2019年02月06日
かもす
「かもす」は,
醸す,
と当てるが,古語は,
か(醸)む,
である(『岩波古語辞典』)。
「もと,米などを噛んで作ったことから」
らしい。『大言海』は,
「カム(醸)は,口で噛むという古代醸造法」
である(『日本語源広辞典』)が,当然「か(醸)む」は「か(噛)む」に由来する。『岩波古語辞典』には,「噛む」は,
「カム(醸)と同根」
とある。
「カム(噛む)はカム(嚼)に転義して食物を噛み砕くことをいう。米を噛んで酒をつくったことからカム(醸む)の語が生まれた。〈すすこりがカミし神酒にわれ酔ひにけり〉(古事記)。(中略)酒を造りこむことをカミナス(噛み成す)といったのがカミナス(醸み成す)に転義した。カミナスは,ミナ[m(in)a]の縮約で,カマス・カモス(醸す)になった」
という転訛のようである(『日本語の語源』)。しかし,
石臼で米をかみつぶして酒を造るところから(俚言集覧),
かびさせて作るところから(雅言考・和訓栞),
カアム(日編)の約。日数を定め量って造るという義(国語本義),
カメ(甕)で蒸すところから(本朝辞源=宇田甘冥),
等々の異説もある(『日本語源大辞典』)。
では,「こうじ」からみるとどうか。「こうじ」は,
麹,
糀,
と当てるが,「糀」は国字である。両者の区別は,意味上ないが,
「糀」 : 米を醸造して作った物
「麹」 : 大豆・麦を醸造して作った物
「こうじ」を醸造するための元になる菌(種)のことも「麹」の漢字を使用しています。
と,ある味噌屋のサイトでは区別していた(http://www.izuya.jp/daijiten/kouji-a_5.html)。
漢字側からは,「こうじ」は,
「麹子(きくし)がなまって,こうじとなり日本語化した」
とある(『漢字源』)。因みに「麹」(キク)の字は,
「会意兼形声。『麥+音符掬(キク 掬手でまるくにぎる)』の略体。ふかした麦や豆をまるくにぎったみそ玉」
である。
「応神天皇のころ朝鮮から須須許理(すずこり)という者が渡来して,酒蔵法を伝えて,麹カビを繁殖させることを伝えた」
とある(『たべもの語源辞典』)ので,この説に説得力がる。
しかし,『大言海』は,「かうぢ」(麹・糀,)の項で,
「カビタチ→カムダチ→カウダチ→カウヂと約転したる語」
とし,『日本語源広辞典』も,
「カビ+タチ」
とし,
「カビタチ→カムダチ→カウダチ→カウヂ→コウジの変化」
とする。『たべもの語源辞典』も,
「カムタチ(醸立)→カムチ→コウジ」
とし,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ko/kouji.html)も,平安時代の漢和辞書『類聚名義抄』の,
「麹 カムタチ カムダチ」
とあるとして,
「カビダチ(黴立)→カムダチ→カウダチ→カウヂ」
の音変化が有力としつつ,
「中世の古辞書では『カウジ』しか見られず,『ヂ』の仮名遣いが異なる点に疑問の声もある。」
とする。しかし,
かもす(醸す)の連用形「かもし」の変化(『語源由来辞典』),
カムシの転(語簏),
カウバシキチリ(香塵)の意から(和句解),
キクジン(麹塵)の転(日本釈名)
等々の異説もある(『日本語源大辞典』)。ただ,「かも(醸)す」という言葉があったのだから,それを表現する「麹」があったとみる見方ができる。ただ,物事を抽象化する語彙力をもたない,我々の和語から考えると,
麹子(きくし)→こうじ,
の転訛は捨てがたい。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95