2019年01月09日

かみ


「上」は,

かみ,

とも訓む。

「『うえ』が本来は表面を意味するのに対して,一続きのものの始原を指す語」

とある(『広辞苑第5版』)。あるいは,

「ひとつづきのものの始め」
「ひとつづきのものの上部」

とある(『岩波古語辞典』)。そこで,

空間的に高い所,
時間的に初めの方,

という意味から,それに準えて,

年齢,身分,地位,座席などが高いこと,またその人,

の意に転じていく。『岩波古語辞典』は,「かみ」に,

上,

頭,

を当てている。

「かみ」は,

なか(中),
しも(下),

に対する。

長官,

を,

かみ,

と訓ませるのも,「かみ(上)」から来ている。『大言海』は,「かみ」に,「上」以外に,

頭,
髪,

を当て,共に,

「頭(かぶ)と通ず」

とするが,「あたま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/454155971.htmlで触れたように,「あたま」は,

かぶ→かしら→こうべ→(つむり・かぶり・くび)→あたま,

と変遷したので,「かみ(頭)」「かみ(髪)」が,「かぶ」の転訛というのは不思議ではないが,「頭」の「かみ」は,頭から来たのではなく,長官の「かみ」から来たのではないか。「長官(かみ)」は,四等官(しとうかん)制の,

長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん),

の四等官のトップであり,その「かみ」も,「長官」(かみ)の中でも,

(官司)長官(かみ)
神祇官  伯
太政官  (太政大臣)
左大臣
右大臣
省    卿
職    大夫
寮    頭
司    正
(中略)
国司   守

等々(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E7%AD%89%E5%AE%98)と「頭」「守」も同じ「かみ」と訓ませる。この「かみ」は「あたま」の転訛からではなく,四等官の「長官」を「かみ」と訓んだところから出ているのではないか。例えば,四等官、長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん)の判官(じょう)は,寮の允も,国司の掾も,すべて「じょう」と訓ませるのと同じである。

『日本語源広辞典』は,「かみ」を,

上,


と当てながら,

「カミは『上部』が語源です。上にあるもの,つまり川上,頭,髪,守,裃など,共通語源のようです。」

とするが,

「『うえ』が本来は表面を意味するのに対して,一続きのものの始原を指す語」

という意味の説明以上には出ない。ただ,『日本語源大辞典』をみても,

ミは方向をいうモの転訛(神代史の新研究=白鳥庫吉),
タカミ(高)の義(言元梯),
アガミ(挙見)の義(名言通),
ウカミ(浮)の上略(和訓栞),
神と同義(和句解・和語私臆鈔・日本語源=賀茂百樹),
等々。「神」と「上」との関連が一番注目されるが,カミhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/446980286.htmlで触れたようにに,

江戸時代に発見された上代特殊仮名遣によると,

「神」はミが乙類 (kamï)

「上」はミが甲類 (kami)

と音が異なっており,『古語辞典』でも,

「カミ(上)からカミ(神)というとする語源説は成立し難い」

と断言する。ただ,

「『神 (kamï)』と『上 (kami)』音の類似は確かであり、何らかの母音変化が起こった」

とする説もある。『日本語の語源』は,

「『カミ(上)のミは甲類,カミ(神)のミは乙類だから,発音も意味も違っていた』などという点については,筆者の見解によれば,神・高貴者の前で(腰を)ヲリカガム(折り屈む)は,リカ[r(ik)a]の縮約でヲラガム・ヲロガム(拝む)・ヲガム(拝む)・オガム・アガム(崇む)・アガメル(崇める)になった。礼拝の対象であるヲガムカタ(拝む方)は,その省略形のヲガム・ヲガミが語頭を落としてガミ・カミ(神)になったと推定される。語頭に立つ時有声音『ガ』が無声音『カ』に変ることは常のことである。
 あるいは,尊厳な神格に対してイカメシキ(厳めしき)方と呼んでいたが,その省略形のカメシがメシ[m(e∫)i]の縮約でカミ(神)に転化したとも考えられる。いずれにしても,『神』の語源は『上』と無関係であったが,成立した後に,語義的に密接な関連性が生まれた。
 神の御座所を指すカミサ(神座)はカミザ(上座)に転義し,さらに神・天皇の宮殿の方位をカミ(上)といい,語義を拡大して川の源流,日の出の方向(東)をカミ(上)と呼ぶようになった。」

とする。意味の関連から,上と神が重なるが,それは漢字を当てはめてからのことであって,同じ「カミ」と呼びつつ,文脈依存する和語としては,その微妙な差異を微妙な発音でするしかなかったのであろう。少なくとも,「カミ」は,上と神では,差異を意識していたのではあるまいか。

「かみ」は「神」と「上」は発音で使い分けていた以上,語源を異にするとは思うが,「神」の「かみ」もhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/436635355.html「上」の「かみ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/446980286.htmlも,意味は近接しながら,ともに結局語源ははっきりしない。

ただ,前にも触れたことだが,文脈依存の和語の語源は,多く擬態語・擬音語か,状態を表現する,という意味から見れば,

カミ・シモ,

は,両者の位置関係(始源か末か)を,

ウエ・シタ,

は,物の位置関係(上側か下側か)を,

それぞれ示したに違いない。ウエとカミの区別は大事だったに違いないのだが,「上」という同じ漢字を当てたために,状態表現から価値表現へ転じていく中で,混じり合ってしまった。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:かみ
posted by Toshi at 05:31| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする