2018年11月28日

戦場の暴力


藤木久志『飢餓と戦争の戦国を行く』を読む。

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『雑兵たちの戦場』で,中世の戦場の実像に迫った著者の,それに関連する著作である。著者は,

「戦争・飢饉・疫病の三つが本書の主題」

としている。「はしがき」に引かれている,

七度の餓死に遇うとも,一度の戦いに遇うな,

という諺が象徴的である。

三度の飢餓に遇うとも,一度の戦さに遇うな,

とも言うという。同じことは,幕末福島の百姓一揆の指導者・菅野八郎が,

世話にも,七年の飢饉に逢うとも,壱年の乱に逢うべからずとは,むべなる哉,

と引用しているという。中世の戦乱が重く人々の言い伝えに沈殿してきた証といっていい。

著者は,中世のはじまりの戦争「保元・平次の乱」直前(1150年)から,中世の終わる「関ヶ原合戦」(1600年)までの450年間記録や古文書の災害情報をデータベース化し,

「日本中世の旱魃・長雨・飢饉・疫病年表」

として巻末に整理している。

「できるだけ生生しい原文のまま,コンパクトな形でとりだして」

年表風にまとめている。たとえば,冒頭の久安六(1150)年は,

諸国大風雨洪水の難(京都),咳病放棄,民庶死亡(京都),

翌年仁平元(1151)年は,

去年暴風の難・洪水の困(改元),大雨洪水(京都),

とあり,久安六(1150)年から慶長五(1600)年まで,ほぼ毎年,水害,洪水,暴風,旱魃,飢饉が訪れている。今日の毎年の災害を見れば,日本列島に住む限り,災害は日常茶飯である。それは,当時も今も,同時に飢饉の危険をはらんでいた。しかし,その餓死の危険よりも,戦争を恐れていたのである。

「十一世紀末から十六世紀末まで,五〇〇年間の改元(年号を変える)回数を数えますと,一五二回ほどにのぼるのですが,そのうち凶事つまり天変地異(飢饉など)や兵革(戦争)を原因とするものだけでも,九六回(約63%)にのぼります。中世の改元の過半には,なんとか飢饉をはじめ災害や戦争から抜け出したいという,『世直し』の願いがこめられていた」

とあるように,ほぼ五年に一回,改元で祈らねばならないほどの「兵革・飢饉・疫疾 」に見舞われていた,ということになる。

例えば,世に源平合戦といわれる戦いは,

「天下の騒動と呼ばれる大がかりな内戦となり,折からの飢饉災害とあいまって,田畠を荒廃させ,百姓を逃散させ,人々を何年も続く餓死に追い込んでいた」

のであり,飢饉は戦争と深くつながっている。この間,

飢饉は169件(二・七年に一回),
疫病は182件(二・五年に一回),

そして,戦争は,

源平合戦~応仁の乱までは,三~五年に一回,
戦国時代は,二年に一回,

起きており,それは,そのまま飢饉と疫病の発生をもたらす危険を帯びており,

前者で,十~五〇年に一回,

大飢饉に見舞われ,後者では,

「ほとんど慢性化した飢饉と疫病のさなかに,戦われていた」

という。特に戦国時代後半百年は,

「飢饉と疫病がそれぞれほぼ五十件ずつという惨状」

が見えるという。武将や大名レベルでの歴史を見ているかぎり決して顕在化しない,歴史の惨状が明らかになってくる。

その戦場では,フロイスが『日本史』で,薩摩島津と豊後大友との戦いについて書いているように,

「(薩摩勢)が実におびただしい数の人質,とりわけ婦人・少年・少女たちを拉致…これらの人質に対して。彼らは異常なばかりの残虐行為を…した」

「薩摩軍が豊後で捕虜にした人々は,肥後の国に連行されて,売却された。…肥後の住民は…彼らをまるで家畜のように,髙来(たかく)に連れて行って,売り渡した。…彼らは豊後の婦人や男女の子供を(貧困から)免れようと,二束三文で売却した。」

「ポルトガル人・シャム人・カンボジア人らが,多数の日本人を購入し,…奴隷として彼らの諸国へ連行している」

これは,なにも九州だけのことではない。大航海時代の「世界的な奴隷貿易の時代」に組み込まれていたのである。

「戦国の中ごろ,日本人の『女奴隷』はポルトガル商人の重要な商品とされ,大きな利潤を生んでいた」

ともいう。そして,マニラには,日本人の奴隷がマニラの治安を脅かすほど多くいた,と言うほどになっている。

戦争を嫌うのは,その結果の飢えや疫病よりも,

濫妨,
乱取り,

という兵士たちの略奪・暴行を恐れていたのである。果ては,人身売買によって,遠く異国に送られることなのである。

戦国の英雄たちの視点では決して見えない,日本中世の残酷で悲惨な実情を,また本書で改めて知らされるのである。

参考文献;
藤木久志『飢餓と戦争の戦国を行く』(朝日選書)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:22| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする