2019年02月02日

かぶく


「かぶく」は,「傾く」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463942949.html?1548965675)で触れたように,『大言海』は,

「頭(カブ)を活用せしむ(頭(かぶ)す(傾),頭(かぶ)る(被)同じ),まくらく(枕),かづらく(鬘)の例なり,頭重く,ウハカブキになる意より,傾く義となる」

とし,「うはかぶき(上傾き)」とは,

物の頭がちにて,傾くこと,

つまり,

頭でっかち,

であり,さらに,

派手で上っ調子なこと,

の意がある(『岩波古語辞典』)。この意が,

かぶきもの(傾者),

異様な風体をして大道を横行する軽佻浮薄の遊侠の徒,

を指すのにつながる。「かぶく」

には,

傾く,

つまり,

常軌を逸する,

意と,そこに,

自由奔放さ,

へのちょっとした憧憬も含意しているように思える。

「『かぶく』の『かぶ』は『頭』の古称といわれ、『頭を傾ける』が本来の意味であったが、頭を傾けるような行動という意味から『常識外れ』や『異様な風体』を表すようになった。」

とある(http://gogen-allguide.com/ka/kabuki.html)のは飛躍で,「傾く」自体に,

一定の基準(水平または垂直)から片方へそれる,

という意があり(『広辞苑第5版』),「かぶく」のもつ「傾く」意そのものに,

外れている,

という含意がある。

sharaku026_main.jpg

(東洲斎写楽 市川男女蔵の奴一平 寛政6年(1794年)5月河原崎座で上演された演目「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)」の「奴一平」を描いた作品 https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/items/sharaku026/より)

むしろ,

「かぶくとは、どっちかに偏って真っすぐではないさまをいい、そこから転じて、人生を斜(しゃ)に構えたような人、身形(みなり)や言動の風変わりな人、アウトロー的な人などを『かぶきもの』と呼んだ。」

というほうが正確である(http://www.nnn.co.jp/dainichi/rensai/kabuki/kabuki040111.html)。

で,そこから転じて,

「風体や行動が華美であることや,色めいた振る舞いなどをさすようになり,そのような身なり振る舞いをする者を『かぶき者』といい,時代の美意識を示す俗語として天正(1573~92年)頃流行した。」(仝上)

となる。「かぶき者(傾奇者、歌舞伎者とも表記)」は,

「戦国時代末期から江戸時代初期にかけての社会風潮。特に慶長から寛永年間(1596年~1643年)にかけて、江戸や京都などの都市部で流行した。異風を好み、派手な身なりをして、常識を逸脱した行動に走る者たちのこと。茶道や和歌などを好む者を数寄者と呼ぶが、数寄者よりさらに数寄に傾いた者と言う意味である。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8B%E3%81%B6%E3%81%8D%E8%80%85)。その風体は,

「当時男性の着物は浅黄や紺など非常に地味な色合いが普通だった。しかし、かぶき者は色鮮やかな女物の着物をマントのように羽織ったり、袴に動物皮をつぎはうなど常識を無視して非常に派手な服装を好んだ。他にも天鵞絨(ビロード)の襟や立髪や大髭、大額、鬢きり、茶筅髪、大きな刀や脇差、朱鞘、大鍔、大煙管などの異形・異様な風体が『かぶきたるさま』として流行した。」

という(仝上)織田信長も「かぶき者」といわれるだけの風体だったことになる。

これが,現代の歌舞伎となったのは,

「17世紀初頭,出雲大社の巫女『出雲の阿国(おくに)』と呼ばれた女性の踊りが,斬新で派手な風俗を取り込んでいたためも『かぶき踊り』と称されたことによる。」

という(仝上)。これは,

「その行動様式は侠客と呼ばれた無頼漢たちに、その美意識は歌舞伎という芸能の中に受け継がれていく。」

ことになる(仝上)。

『日本語源広辞典』は,「かぶき」の語源について,

「語源は,唐の時代の『仮婦戯(仮に女になる芝居)』で,中国語源です。通説は,『動詞カブクの連用形』ですが,疑問」

とする。しかし,唐代のものが,天正から,慶長にかけて流行った風体を「かぶき者」と呼んだ理由が,これでは説明が付かない気がする。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 05:25| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする