2019年01月03日

歯が浮く


「歯が浮く」は,

葉の根がゆるむ,
酸いものなどを食べて,歯の根が浮き上がるように感じる,
軽薄で気障な言動を見聞して不快になる,

という意味が載る(『広辞苑第5版』)が,

歯が浮くようなお世辞,

という言い回しで使われることが多いので,

そらぞらしく、きざな言動に対して、気持ち悪く感ずる,

という意味(『大辞林』)の方がしっくりくる。

語源がはっきりしないが,

酸いものなどを食べて,歯の根が浮き上がるように感じる,

とい辺りが由来らしい。たとえば,は,

「元々『歯が浮く』とは、酸っぱい物を食べた時に不快に感じたりすることを指していた。それが転じて、キザな言動や見えすいたお世辞も不快に感じるので『歯が浮く』と表現されるようになった。」

と(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12151576912)される。あるいは,

「【歯科医注釈】広辞苑では不快になるようなセリフと書かれていますね。実際歯周病で歯が浮いた感じというのは、鈍痛のような不快なものです。現在では照れるような誉め言葉にも使われることがありますが、原義では不快な状態になるときに使う言葉のようです。」

とされる(https://www.kodjeng.com/proverb.html)。あるいは,中国語と比較しながら,

「『歯がうく』倒牙=(酸っぱいものを食べて)歯が浮く,肉麻=(誠意がない、または軽薄な言動によって)不快な気持ちになる 。(中略)疲労などのせいでリアルに『歯がうく』感じがする症状の表現が『倒牙』が近しい。しかし、軽薄な言動に対して『歯がうく』ような嫌な感じがするのは『肉麻』と言い、そうした『身体感覚をともなった情緒性』を表現する身体語としては中国語は『歯』ではなく『肉』を使う。『肉麻』とは、『肉がしびれるむずむずする』の意だ。私たちが『そんなお世辞言われるとこそばがゆい』というあのニュアンスに不快感を加味した感じなのだろう。」

とする(https://cds190.exblog.jp/10238409/)。

極道用語に,「てのすける」があり,

歯が浮く、見え透いた、という意味,とある(http://www.usamimi.info/~kintuba/zingi/zingidic-ta.html)が,これは,どちらかというと,

見え透いた,

というか,手の内が見える,という感じで,言っていることの裏が透けて見える,という含意では似ていると言えば似ているが,少し違うようだ。

今日の感覚では,「歯が浮く」は,

不快感,

より,

空々しさ,

の感じが強かったということだろうか。しかし,その体感覚がぴんと来ないので,僕には,「歯」は,

下駄の歯,

のことではないか,と思ってしまう。下駄(http://ppnetwork.seesaa.net/article/414131601.htmlで触れた)は,

「下(低い)+タ(足板)」

で,木製の低い足駄(あしだ)の意味らしい。足駄(あしだ)は,

屐とも書き,また屐子 (けいし) ともいう。主として雨天用の高下駄。木製の台部の表に鼻緒をつけ,台部の下には2枚の差歯がある。足下または足板の転訛した呼称といわれる。

とある。これだと区別がつかないが,

①(雨の日などにはく)高い二枚歯のついた下駄。高下駄。
②古くは,木の台に鼻緒をすげた履物の総称。

足駄の方が上位概念らしい。下駄自体は,中世末,戦国時代が始まりらしいが(「下は地面を意味し,駄は履物を意味する。下駄も含めてそれ以前は,『アシダ』と呼称されたという説もある),その中で,近世以降,雨天用の高下駄を指すようになったものらしい。一つの木から台と歯を作る「連歯下駄(俗称くりぬき)」はともかく,別に作った歯を台に取り付けるの「差し歯下駄」の場合の,

歯が浮く,

体感覚は,空々しい言葉を聞いた時の「居心地の悪さ」「尻こそばゆさ」に通じるような気がする。もちろん臆説である。因みに,

「歯を台に差込む構造」

は(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E9%A7%84),

ほぞ継ぎ(ほぞ接ぎ),

というらしい。

「ほぞ継ぎは2つの部品:ほぞ穴とほぞの突起で構成される。通常横框と呼ばれる木材の終端を加工したほぞは、対応する木材に彫った正方形または長方形の穴に収まる。ほぞはほぞ穴にぴったり合うよう切断加工されており、通常はほぞを完全にほぞ穴に差し込んだ時に安定させる肩がある。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%BB%E3%81%9E%E7%B6%99%E3%81%8E)。

因みに,「は(羽,歯,刃,葉)」(http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba10.htm#%E3%81%AF)については触れたように,

「は(葉)」と「は(羽)」は「ひら」に通じ,

「は(歯)」と「は(刃)」は,「ハ(喰)」に通じ,

そして,「は(葉)」「は(羽)」「は(歯)」「は(刃)」に共通するのは,「ひら」ではなかろうか,そして「ひらひら」「ひらめく」という擬態語につながっている。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 05:35| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする