につかいます。」

とある。本来の,

回り遠い,

という意味から,

うっかり,

の意に使われるようにになったのは,なぜだろう。「迂闊」と似た,

迂遠,

は,あくまで,

道が曲がりくねって遠い,
直接役に立たない,実際的でない,

というという意味で使われ,それは「迂闊」の原義と重なる。

「遠」(漢音エン,呉音オン)の字は,

「会意兼形声。『辶(すすむ)+音符袁(エン 間があいてゆとりがある)』」

で(『漢字源』),

遠い,
距離・時間の隔たりが大きい,

意で,あえて言えば,「濶」より「遠」の方が距りは大きいはずだか,「迂遠」は「遠回り」の意のまま,「迂闊」は「うっかり」へと意味がシフトしていたのは,「うかつ」の語感のせいではなかろうか。

『笑える国語辞典』(https://www.waraerujd.com/blank-777)は,その辺りを,

「迂闊(うかつ)とは、不注意なさまを言う。『原稿用紙一枚分抜けていたとは、うかつでした』(そんな事件が昔ありました)のように、本人は『うっかりミス』程度の軽い気持ちでのほほんとしているが、実際はおおごとで会社はてんやわんやの大騒ぎになっているといった状況で使われることが多い。『迂』は『迂回』のように、遠回りすること、道などが曲がりくねっていることなどの意味、『闊』はだだっ広いこと、距離が遠いこと、大ざっぱなことなどの意味。中国語で『迂闊』は、現実離れしている、まわりくどいという意味だが、日本では、『うっかり』『うかうか』といった言葉に引かれて、頭の中が現実離れしていたり、まわりくどい人物の行動様式について言われるようになったのであろう。」

と,「うかうか」「うっかり」とつなげている。「うかうか」は,動詞「浮かれる」と語幹を共有しているので,「うっかり」というより,「浮ついている」という感じで,言葉の由来を異にするが,

うかと,

という使い方もし,「うかつ」という言葉の響きが重なるのが原因なのかもしれない。

参考文献;
貝塚茂樹訳注『論語』(中公文庫)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:14| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする