「ところてん」は,
心太,
瓊脂,
と当てる。
「『心太(こころぶと)』をココロティと呼んだものの転か」
とある(『広辞苑第5版』)。『大言海』も,
「心太(ココロブト)を心太(ココロティ)と讀みたることより轉ず」
としている。ただ,これは,「心太」と当てた以降の転訛をいっているだけで,なぜ「心太」と当てたかはこれでは,わからない。
(『新文字絵づくし』(明和3年〈1766〉刊)よりhttps://edo-g.com/blog/2016/06/summer.html/summer20_mより)
そもそも「ところてんは」,
「テングサを煮 溶かす製法は遣唐使が持ち帰った」
とされる(http://gogen-allguide.com/to/tokoroten.html)が,
「中国から伝わったとされる。海草を煮たスープを放置したところ偶然にできた産物と考えられ、かなりの歴史があると思われる。」
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A8%E3%81%93%E3%82%8D%E3%81%A6%E3%82%93)。
「古く『和名類聚抄』(承平4年(934)頃成立。醍醐天皇第4皇女・勤子の依頼で作成した百科事典)にも読まれていますが、その語源はところてんの原料である天草(テンクサ)が煮るとドロドロに溶け、さめて煮こごる藻であるところから、こごる藻葉(コゴルモハ)と呼ばれ、これからできる製品を「ココロブト」と呼んでいました。」
とあり(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1213754542),
「和名で『凝海藻(こるもは)』といい,また『こごろも』ともいう。これを煮るとこごる(凝る)からである。コゴロモをココロブトと訛って,俗に心太の二字を用いて,室町時代にはココロブトを訛ってココロティ,それをさらに訛ってココロテン,これがさらに訛って江戸時代にはトコロテンとなった」
とある(『たべもの語源辞典』)。「こるもは」というのは,
「『十巻本和名抄-九』に,『大凝菜 楊氏漢語抄云大凝菜(古々呂布度)本朝式云凝海藻(古流藻毛波 俗用心太読与大凝菜同)』とあるように凝海藻で作った食品を平安時代にはコルモハといい,俗に心太の字をあてて,ココロフトと称していたのである。この『凝海藻』の文字は古くは大宝令の賦役令にあらわれる。」
とある(『日本語源大辞典』)。この「こころふと」が,室町時代,
「『七十一番職人歌合-七十一番』の「心太うり」の歌には,
「うらぼんのなかばの秋のよもすがら月にすますや我心てい(略)右は,うらぼんのよもすがら,心ぶとうることしかり。心ていきく心地す」
と,ココロティとある(仝上)。で,
コゴルモハ→コルモハ→コゴロモ→ココロブト→ココロフト→心太→ココロティ→ココロテン→トコロテン,
という転訛,ということになる。「心太」と当ててから,
「ココロフト→ココロタイ→ココロテイ→→ココロテン→トコロテン,
と訓みが転訛しているだけだから,そもそも「こころぶと」となった謂れが,問題になる「ココロブト」となったのは,
「『こころふと』の『こころ』は『凝る』が転じたもので,『ふと』は『太い海藻』を意味していると考えられている」
ものの未詳(http://gogen-allguide.com/to/tokoroten.html)とし,それに「心太」と当て,湯桶読みで「こころてい」と呼ばれるようになった,とする。湯桶読みとは,
「日本語における熟語の変則的な読み方の一つ。漢字2字の熟語の上の字を訓として、下の字を音として読む「湯桶」(ゆトウ)のような熟語の読みの総称」
をいう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%AF%E6%A1%B6%E8%AA%AD%E3%81%BF)。
『日本語源広辞典』は,
「凝る(コゴル・トゴル・音韻変化トゴォロル)+テン(天・てんぐさ)」
とする。『日本語の語源』は,独自に,
「煮て溶解した天草のことをトクルテングサ(溶くる天草)といったのが,ク・ルの母交(母韻交替)[uo],クサの脱落で,トコロテン(心太)になった」
とするが,トクルテングサからいきなりトコロテンは,歴史的に見て,飛躍が過ぎる気がするが,
「古くは正倉院の書物中に心天と記されていることから奈良時代にはすでにこころてんまたはところてんと呼ばれていたようである。」
とも言われるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A8%E3%81%93%E3%82%8D%E3%81%A6%E3%82%93)ので,なかなか難しい。
一応,
コゴルモハ→コルモハ→コゴロモ→ココロブト→ココロフト→心太→ココロティ→ココロテン→トコロテン,
という転訛になったとしておく。
(『絵本江戸爵(えどすずめ)』より 喜多川歌麿 画) https://edo-g.com/blog/2017/08/summer_gourmet.html/summer_gourmet20_lより)
江時代,暑さがやってくるころ「ところてん売り」が街中を歩いた,という。その売り声は、「ところてんや、てんや」。この売り声を,
心天(ところてん)売は一本ン半に呼び(『誹風柳多留』)
詠(よ)んだ川柳があるとか。ところてんを数えるのを1本、2本と言ったようで、呼び声が一度と半分であることをうがった句であるとか(https://www.web-nihongo.com/edo/ed_p042/)。
「幕末近くの上方生まれの喜多川守貞(きたがわもりさだ)は随筆『守貞謾稿(もりさだまんこう)』で、京都や大坂では砂糖をかけて食べ、ところてん1箇が1文(もん)で、江戸では白糖(精製した砂糖で贅沢品)か、醤油をかけて食べ、1箇が2文だと伝えている。今でも関西では、ところてんに甘い蜜をかけて食べるというが、江戸時代以来の食べ方である。」
という(仝上)江戸時代,「ところてんや」は,こんな売り声だったらしい。寅さんの口上である。
さあつきますぞ/\
音羽の滝のいとさくら
ちらちらおちるは星くだり
それ天上まてつきあげて
やんわりうけもち
すべるはしりもち
しだれ柳にしだれ梅
さきもそろうてきれぬをしようくわん
あいあい 只今 あげます/\
等々(https://www.benricho.org/Unchiku/edo-syokunin/11-kinseiryukosyonin/20.html)
(曲亭馬琴『近世流行商人狂哥絵図』「曲突心太売り(きょくづきところてんうり)」仝上)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95