2019年02月05日
カビ
「カビ」は,
黴,
と当てるが,『大言海』は,「カビ」に,
黴,
殕,
の字を当てている。
黴(か)ぶるもの,
の意とする。「かぶれる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463986723.html?1549225818)で触れたように,『岩波古語辞典』は,動詞「かぶ(黴ぶ・上二 )」は,
「ほのかに芽生える意」
とする。さらに,
「かもす,醸の字也。麹や米をかびざせて酒に造る也」(源氏物語・千鳥抄)
「殕,賀布(かぶ),食上生白也」(和名抄)
を引く。『岩波古語辞典』がこれを引用したのは,
かぶ(黴),
と
かもす(醸),
との関連を示唆したかったからだろうか。現に,
「発酵する意のカモス(醸)の元のカム(醸)の異形カブ(醸)の連用形から名詞化したもの(語源辞典・植物篇=吉田金彦),
とする説もある。『岩波古語辞典』の「かむ(醸)」には,
「『かもす』の古語。もと米などを噛んでつくったことから」
とある。発酵と黴とが,
かぶ(黴),
と
かむ(醸す),
と同じであってもおかしくはない。
「バ行音(b)は鼻音のマ行音への転化,
はありる(『日本語の語源』)。ただ,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ka/kabi.html)は,
「発酵する意味の『カモス(醸す)』の元の形『カム(醸)』の異形が『カブ(醸)』で、発酵して カビが生えることを『カブ』といい、その連用形から名詞に転じたとする説が有力。」
としつつ,
「ただし、『古事記』の『葦牙の如く萌え騰る物に因りて』に見られる『牙』は『カビ』と読み、植物の芽を意味しており、『黴』と同源と考えられる。『牙』が『黴』と同源となると、『醸す』を語源とするのは難しい。」
とする。
動詞「かぶ(黴ぶ)」の名詞形が,
カビ,
だが,『岩波古語辞典』には,まず最初に,
芽,
の意があり,
「葦かびの如く萌え騰(あが)るもの」(古事記)
の用例が載るのは,上記の理由と思われる。この「芽」との関連で,「カビ」の語源を,
カは上の意。ヒは胎芽を意味するイヒの原語(日本古語大辞典=松岡静雄),
とする説もある。また『日本語源広辞典』も,
「カブ(膨れる・芽)」
とし,「かぶれる」と同源とする。『語源由来辞典』も,
「『牙』を考慮すると、毛が立って皮のように見えるところから『カハミ(皮見)』とする説(名言通)や『カ』は上を表し、『ヒ(ビ)は胎芽を意味する『イヒ』とする説(日本古語大辞典=松岡静雄)が有力」
とする。この他に,
カはア(上)の轉。密生して物の上を被ところから(国語の語根とその分類=大島正健),
キサビ(気錆)の義(日本語原学=林甕臣),
クサレフキから。クサの反カ。レは略。フキの約ヒ(和訓考),
ケフ(気生)の義(言元梯),
等々があるが,
かぶ(黴),
と
かもす(醸),
黴
と
麹,
とつながると見るのが妥当ではあるまいか。『大言海』は,「かうぢ(麹)」の項で,
「かびたち,かむだち,かうだち,かうぢと約転したる語」
としている。考えれば,「麹」も,
コウジカビ,
である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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