2019年01月29日

はなはだしい


「はなはだしい」は,

甚だしい,

と当てるが,副詞に,

甚だ,

がある。形容詞「はなはだしい」は,

普通の程度をこえている,はげしい,

意であり,副詞「はなはだ」は,

程度が著しいこと,たいそう,非常に,

の意である。当てている「甚」(漢音ジン,呉音シン)の字は,

「会意。匹とは,ペアをなしてくっつく意で,男女の性交を意味する。甚は『甘(うまい物)+匹(色ごと)』で,食道楽や色ごとに深入りすること」

とあり(『漢字源』),「はなはだしい」の意である。これだと分かりにくいが,「匹」(漢音ヒツ,呉音ヒチ,慣ヒキ)の字は,

「会意。『厂(たれた布)+二つのすじ』で,もとは匸印を含まない。布ふた織りを並べべてたらしたさまで,ひと織りが二丈の長さだから,四丈で一匹となる。二つの物を並べてペアを成す意を含む」

とあり,対の意である(『漢字源』)。

『岩波古語辞典』は,「はなはだ」は,

「ハダ(甚)を重ねた語の転か。平安時代には漢文訓読体に使われた」

とし,

程度を大きく超えているさま,非常に,
全く,全然,
(打消の語を伴って)たいして,

の意とある。「はだ」には,

「ハナハダ(甚)のハダと同根」

とある。『語源辞典・形容詞篇=吉田金彦』も,

「上代,極端にの意を表す副詞ハダがあり,これはハ=端,ダ=接尾語である。このハダを重ねたハダハダからの変化」

とし,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ha/hanahadashii.html)も,

「甚だしいは,副詞「甚だ(はなはだ)」を形容詞化した語。上代に『極端』の意味を表す『は だ(甚)という語があり,それを重ね合わせた『はだはだ』が変化して『はなはだ』になったと考えられている。『はだ(甚)』の『は』は『端』の意味で,『だ』は接尾語である。また『はな(花)』は目立つものの形容にも用いられる語なので,甚だしいの『はなはだ』は『はな(花)』に『はだ(甚)』を合わせた合法俱考えられる。』

とする。ただ,『語源由来辞典』の,「『はな(花)』は目立つものの形容にも用いられる語なので,云々」は意味不明た。「はな」については,すでに触れた(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449051395.html?1547249553)が,

「はな(鼻・端)」は,ともに,

「著しく目立つ意の,ハナ」

で,顔の真ん中で著しく目立つ,ところからとする。それが転じて先端の意となる,「はな(端)」も,

鼻の義(言元梯),

とされるほど,端と鼻は,ほぼ同源で,「はな(花)」は,

著しく現れ目立つ意で,ハナ(端)の義,

と,つまりは,

鼻→端→花,

意と転じている。目立つのは,「花」ではなく「鼻」であった。「はな」が,「はだ」とつながるのでなければ,この説明は意味を成さない。

『大言海』は,形容詞「はなはだし」と副詞「はなはだ」を別語源とする。副詞「はなはだ」は,

「華やかなる意かと云ふ,或は,噫程(あなほど)の轉か」

とし,形容詞「はなはだし」は,

「はだはだしの轉。いたたき,いなたき。へたたり,へなたり。したたり,しなたりと同趣」

とする。「はだはだし」は,

「いたしの重語のいたいたしの転」

とする。「いたし」は,

甚し,

と当てる。甚だしい意である。意味の流れから見れば,

甚し→甚甚し→甚だし,

と一見通るが,

いた→(はだ)→はなはだ,

の転だと,ちょっと無理がある気がする。「いた(甚)し」という語が,

いた(甚)し→いた(甚)→いと(甚),

と転嫁する流れはあるが(『日本語の語源』)。副詞「はなはだ」と形容詞「はなはだし」を別語源とするには,少し無理があるように思える。

副詞「はなはだ」について,『大言海』と同趣なのは,『日本語源広辞典』で,

「「ハナヤカの意のハナの繰り返し,『ハナハナ』の音韻変化です。」

とする。『日本語源大辞典』は,この他に,

ハナクハシ(花曲)の転か,またハナハダ(花膚)の義か,またハナバナシ(花々し)の転か(菊池俗語考),
ハナハタ(花発出)の義か(柴門和語類集),
アナアナ(呼那々々)の義(言元梯),
ハナヤカナルハダ(肌)の義か(和句解),
ハナホド(端程)の転か(国語の語根とその分類=大島正健),
アナガチ(強)の転か,また,アマハタ(天機)と同じか(和語私臆鈔),
ハタハタの転(日本古語大辞典=松岡静雄),
ハナレハナレシキ(離々如)の義(名言通),

等々。また『日本語の語源』は,音韻変化から,

「ハタ(将)は『その上にさらに加わること。その上また。さらにまた。』の意の副詞である。(中略)『たいそう。はなはだ』の意の副詞,ハダに転音・転義した。(中略)これを重ねたハダハダはハナハダ(甚だ)に転音した」

と,「ハダ(甚)」を,

ハタ(将)→ハダ(甚),

とする。諸説あり,決めてはないのだが,やはり,

「ハナハダ(甚)のハダと同根」

とする,上代の副詞ハダ(甚)の重語ハダハダがハナハダへ転訛したとみるのが,一番納得がいく。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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posted by Toshi at 05:35| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする