2019年01月14日

雑兵


藤木久志『【新版】雑兵たちの戦場-中世の傭兵と奴隷狩り』を読む。

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何度目になるだろうか。読むたびに,戦国日本の風景が変わるのを実感する。信長,秀吉や,信玄や謙信といった戦国大名や武将を中心としてみる風景では,戦国期の実像は決して見えない。本書が与えた衝撃は,はかり知れない。

乱取り,
人買い,
奴隷狩り,
奴隷の輸出,

等々,戦国の戦場がもたらした惨状の射程は広く遠く,

山田長政,

にまで及ぶ。山田長政は,大久保忠佐の下僕だったとされる。まさに,雑兵である。それが本書の主役であるが,実は戦国大名の後押しあっての,

乱取り,

なのである。それは,上杉謙信(景虎)は常陸小田城を攻め落とした際,

「小田開城,景虎より,御意をもって,春中,人を売買事,二十銭,三十二(銭)程致し候」

というような人買いによって売り買いされるだけではなく,信玄軍の大がかりな人取りのように,

「男女生取りされ候て,ことごとく甲州へ引越し申し候,さるほどに,二貫,三貫,五貫,十貫にても,身類(親類)ある人は承けもし候」

と,身代金目的でもあり,ともにまぎれもなく,戦国武将そのものが行なっていたことである。天正元年(一五七三)四月、上洛した信長軍でも,雑兵の乱取りは、

「京中辺にて、乱妨の取物共、宝の山のごとくなり」(三河物語)

というありさまである。この雑兵を,著者はこう定義する。

「身分の低い兵卒をいう。戦国大名の軍隊は、かりに百人の兵士がいても、騎馬姿の武士はせいぜい十人足らずであった。あとの九十人余りは雑兵(ぞうひょう)と呼んで、次の三種類の人々からなっていた。
①武士に奉公して、悴者(かせもの)とか若党(わかとう)・足軽などと呼ばれる、主人と共に戦う侍。
②武士の下で、中間(ちゅうげん)・小者(こもの)・荒子(あらしこ)などと呼ばれる、戦場で主人を補(たす)けて馬を引き槍を持つ下人(げにん)。
③夫(ぶ)・夫丸(ぶまる)などと呼ばれる、村々から駆り出されて物を運ぶ百姓(人夫)たちである。」

雑兵の中には,侍(若党,悴者は名字を持つ)と武家の奉公人(下人),動員された百姓が混在している。さらに,

「草・夜わざ,かようの義は,悪党その外,はしり立つもの」

といわれる,いわゆる,

スッパ,ラッパ,

と言うところの,まあ今日の表現で忍者もまた雑兵に入る。このものたちは,

「端境期を戦場でどうにか食いつないでいた」

者たちである。こうした戦場で食いつないでいたものたちは,秀吉によって国内が統一され,戦争が消えたとき行き場を失う。朝鮮侵略は,国内で行なわれてきた,

乱取り,
奴隷狩り,

の輸出であった。一説に,掠奪連行された朝鮮人の数は,

島津だけで三万七千余,

という。出兵した各藩が連行した数は,何十万になるのか?

国外へ出た日本人は,人身売買で,外国商人に売られた人ばかりではなく,傭兵として流出した数は,馬鹿にならない。

「十六世紀末から海を渡った日本人の総数は,とても特定できないが,おそらく十万以上」

といわれる。しかも,

「海外に流れた日本の若者は,鉄砲や槍をもってする戦争に奉仕する『軍役に堪える奴隷』『軍事に従う奴隷』として珍重された」

といい,たとえば,

「1621年(慶長十七),オランダ船のブラウエル司令官が平戸に入港した。目的は幕府の許可を得て,日本人傭兵を海外に連れ出すことであった」

という。

「その多くはごく低賃金で雇われた,奴隷的な兵士であった」

とされる。こうした傭兵は,

「東南アジアの植民地奪い合い戦争や植民地の内乱の抑圧に,手先となって大きな役割を果たした」

こうした流れは,元和七年(1621)に,幕府の

「異国へ人売買ならびに武器類いっさい差し渡すまじ」

という禁令によって終止符がうたれる。このことの与えた衝撃,たとえば,オランダの,

「日本人傭兵なしでとうていアジアの戦争はたたかえぬ」

という反応を見るだけで,いかに日本人傭兵・奴隷がそれに寄与してきたかが想像される。

「切り取り強盗は武士の習い」
「押し借り強盗は武士の慣い」

という諺が,文字通りであったことを知らされるのである。

参考文献;
藤木久志『【新版】雑兵たちの戦場-中世の傭兵と奴隷狩り』(朝日選書)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:28| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする