2019年02月01日

傾く


「傾く」は,

かたむく,

と読むが,

「古くは,カタブク。『片向く』の意」

とある(『広辞苑第5版』)。「かたぶく」の項には,

「中世以降カタムクと両用される」

とある。『岩波古語辞典』には,「かたぶく」は,

「カタは一方的で不完全の意。ブキはムキ(向)の子音交替形。安定直立から斜めにずれて倒れそうになる意」

とある。

『大言海』は,

「偏(かた)向くの義」

とする。『日本語源広辞典』も,

「カタ(片)+ブク(向く・寄る)」

で,

一定の基準(水平または垂直)から片方へそれる,

つまり,

斜めになる,

意だが,それをメタファに,

考えや気持ちがある方面に引きつけられる,
陽が西に沈みかける,
(首を傾げる意から)不審に思う,
不安定になる,

等々の意を持つ。「傾く」は,

カブク,

とも訓む。やはり,

かたむく,

意だが,その「傾く」をメタファに,

異様身なり,異端の言動など,常軌を外れている,
自由放恣な行動をする,
ふざける,戯れる,

意から,

歌舞伎を演ずる,

意へとつながり,名詞化して,

歌舞伎,
歌舞妓,

と当て字することになる。この「歌舞伎」は,

「天正時代の流行語で、奇抜な身なりをする意の動詞「かぶ(傾)く」の連用形から」

とある(『広辞苑第5版』その他)。

ただ,この「かぶく」は,

「片向く」

ではなく,『大言海』には,

「頭(カブ)を活用せしむ(頭(かぶ)す(傾),頭(かぶ)る(被)同じ),まくらく(枕),かづらく(鬘)の例なり,頭重く,ウハカブキになる意より,傾く義となる」

とある。「うはかぶき(上傾き)」とは,

物の頭がちにて,傾くこと,

つまり,

頭でっかち,

であり,さらに,

派手で上っ調子なこと,

の意がある。この意が,

かぶきもの(傾者),

異様な風体をして大道を横行する軽佻浮薄の遊侠の徒,

を指すのにつながる。「かぶく」

には,

傾く,

つまり,

常軌を逸する,

意と,そこに,

自由奔放さ,

へのちょっとした憧憬も含意している。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:傾く
posted by Toshi at 05:14| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする